マリオネット・ロンド
有馬 夕弦
第1話
都内某所。薄暗い路地裏でその二人はひっそりとそこを営んでいた。
古いビルの扉には『異能に関するトラブルならウチにおまかせ!』と刻まれた札が掛けられている。
ここは異能に関するトラブルをなんでも解決する、いわば何でも屋だ。そしてそこを営んでいるのは二人の少年だった。
この世界には二種類の人間が存在する。そのほとんどは普通の異能を持たない人間だが、ごく稀に異能を持った人間が生まれる。
異能とは所謂特殊能力的なもので、物体の時を戻す異能や触れるだけでどんな鍵も解錠できる異能なども存在する。異能力者のほとんどは一つしか異能を持っていないが、稀に二つ異能を持った人間も存在する。そして未だ確認されたことはないが、一人で三つの異能を持つ人間がいる。という噂もある。
そしてこの二人の少年もまた、異能を持つ異能力者だった。
紫がかった黒髪の見た目は十五歳程度の少年の異能は瞬間移動。自分や周りの物を指定した場所に移動させることができる。
そしてどこかの高校の制服と思われるズボンとシャツにフルジップパーカーのフードを目深に被った少年がいる。その少年の異能は水分の操作。水を扱い、氷などを操ることもできる。だが彼の一番の武器はそれではない。彼の武器は左手に携えた一本の刀。華奢だが、その刀は明らかに普通の刀とは違う、怪しい輝きを放っていた。。その刀は妖の力を宿した妖刀なのだ。
「シロ、そろそろ時間だよ」
背の低い黒髪の子供が傍らにいる彼より少し背の高い青年にそう声をかけた。
「わかってる。お前も早く準備しろ」
シロと呼ばれたその青年は刀を持ち、立ち上がってそう言った。
黒髪の少年、クロは傍に掛けていた薄い外套を手に取って羽織ると、「行くよ」とシロに向かって手を差し出した。
「ああ」
そう言ってシロはクロの手を取った。その瞬間、彼らの姿は事務所内から掻き消えた。
「なぁ。俺、依頼内容聞かされてないんだが」
俺たちの姿は、平日の昼間だと言うのに人の多いスクランブル交差点にあった。彼らは人の波に沿って進んでいく。
「あれ?言ってなかったっけ?」
「聞いてねぇよアホ」
俺の口から放たれた暴言を無視してクロは話を続けた。
「今日も話を聞くだけなんだけどね。事前に聞いた話によると、『怪奇現象』らしいよ」
「怪奇現象ぅ?」
その言葉に俺は眉をひそめた。その時、そのフードの隙間からはらりと白い髪が覗いた。
「そう、怪奇現象。所謂ポルターガイストってやつだね。夜中に家の家具家電がひとりでに動き回るらしいよ」
「オカルトじみた話だな。お前は心霊現象だなんて思っちゃいねぇだろうけど」
「シロに言われたくないと思うけどね。まぁでも、そうだね。何らかの異能が絡んでると僕は思うよ」
「うるせぇ、俺は幽霊でもなんでもねぇよ。お前が一番わかってんだろ、クロ」
俺は軽くクロを睨んだ。
「そう、だね」
それに対して妙に歯切れの悪いクロ。うつむき加減になってしまう。
「そんな顔すんじゃねぇよ。お前、まだ自分のこと責めてんのか」
するとクロは軽く首を左右に振った。
「そうじゃないよ。でも、やっぱり何年経とうと思い出すんだ。あの日のこと、シロが生まれた日のこと、全部覚えているんだよ」
「……忘れろとは言わねぇ。いや、忘れんな。絶対に。だが、俺はお前を恨んじゃいない。だから…背負って生きてけ」
俺のその言葉は、それでもクロに重くのしかかる。だが、その表情はそれまでとは全く違っていた。
「ったく。とっとと行くぞ」
クロに背を向け、俺はスタスタと先に進む。慌ててその背中を追うクロ。
「ここか?」
俺たちが行き着いた先は小さいが綺麗な一軒家だった。
「うん。依頼人はこの家の所有者、ここに住む家族の父親だね」
「ふぅん。父親、ねぇ…」
フードの奥から金色の瞳を覗かせ、俺はその一軒家を見つめた。そんな俺を見て何を思ったのかクロは自分の胸を押さえた。
「…行こう、シロ。依頼人が待ってるよ」
「あぁ」
俺は目を伏せ、フードを目深に被り直しクロに続いた。
その一軒家の玄関前に並び立ち、クロがインターホンを鳴らす。すると、すぐに背の低い女性が玄関から顔を出した。
「あら。お父さーん、お客様ですよー」
その女性は彼らを見るなり家主である自身の夫を呼んだ。クロが事前に一度訪問していたからだろう。
俺たちが家を訪ねたタイミングが少し悪かった様で、家主は丁度仕事の電話中だった。
なのでリビングのソファに腰掛け、依頼人を待つことにした。
生活感のある普通の一軒家の普通のリビング。子供がいるのだろう、小さなプラスチック製のジャングルジムや視線を少し動かすと可愛らしい赤色のランドセルが見える。
「お待たせしまして、大変申し訳ございません」
数分経って、そう言いながら階段を降りてきたのは背の高い男性。百六十四センチある俺よりも十センチほど背の高いその男性こそ、この家の家主であり今回の依頼人だった。
俺たちは立って依頼人に向かって一礼した。
「こんにちは、お邪魔しております」
クロがそう言うと、家主は座るように促した。
「それでは再度依頼内容を確認させていただきます」
「はい」
クロの真面目な姿を俺は少し物珍しい目で見ていた。
「今回の件、僕たち二人とも異能によるものだと考えています。実際の現場をこの目で見たわけではないので断言は出来ませんが、幽霊なんて非科学的なもの、いるわけがありませんから」
僕も科学者の端くれですからね。と言い足して、クロは少し笑った。
その姿に俺は少し、胸が痛んだ。
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