第12話

 誰かを撃ち抜いていくというのは中々の覚悟がいるのだろうか。それでなくても他者の生命を奪い取っていく行為はそれだけの責任を負うからして。

 だとしてもそれを意に返さない者だって多くいるだろう。であれば全力で自身の精神をすり減らす生き方だってそれくらいでなければ実行には届くまでにはならないわけか。やってはいけないというのであれば全力でやりたくなるのが衝動ということ。

 他者を滅ぼしてしまうのは覚悟などイラナイ。殺意すら必要ない。殺害ならば作業の感覚で罪悪感を持たないようにしていくことは、その手段としてはあらゆる方法がマニュアルとして界隈には知られている。

 例えば、何もかもをねじ伏せる自暴自棄な考えを以て戦場を転々としていくのは難しいわけでもない。だがそれは命を奪い取るのが目的となってしまった場合にも含まれる。

 だからこそ、それは生きている価値はそこにあると言われても戦う手段がある以上は足搔いていくしかない。というわけがないだろう。誰も彼もを戦争に搔き立てるこの衝動は気軽に停められるわけもなく。

 戦争をやめられないわけではないはずだ。ただこれ以外の手段というのを持ち合わせていないだけ。誰も教えてはくれなかった。ずっとたった一人で生きてきただけである。

 あぁ決してたった一人なんていえるわけでもないか。兄弟二人で生きてきたんだから更にこれ以上を望むのはおかしな話だ。

「だから自分たち以外の他人を殺害するのに今更の忌避感もない。これでくたばったからって別に自分たちに関係をしているわけでもあるまいし」

 目の前にて起こった爆発というのは相応に凄まじいものであった。まさか一発の弾丸によって貫かれた直後に反応を示してきたのが物騒なこと。どういう神経をしていたら理性的な表情をしながら割り切った狂気ともいえる行動をしでかしてくるとは誰も思いはしなかっただろう。

 だが我々は目の前で実際にそれをやられてしまった。咄嗟に身体が動いてくれたのが幸いしている。そうでなかったら周囲に置いていた荷物の方が消し飛んでいた可能性というのが非常に高い。

 これは自分たちは容易く滅びるほど脆弱なはずでもないというだけ。だとしても爆発からはかなりの距離を取っていた時点で威力は物騒なことこの上ない。

 こんなことを考えながらも使用したライフルの分解作業に入っていく。別にこれはおかしなことではない。こうでもしなければここら周辺のビル内部を通していくのが苦労するというだけ。強引にでも持っていけるが曲芸かというくらいには作業の速度と精度を丁寧にこなしているのでこの方が素直に進んでくれるというだけ。

「まぁな。これでもマトモに対象を見ていなければ命を奪われてしまうのも心苦しい光景を直視しなくていいから。誰かの命をというのであれば責任も何もかもを負う気はない。無責任と罵られても変わりはしないから人間というのは」

 どうやら兄貴はよっぽど振り切れてしまったらしい。大空に打ち上がった誰かを撃ち抜いてこれか。

「なんだっていいさ。それでも仕事は終わった。注文通りにこなしてみれば気軽に終わった。だったらもう帰るしかないんじゃないのか兄貴」

 そして荷物を抱えてこの場から去ろうとしていく。そこでどうにか頭が急に重く感じていたので下げていくことをした。

 そこで起こるのは頭があった場所を通り過ぎていく弾丸というだけ。どこからの攻撃なのだろうか。思い当たることなんていえば今しがた撃ち抜いた誰かとの付き合いのある者であるのか。確かに自分の周辺に敵が増えてしまうのは危機感を煽ってくること。

 確かに対象を撃破した直後というのは油断をしがちではあるが、それで実際に運がよかったとしか言いようがない回避方法をしてきた事実もある。だとしても今の攻撃がどこから飛んできたのかその方向を向いてみれば誰もいないのだ。

(追撃がない?だったら感情による一瞬の事ではないのか。それともせめてもの嫌がらせだけでもということだろうか。だとしてもこれを誰かというのが影も形もないのが気になって仕方のない。だって普通では想像もつかない異能でも使用したのであればまた違うのであろうが)

 そんな影すらも見つからないのはどう足搔いても勝てる望みが想像もつかない。本当にそんなのがいるとしたらではあるのだが。

 それでその想像があっているということを目にする。まさかここで兄貴が自身の頭蓋骨にへと向けて護身用の拳銃を突き付けているのだ。これが一体何を示しているのかすらも気軽に想像もつかない。仮にもではなく身内に知らない行動をされてしまうのがこれほどまでに胸を恐怖で制圧して滅ぼしてくるだけの威力をあった。

 まぁそれも気合も何もかもを有していないことが前提である。そしてまさかこれだけの人生を過ごしてきた人格を舐めて貰っても困る。

「いきなり何をしてんだよッ⁉どこで生きる希望を失っているのかせめて知らん場所でやってくれよッ!」

 そしてどうにか突き付けていたその手を頭から引き剥がそうと頑張っていこうとするのがあった。だとしてもこれだけにかなりの力を以てどうにかやっても動いてくれないのが怖い。強情な兄貴がここまでくれば怖い。びくともしてくれないというのは流石にありえなくないか。

「別にお前の見ていない場所でやっていればずっと探してしまうだろう。天涯孤独となるのは寂しいだろうからな。いいお嫁さんを手にれるんだぞ。じゃあな」

 ここでもうこちらの限界を迎えてしまった。振りほどかれたその衝撃で吹き飛ばされてしまう。その途中では腕が思いっきり当たってしまいこれでもう大きく頭が揺さぶられてしまう。

 ビルから突き落とされてしまえばそこからどこに向かうのか。簡単にいえば地上のアスファルト舗装である。そこに人ひとり落ちればその形にへと痕が出来上がると思うのであれば間違いである………………か?血痕であれば乗って出来上がって仕方ないだろうが穴が掘れるのかといえばまた違う話になる。

 その周囲にあるのば恐ろしいくらいには群がっている蟷螂の集団であるのか。どうしてこんな連中がいるのかその疑問というのは浮かばない。とはいわないがなぁ。

 聞いたことがある。ここら周辺にいるのであれば気を付けておいてくれとは依頼の際に忠告はされていた。だがそれにしてもどうしてこのビルの元にまでやってきているのかとの疑問はあるのだ。為してこの場に集まってきているのか。そういえば詳しい理由も聞いていなかったのが今更ながらに怖くなってくる。

(まさか兄貴がおかしな行動をしていたのも関係あるのか。別に想定していた訳でもないのだが………………騙されていたとか切り捨てられてられてしまったとかいう理由であるのなら自分たちが情けなく感じる。

 それと同時に何もかもが好きに出来るとは思わないことだ。決して誰もが望むのが己の支配というのは嘘でしかない。この程度の怪物の集団を相手にするだけであればいくらでもしてやれる。

「さてと、全力をだしていく理由もないか。全力でとは言わなくとも逃げるだけであれば気楽に進んであのバカ兄貴を殴り飛ばしてからだなぁ」

 そして飛んできてしまうのは蟷螂らしい腕についていた大鎌がこちらの首元を刈り取るが如く行ってきた者である。それを容易く回避していくのが自分たちの経験からしてなることだ。

 その大鎌というのが後ろからであったのだが前転をして下から蹴りを放っていく。

 この勢いのままにアスファルト舗装にへと向けて叩きつけてしまうのであれば大鎌というのは刃物がひびが入ってしまい衝撃で切れ味が落ちてしまうことになる。

 二足歩行の怪物というのが堅い地面にへと押し付けられてしまえば身体中に痛みが走ってしまうのでバタバタと藻掻いていくのが見える。そして吹っ飛んでくるのが大鎌の剣閃である。

 これの回避のために大きく高くジャンプをする。そこで目線を上げれば遮蔽物もない空間であれば狙われてしまうのが常ということか。周囲に散らばっている蟷螂の怪物の集団というのがこちらにへと射程を確認するかの如く目線を合わせていた。そして大きく大鎌を構えて先ほどと同様の斬撃を放ってくるらしい。

 対応などというのは難しい。常人には視認することなど出来るわけもなくやられてしまうというのに。でもだったら。ここで腰のホルスターから拳銃を引き抜いていくことをしてその大鎌の刃部分にへと弾丸を押し当てていった。

 それでどうにか向きというのも僅かに変わってくれたらしい。地上に落ちてきた際には掠り傷くらいは受けてしまったのが残っているが動きには支障ない。

 更にここからナイフを引き抜いていって蟷螂みたいなここらの怪物の内の一体に拳を押し当ててみる。

(頑丈な体の造りをしているらしい。だが別に攻撃が通らないほど硬くなっているとは言わない。ボチボチの気合を込めればなんとでもなる)

 そしてその握ったナイフを蟷螂の胸にへと突き刺していってそこから全力で引き裂いていくことをする。確かに攻撃が通ることを確認すればその肉塊からからすぐさま引き抜いていく。その直後に降ってくる他者の命を刈り取る大鎌か。だがこの大鎌というのは自分にとっちゃぁもう今更ながらに慣れたものである。

 ナイフでその大鎌を弾いていれば腕の関節部分が見えてくる。その腕を掴みかかり握った。その瞬間にて膝を飛ばしていけばその肘をへし折っていくにも成功した。

 周囲にへと集まっている怪物の軍団というのがどこまでも悍ましい。どこかしらこの蟷螂が通常の大きさをしていたのだ。言葉を失ってしまう。もうこれであれば限られた方法となるか。手元にあった拳銃で目の前にあった木箱というのを撃ち抜いてみせた。にもそこから火が点いてしまうことになる。その灯に群がっていく蟲というのが哀れに思えて仕方ない。

 この周囲にへといた蟷螂の怪物が確かに多く集まってきていた。その連中は全て虫の息といったくらいか。

「所詮はその枠に収まるだけかなぁ。ここらで見限った方が都合がいいかも知れねぇなぁ。ただの殴り合いやパワーによるナイフであればそうなるのは知っていた。その後に来るのに対応できるのかという話だ」

 さて、この光景を観ている誰かというのは今現在どこにいるのだろうか。

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