第4話 冒険者の特権

「今回は依頼を受けて頂き、ありがとうございます! わたくし、このヨムルとアングルをメインに活動している商人で、アルバート・ギーノと申します!」

「は、はい……Gランク冒険者の、ヴィオラといいます」

「同じく、Gランクのハヤトだ」


 少し痩せ細ったニコニコ笑顔の男性に手を掴まれながら挨拶され、ヴィオラはちょっと引き気味に答えた。

 ヴィオラがGランクと答えた瞬間に、アルバートと名乗った男の眉がピクリと反応したが、そんなものは全く表情に出さずに彼は再びペコペコと頭を下げ始めた。腰が低い、と言えば聞こえはいいかもしれないが……なにか引っかかる。顔もそうだが、態度が普通の商人とは違うような気がする……どうにも違和感が拭えない。


「積荷は?」

「既に積んであります。中身は基本的に酒ですよ」

「酒、ですか?」

「ギャンブルの街と冒険者の街を行ったり来たりするので、やっぱり酒がもっとも売れるんですよ」

「な、なるほど……確かに冒険者もギャンブラーも酒は飲んでそうですね」


 言われてみればそうだろうな。ギャンブルやる奴が求めるのは、たぶん酒と煙草だ。そんでもって、冒険者たちも酒を好んで飲む……それはこの土地に伝わる有名な昔話から持ってこられた、冒険者たちの願掛けみたいなものらしい。異世界の冒険者と言えばエールを飲んでるってイメージなんだが、この世界の冒険者は昔話のゲン担ぎで飲んでいる人が多いので、エールよりワインの方が好まれている、らしい……俺は酒が得意じゃないからあんまり詳しくないけど。

 今のところ、納得できる話が多い。ヴィオラも名前だけ名乗っておき、家名を名乗らなかったのはその胡散臭い感じを察しているからだろう。


「じゃあ、さっさと向かうか……時間かけてもいいことないし」

「そうですね。酒は簡単に売れますから、早く行きましょう!」


 ギャンブルの街らしいな……もしかしたら、酒を運んでいる仕事は余計に儲かっているから報酬が高いのかもしれないな。



 ヨムルとアングルを移動する馬車の中で、俺は剣を抱えたまま周囲を取り敢えずで警戒している。もしかしたら山賊とかの仲間で、冒険者から金を奪うのが目的なんじゃないかとも思ったんだが、今のところは順調に進んでいる。商人のアルバートは御者としても優秀らしく、慣れた動きで馬をしっかりと制御している。

 ヴィオラはじーっとアルバートを観察して警戒しようとしているらしいが、俺は既にこの仕事がどんなものなのかちょっとわかりかけてきていた。商人であるはずのアルバートが馬の扱いに長けているのはそこまで不思議なことではないかもしれないが、見た目の年齢の割に慣れているのは、この道を移動することだけのようにも見える。手綱さばきが上手と言うよりは、このヨムルとアングルを繋ぐ道を完全に記憶しているような動きだ。


「……モンスターだ」

「はい?」

「群れだな」


 普通に馬を制御して道を進んでいるだけのアルバートと、警戒しながらその御者を観察していたヴィオラ……2人は気が付かなかったらしいが、明らかに周囲の気配が変わった。

 走行中の馬車の荷台から飛び降りて剣を抜くと、背の高い草むらの中から灰色の小鬼が襲い掛かってきた。ゴブリンと呼ばれる小鬼のモンスター……基本的に悪食で何でも食う性質を持っているそこそこ恐ろしいモンスターだが、知能は低く個体としてはクソ弱い。おそらくは馬を狙って飛び出してきたんだろう。


「ヴィオラ、全部片づけろ」

「わ、わかりました!」


 俺がそのまま片付けてもいいのだが、これでも一応はヴィオラの師匠になったのだからここはちょっと指導しながら片付けることにする。最初に襲い掛かってきたやつはサクッと三枚に下ろしてから、残りはすべてヴィオラに任せる。


「いいのですか?」

「なにが?」


 馬車の近くまで戻ってきた俺に、いきなりアルバートが話しかけてきた。主語がない言葉を投げかけられたって、俺は別にエスパー能力者じゃないから何が言いたいのかわからない。


「貴方の実力は、明らかにGランクではないと思っていました。初めて会った時から……しかし、あのヴィオラさんの方はGランクに毛が生えた程度では?」

「だからだろ。いつまでも一般人に毛が生えたぐらいの実力でいられると足手まといもいいところだ」

「厳しいお師匠さんですね」

「知らないのか? 師匠ってのは古今東西、弟子には厳しいもんなんだ」


 とは言え、ヴィオラならば才能任せの荒削りな戦い方で充分にゴブリンの相手はできるだろう。

 しばらく放置していると、複数のゴブリンを相手にしてもその豊富な魔力量を活かした圧倒的な出力だけで圧倒し始めていた。


「中々のものですね」

「お世辞はやめろ。見てればわかるだろ……あんな戦い方、剣術を真面目に学んだだけの子供にも負けるぞ」

「そう、ですね……商人として、それなりに剣士を見てきた私から言わせてもらっても、剣の扱いがちょっと下手というか」


 才能は認める。異常と呼べるだけの身体能力と、それに付随するような反射神経と動体視力は並みの人間を遥かに凌駕している。逆に言ってしまえば、今のヴィオラで褒められる部分なんてそれぐらいしかない。

 剣圧だけでゴブリンを吹き飛ばすことができるのは、その異常な身体能力による恩恵だ。普通の初心者剣士なら、さっきみたいに囲まれた時点で死にかけている。


「魔力をもう少し有効に使え!」

「ゆ、有効に……有効に?」

「くそ……当たり前のこと過ぎてなんてアドバイスすればいいのかわからん」


 通常の剣士なら、全身に流れる自らの魔力を正確に知覚して、手に握っている剣にまで行き渡らせることができる。そうすることで剣の強度を補強しながら、自らの身体の一部のように扱うことができるのだが……ヴィオラはそれがちぐはぐすぎて見ていられない。あくまでも体内の感覚的な部分なのでこれを教えるのは難しい……身体で覚えるしかないのだが、そんなことをしている暇はないので今は仕方ない。

 数分もすれば、戦闘が終わった。

 倒されたモンスターから発生する魔力の結晶である魔水晶を回収してから、俺とヴィオラは再び馬車に乗り込む。


「お見事でしたよ。多少高い金を払っても、護衛を雇ってよかったです」

「そ、そうですか? えへへ……ありがとうございます!」

「さて……どうするかな」


 今のヴィオラとゴブリンの戦いによって、俺は御者の正体と積み荷の中身を理解してしまった。どうしたもんか……褒められて有頂天になっているヴィオラには何を言っても無駄だろうしな。



 ゴブリンとの戦闘以外に大したハプニングもなく、アングルへ到着した。


「ありがとうございました! これで儲かります!」

「もう、言い方悪いですよ?」

「そうでしたか? あはは、これは失礼……ちょっと汚かったですね」


 積み荷を降ろしながらお礼を言って来たアルバートへ、ヴィオラは笑いながら受け答えをしていた。

 荷物を降ろし終えたアルバートと別れ、報酬金を受け取った俺とヴィオラは、夜の光を吹き飛ばすようにキラキラと輝いているギャンブルの街を歩いていた。


「もう遅いですし、宿に泊まってヨムルに戻るのは明日にしましょうよ」

「……いや、やることができた」

「え?」

「別についてこなくてもいい。いや、人々を助けてキラキラと輝く勇者を目指すならついてこない方がいい……」

「行きます。勇者である貴方が動くことなら、私も一緒に行動します。私が目指しているのは形だけの勇者じゃないんですから!」


 わざわざついてこない方がいいって言ったのに、なんでそういうこと言うかな。しかし……勇者という存在を目指すならば、いずれ目にする話だろう。無理に止める必要もないか。

 返事をせずに俺が走り出すと、それに追従して本当についてきた。

 俺が向かったのは……先ほどまで一緒にいたアルバートの所だ。煌めく表通りとは別世界とも言える薄暗い裏路地に入り、魔力の痕跡を追い、倉庫のような少し大きめの建物へと向かう。そして、その扉を剣で斬り伏せ、中へと突入する。


「っ!? 何者だっ!」

「よぉ……さっきぶりだな」

「なっ!? お、お前は……ハヤト、さん?」

「あ、アルバートさん? 師匠、ここには何をしに来たんですか?」


 カールス共和国の冒険者には1つの特権が存在している。それは……犯罪者を現行犯で逮捕して、治安維持組織に突き出すことができる。そして、その過程で犯罪者に死傷させても罪には問われないという特権だ。

 俺たちの登場に驚いて動揺しているアルバートを放置して、俺たちが護衛までして運んできた積み荷の樽を蹴り飛ばすと……中から出てきたのは色とりどりの貝殻や木の実……そして、花の種らしきものだ。


「さて、アルバート・ギーノ……禁止薬物の密売は立派な犯罪だぞ?」

「くっ!」


 この世界に来てから色々と裏側の世界を見てきた俺だからわかる。あの酒樽から出てきた品々は……依存性の高い麻薬の原料だ。

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