魔剣さんは使われたい。

井口カコイ

魔剣さんは使われたい。

 クク、ククク……

 遂に来たか……

 我が力を必要とするものが。

 最強にして最凶の我が力。

 どんな勇者が、どんな猛者が、はたまたどんな狂者が我が力を使いこなせるというのか。

 ククク……存分に楽しませてもらおう……

「ここが最深界……なんとおぞましい」

 おぉ、来た、来たー!

「こんな所に暗黒騎士だけが使える魔剣があるのか」

 こんな所って、まぁいい。

 よし。この無礼者に魔剣とは、いかに凄絶で凶暴で理解不能な存在であるかを教えてやろう。

「我が眠りを妨げるものは誰か?」

「魔剣よ! 我が望みのため、その力を貸せ」

 いいじゃないか、すごくいい。

 きちんと暗黒騎士やってる……感動だ。

「人間風情が我が力を使おうというか……」

 いい感じだ。

 もう少し、もう少し。

「不遜な輩よ、我が力を望むなら汝の闇を見せてみよ」

「汝の闇……?」

 逃げるなよ?

 頼むから逃げるなよ。お前の分身とタイマンするだけだ。

 ここまで来たヤツなら、勝てるんだ。

 た、多分だが……

「げっ! もしかして自分の分身とタイマンするパターンか!?」

 今、コイツ『げっ!』って言いやがった。

 マズい。

 非常にマズいかもしれん。

「だから、みんな最深界までは入って来れなかったのかぁ」

 おい、びびるな!

 及び腰やめろ!

 くそっ!

 それなら攻めの姿勢だ。

 有無を言わさず、畳み掛けてやる。

「覚悟はいいか?」

「ちょっと待った。仲間と相談する」

「いやいやいや、早く覚悟決めろ!」

「え?」

 この鈍感そうな阿呆をここから出したらダメな予感がビンビンする。

 我の魔剣勘がそう言ってる。

 何とか、何とか言いくるめねば。

「あー。いや、その、迷うなって。迷ってる間にも、えーっと」

「だって、仲間との都合もあるじゃん」

 このくそ、コイツ……

「大事なことは仲間としっかり話し合わないと」

 暗黒騎士のくせに良識持ちやがって

「オイ、お前! 暗黒騎士でここまで来といて戦わん選択ないやろがい!」

「ここに来るまで大変だったんだから負けたら仲間に申し訳ないだろ?」

「ここまで来たお前なら勝てるって! 大丈夫! 諦めんなよ!」

「えぇードン引きするほど必死な魔剣だなぁ」

「暗黒騎士ってそもそも少ねーんだよ。ここまで来たヤツを逃がせるかってんだ」

「魔剣……思ってたのと全然違うなぁ」

 あっ、やべぇ。

 いかに凄絶で凶暴で理解不能な存在であるかを教えてやろうとしてたのに、どうしてこうなった。

 いかん。必死になりすぎるな!

 威厳持てよ、我!

 威厳見せろよ、我!

「お、己の闇に向き合えぬものに我は使いこなせぬぞ」

「そんなこと言われても大事なことはみんなと決めたいし、てか何より自分弱いし」

「暗黒騎士が弱いわけないだろ!」

「いや、暗黒騎士は弱いよ」

「防衛も攻撃も出来て、体力が減れば減るほど強くなるとか強い上にロマンありすぎるだろ」

「ロマンで仲間を危険に晒せないでしょ」

「暗黒騎士なのにいいヤツかよ」

「性格とジョブは関係ないし、自分より強い仲間を優先した方がいいと思うんだよ」

「お、おぉ……何だかお前の仲間もいいヤツそうだな」

「でしょ? だから、無理して自分を優先する必要はないと思ってんの」

「なるほど……って、いや待て待て待て。お前、気づかんの?」

「何が?」

「お前の防具街売り最強だぞ」

「でも、剣は勇者のお下がりだし、何だか無茶苦茶な装備に見えるけど」

「十分すぎるほどの剣だし、その腕装備は防御力は少し下がるが命中率が上がるから丁度いいんだわ」

「そうなんだ。この腕装備ちょっとダサいなぁとか思ってたんだけど」

「しかも、そのペンダントに頭装備の鉢巻は我の考えた暗黒騎士究極装備と完全に解釈一致ぞ」

「マジかぁ……。でも、鉢巻って暗黒騎士っぽくないよなぁ」

 自分で弱い宣言しといて、見た目気にしてんじゃねえよ。

「そもそもだな。ここに来るまでが大変過ぎただろ」

「マジで本当に大変だった。うえぇ、思い出したくない。ガチでみんなに申し訳ない」

「わざわざこんな所まで一緒に来てくれる仲間だぞ。我という魔剣を使って欲しいに決まってるだろ」

「みんな優しいから付き合ってくれただけじゃない?」

 何だコイツ、天然か?

「優しいだけでそこまで付き合ってくれる仲間いねぇよ。そもそも暗黒騎士になるだけでもめちゃくちゃ手間だったろ!?」

「確かに。騎士、戦士、黒魔術師のジョブのレベルを上げてー、あぁ魔術戦士のジョブも大変だったなぁ」

「盗賊もあるぞ」

「そうだったそうだった。ありがと」

 そうだよ。これ、なんだよ。

 暗黒騎士になるにはかなりの根気が必要なんだよなぁ。

「ていうか、お前よく盗賊なんて出来たな」

「あー盗賊ね……結構キツかったよ。不器用だし盗みとかちょっと気が引けるし」

「お前、人良さそうだしな」

 この良識派暗黒騎士が盗賊やってんのは想像つかねぇわ。

 んで、悪属性でもぜってぇいいヤツだわ。

「でも、暗黒騎士になるためにこんだけやったんだ。たいしたもんだ」

「えへへ」

「照れるなよ。気色悪い」

 それにしてもコイツバカだけど、いいヤツっぽいし、根性もある。

「ってか、何でお前みたいなのが暗黒騎士なんて選んだの? 不遇ジョブだろ」

「この魔剣、ついに自分で暗黒騎士は不遇とか言い出したよ」

「うるせーよ! 我はお前の何倍も暗黒騎士の辛さ知ってんだよ」

「何で魔剣がそんなこと知ってんの?」

「誰もここに来ねーからだよ!」

「そうだったんだ……ごめん」

「……許すよ、我魔剣だし。で、何で暗黒騎士になったん?」

「やっぱり暗黒騎士ってかっこいいじゃん」

「だろ! 暗黒騎士かっこいいだろ!」

 わかってるじゃないか。

 コイツ、一番大切なことをわかってるじゃないか。

 わかってるからこそ、もやっとするわ。

「勇者も、他のみんなも暗黒騎士にしかできないことがたくさんあるって応援してくれたしさ」

 しかも、暗黒騎士への理解がある仲間だ。

 我、コイツは置いといて、コイツの仲間は好きになってきた。

「ん? その顔はまだ何かあるな?」

「これは、初対面の魔剣に言うのはちょっと」

「魔剣にだからこそ言えよ。己の闇と向き合えよ」

「急にそれっぽいこと言うなよ」

「いいじゃないか。己の闇ってよ」

「めんどくさい魔剣だなぁ」

 今、我のこと『めんどくさい』って言わなかった?

「いいよ、言うよ。自分と女勇者は幼馴染なんだ。勇者はいいやつだし尊敬してるし、力になりたいんだよ」

「幼馴染、尊敬、力になりたいねぇ」

 ふーん、ほーん。

「その反応何か腹立つな」

「我、魔剣だし。で、力になりたいなら早く我持ってけよ」

「基本控えの自分が出しゃばるのは何だかなぁって思って」

「は? お前、控えなの?」

「恥ずかしながら。勇者は前に出そうとしてくれるけど、他の仲間がすごく守ってくれて、暗黒騎士の名折れだよ」

「ふむ。暗黒騎士が使えないのにここまで連れてきてくれたり、装備を整えたりとしてくれるのに控えか」

 ふーむ。

 何か変だな。

 ここまでするってことは勇者はよほどの暗黒騎士愛好家。

 もしくは、かなりの変人だ。

 まぁコイツの幼馴染なら変人説はありうるが。

 あと、コイツの仲間もいいヤツっぽいし、万年控えはないと思うんだが。

「話聞いてると勇者はお前をやたらえこひいきしてくれてるが、優しい仲間は何も言わないのか?」

「特に言われたことはないよ。基本控えだし、雑用とか一通りやってるからかな?」

「お前、鈍感そうだし陰で何か言われてるかもしれないぞ」

「あっ! もしかして自分と勇者がいると離れていってニコニコしてるのはそういうことだったのか……」

「それだよ! 馬鹿ァ!!」

「やっぱり陰口言われてたのか」

「ちげーよ! お前たちのイチャイチャを見て喜んでたんだよ! くっそいい仲間じゃねぇか」

「イチャイチャって」

「あとな、多分勇者はお前と一緒に戦いたいんだろうが、暗黒騎士は死にやすいから仲間たちがしっかり守ってくれてたんだぞ」

「みんな、優しすぎる……大好きだ」

「勇者の態度、仲間たちの接し方。ここまで来たらお前だってわかるだろ?」

「エェー、ナンダロウナー」

 ここまできて、この阿呆は……

「お前、勇者のこと好きだろ」

「ぐっ!」

 言ってやった! 言ってやった!

 魔剣らしく、単刀直入に言ってやったぞ。

「すすす好きっていうか、勇者とはながぁーい付き合いだし、いつも優しいし一生懸命だから、まぁ命をかけてでも守らせてほしいというくらいで」

「それを好きっていうんだよ!」

「勇者は誰にだって優しいから」

「だからァ! もう一回言うぞ。優しいだけで暗黒騎士をパーティーにいれるか? こんな所に来るか? 本当にわかんねぇのか?」

「うーん、どうかなぁ。ときどき、いい雰囲気かなーって思うこともあるけど。勘違いだと恥ずかしいし」

「お前の謎のエゴの強さはちょっと暗黒騎士に向いてるわ」

「そっかぁ。勇者も自分のこと気になってくれてるのかぁ」

「あぁ勇者は間違いなくお前のことが大好きだ。しかも、パーティー公認だ」

「魔剣……ありがとう。自分にちょっと自信がついたよ」

「そいつはよかった。わかったらさっさと我を持っていけ」

「はい、はい」

 何だこの気持ちは。

 ようやく、ここを出て我が力を存分に見せられるというのにこの複雑な気持ちは何だ。

 我、これでいいのか?

「じゃあ、スポッとな」

 我、これからコイツとずっと一緒にいるのか。

 しかも、コイツと勇者のイチャイチャも見せつけられるのか。

「あれ? そういえば自分とタイマンする必要あったんじゃなかったっけ?」

「もうさ、お前は自分とすげぇタイマンしてたよ! お前は立派な暗黒騎士だよ」

「なんだか魔剣って思ってたより、すげーいいやつだな」

「うるせーよ! 魔剣舐めんな!」

 はぁ、まぁコイツ変だけど悪いヤツじゃなさそうだし、チョロそうだしいいか。

 今は控えかもしれんが、我の力を持ってすればレギュラー確定だろ。

「よし、魔剣! 自分決めたよ!」

「はいはい、何を?」

「この戦いが終わったら勇者に告白するよ!」

「おい、やめろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔剣さんは使われたい。 井口カコイ @ig_yositosi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画