第5話 酒抜きの祭り
リーダーの魔狼を引きずって村に到着。村の様子が今朝でた時より騒がしい。騒がしいのは毎年のことだ。けど、妙な胸騒ぎがする。
「クロスさん、大物狩ってきましたよ」
「おお、ハルトってお前魔狼じゃねえか」
「襲いかかってきてくれるならこっちのもんですよ…採れたての山菜お願いしますね」
「いや、それは冗談じゃ――分かったよ」
「それで何かあったんですか?」
「浅いところに魔物が出てな……ケガしたヤツがいたんだよ」
「どおりで、村が騒がしいんですね」
「おう、今若いのを連れ戻してるとこだ」
「山菜採ってくるわ」そう言いながら、小走りで斧を片手に森に入っていく。本当に優しい、僕の冗談かも怪しい冗談に付き合ってくれる。きっと山菜も本当に採ってきてくれるのだろう。
こんな気のいい人たちがいる村を守らなければいけない。僕は村人を呼んで魔狼を預ける。手柄の横取りは起こらない。そんなことをすると、村八分にされるのをみんな分かっている。
それより、手伝って成果の一部を受け取ったほうが賢いのだ。
村長のディスト爺さんのもとに向かう。
「爺さん、いつもより浅いところに大きい魔狼が出たよ」
「うむ、聞いておる……今、戦える者に若いのを連れ戻しに行かしておるところよ」
「浅いところにあんなに大きい魔狼が出るのはおかしいよ…村の防衛の準備を始めたほうがいいと思う」
「魔狼はそんなに大きかったのか」
「うん、狩ってきたから見にきてよ」
「狩ったのか……まあ、一応見に行くとしようかの」
「ありがとう、こっちだよ」
狩ったと聞いて普通のサイズだと感じたのだろう。それでもディスト爺さんは見にきてくれる。ここの村は本当に人が温かい。
「これです」
「確かに普通の魔狼よりもでかいのう……倍近くありそうじゃ」
「……これは本格的に防衛の準備をせなあかんのう。ハルト坊、防衛の準備をすると伝えてきてくれんか」
ディスト爺さんはしばらく考えていた。仕方がない、防衛の準備となると毎年のようにお酒を飲んで騒ぐことができない。それは酒好きのディスト爺さんにとっても苦渋の決断だろう。
かといって、このサイズの魔狼が出たことを無視して呑気に収穫祭を酒を飲んで楽しめるわけがなかった。
「分かった」
森から若者たちを連れて帰ってきた戦える大人たちの方へ走った。
「ガンツさん!」
「おお、どうした?」
「魔物が襲ってくるかもしれないから防衛する準備をして!」
「爺さんがそう言ったのか」
「……そうか」
僕が頷くとガンツさんは残念そうに呟いて、村の男たちに指示を出し始めた。これで少しは魔物が来た時に持ち堪えれるはずだ。
ガンツさんが僕の後に続いてきたディスト爺さんに聞く。周りはディスト爺さんの答えを逃さないようあたりが静寂に包まれる。
「爺さん、収穫祭はどうするんだ?」
「それはのう、そのままやるつもりじゃ」
「そうなのか」
「うむ。その代わり、今年は酒は抜きじゃがの……」
歓喜と悲鳴その両方が混ざり、村は一気に騒がしくなった。酒を飲まない村人たちは収穫祭の続行を喜び、酒好きの村人たちは崩れ落ちた。
「それじゃあ、狩猟祭の続きを始めるかのう――
――今回の一番狩ったものはハルトじゃ!」
ディスト爺さんがそういうとあたりは一気に静かになり、僕に注目が集まった。
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