第30話

 全身の身の毛がよだつとはどれだけの状況をいうのだろうか。それにへと巻き込まれてしまったのは恐ろしいくらいの現実となってしまったともいえる。

 恐怖心を煽ってくるのは死神の本領とでもつもりだろうか。それに耐えられる存在というのは決して多くはないと自覚しているのに。それでいられるのは自分であるともいうのは一度知ってしまえれば驕りにもなりかねない。

 何もかもと言い出してしまうのはたとえここにいるのが女三人である時点で何気にかなりの苦労を背負っていることに変わりない。大きな窓を壊されてそこから一気に攻撃を仕掛けられてしまっていたのはかなりの面倒を押し付けてしまったので非常に申し訳なくなる。

 明確に大鎌振り回してきているそれを相手に戦わされている時点で普通の女の子には苦労で済むはずもない。どれもこれもと寺野てらの燕衛えんえにとってどこまでも全力の命がけを強要してくる相手をするのが一番長く見てきた友人としては厭らしいとも感じさせてくる。

 ならばここで変わると宣言した以上は床に倒れ伏せようともそれに構っている余裕は………………それこそない。英砺えいれにとって偶発的に用意された戦場でも相手が強いからと、自らの命を差し出すことを認めてしまうわけにはいかない。

 負けたくはない。誰だって正直な気持ちで命あるものは死にたくないと喚くのは何もおかしなことではないと。それでもまだまだ生きているのならみっともなく喚くのはだらしないではないか。

「任せた。負けるつもりなら本気で怒るよ」

 出血ばかりの傷だらけになってしまった寺野てらの燕衛えんえが力なく倒れてしまうことになる。それが冷たい床にへと落ちてしまう前に動いていってしっかりと受け止めていく。後ろからとなるので何気にこれって回り込んでいるので凄いと褒められておかしくはない動き方である。凄いというよりは速くて見えなかったというのかそれともなんて気持ち悪い動きなんだとも言われてしまうかもしれない。

 それくらいにはへんてこな動きである。為してこうなったのか。落ち着きがないだけかもしれんが

「わかっている。あれを倒すことが出来るなんてそんな他人がいるなら私に教えて欲しいんだけれど。せめて逃げ切ることだけでも叶えることが出来ればいいなぁなんて思ってしまったり………………」

(さてはこいつなんも考えてねぇな)

 どこか他人を信じていないような目を英砺えいれへと向けていた寺野てらの燕衛えんえであったのだ。彼女が想像しているのはこれから起こるのが目の前にいる死神にへと英砺えいれが走り出していってそのまま首を構えられていた大鎌で刈り取られてしまうだけともいうこと。

 具体的な描写まで想像してしまったら思わず鼻で笑ってしまう。何気にすごく凄くシュールで面白いんだけれど。

「ぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ」

「ちょっと笑い過ぎだって。少しは落ち着いて呼吸を整えた方がいいんじゃない」

 もう友人がこの状態となってしまっているのを眺めているのはかなりの苦痛であるものだとも英砺えいれはとことんまで理解させられる。壁にへと寄りかからせていくことをしていってその笑いというのを止めようと一芸をする。それはただの猫騙しである。彼女の目の前にて両手を叩いてみればびっくりした様子であり目を見開いていた。

「何すんのよ。びっくりさせてもらってもこっちだって出るところでてやりゅから」

「出るところってどこよ。そんなのをいうよりも自分の舌が廻っていないのを自覚するべきですよ。お願いだから落ち着いてくれって」

 本当に落ち着いてはくれていないらしいのか。ゆっくりと深呼吸をしてみればそれで何とか落ち着いた様子であるためにこれは英砺えいれだって安心を憶えるものだから。

「………………………………それでさぁ、おかしいと思うことがあるんだけれど」

「いったいどうした?心配事があるなら共有しておくべきだと思うから早く言ってくれって。そうでなければ一瞬のことが命取りになってしまうわよ。手遅れになる前に早くッ」

「そこにいた死神って一体どこに消えたのかしらねぇ」

 随分と呑気な声で、調子で言いやがった寺野てらの燕衛えんえである。そちらにへと振り向いてしまえばそこにあった景色なんていうのはそこまでおかしなことではない。

 人っ子一人いない景色の広がっているショッピングモールの通路の一つであったのだ。何でこうなったのかと言われてしまえば言葉なんて必要ない。

 深刻なことに誰もいなくなってしまっているのは夢の世界なのかと思わせてくれるのだ。あれだけ宙に浮いて死神然としていた姿をしているあの誰かさんがここから居なくなってしまったのにはふつうは喜ぶべきなのだろうが。

 残念ながらもそんな風には居られないのがここにいる三人だ。そして他の二人の誰よりも心配事を起こしてしまっているのがトイレの花子さんである。本当に彼女が誰なのかなんてその他の二人にはっきりと理解は出来ていない。

 なのに心配してついてきているのをどうにか注目を浴びないようにと配慮しているのは互いに出来ているとしか言いようがないのか。こうまで何とかやっているのは凄いとしか、女三人寄れば姦しいともいうが自然と静かにいられるのは完璧まで成り立つのが完成されているかも知れない。

「もしかしてさっきの人の元にへと追いかけていったのかも………………それであればどうしたら」

「「よし、確認していきますか」」

 花子さんの発言からしてそれを聞いた寺野てらの燕衛えんえ英砺えいれの二人は意見の揃って声を上げることをしていた。それでパチクリと眼を開いて閉じたりとしていた状態か。

「ねぇ、それって………………もしかしてアンタがいうとさぁただの善意でいっているようには思えないんだけれど。アンタがこの極限状態でマトモなことを考えているとは思ないから話の内容をあたしにも分かるように聞かせて欲しいのだけれど」

 寺野てらの燕衛えんえからのこの言葉を聞いてしまえばそれは英砺えいれだっても話を整えていくことをしなければいけない。だってその理由なんていうのは特に詰められていないから。

 あぁそうか。だったらその正直な気持ちを言えばいいのか。

「いやぁ、分からないことがあるのは凄く不安になってしまうのは人間として特に間違った判断とは言えないでしょう。私だってもあの死神の前にへと立つのは怖いわよ全くそれくらい。でも、それでも貴方に一度は押し付けてしまったことを考えればどうしても申し訳ないとも思う。だったら、私だってあなたに一人で任せてしまったその立場をやってみたい。それが私の正直な気持ち。何か問題あるかしら。問題があるなんていうのならこの場で殴り倒してみなさいよッ‼」

 思いっきり胸に手を当てて寺野てらの燕衛えんえにへとこの明確なはっきりとしたこの自信を持った声で叫んでいく。これが私の全力だともいうつもりで。

 これくらい強気でなければ恐らくはこの世界観で生きてはいけないのだろう。そんな風にも思ってしまったのが寺野てらの燕衛えんえである。だからこそ、これには大真面目に答えていかなければいけない。

「薬価まし言ってえぇのっ‼」

「舌が廻っていないってえぇのッ⁉」

 もうお互いにおかしくなってしまっている状態だ。一撃殴られてしまえばそれには全く以てびっくりしてしまった英砺えいれである。ゴンッっという鈍い音を響かせて大きく吹っ飛んでいってしまった英砺えいれとそれを眺めている花子さん。

 飛んでいったら壁にまでぶつかるまで止まってはくれなかった。その直後にて起き上がっていこうとする。だがどうしても呼吸がちょいとうまくいかなくてゲホゲホと咳き込んでしまう。痰が絡まってしまって辛い。これも年のせいかなぁとも思ってしまったが、自分の年齢を数えたらそこまで言われるくらいの年には明らかに到達していないことを思いだす。

「楽しそうだなぁ。私も参加したいなぁ」

「「やめておけって。これを羨まし気に見る理由なんてないからね。どう頑張ってもいいことなんてなかから」」

 本当に深刻な表情で、鬼気迫る顔で花子さん(仮)にへと迫っていっていた寺野てらの燕衛えんえ英砺えいれの二人であった。お互いに顔を見合わせてみればそれで頷いていくのだからこれだけは一切の妥協も相違もない全く同じ意見であるというのが分かってすごく安心した。

 あぁそうだ。これだけの無垢な少女をふざけた空間にまで送り付けてしまうわけにもいかないから。なんでこんなやり取りをみて参加したいなんて思うのか非常に理解を苦しんでしまう。

 そこまでいけば大体思いついた考えなんていうのは出てくるものだ。わかりやすい誰だって納得してくれることが。………………いいや納得なんていうのはかなり難しいのではないだろうかなぁ。

((こんな………………………………虐待されているのをみて、される側になりたいなんて思う子供なんているわけもないでしょうし))

 大体考えていることすら同じなためによっぽど似た者同士となるわけか。面白く笑えてくる。そしてしばらくしてやっぱりこれは不味いなぁと深刻な表情となる。

「じゃあ皆で行きますか」

「「オ――――‼」」

 何故か音頭を取ったのが花子さん(仮)なのが不思議だ。どうやらこのやり取りが醜いとでも思ったのだろう。すいませんでした。

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