第12話 霊能力者
ダンジョン化が発生してからこの十年で脚光を浴びた業種が幾つかある。
その一つが霊能力者だ。
ネット全盛期の時代、あらゆる神秘が解き明かされ、簡単に心霊写真が捏造出来るようになり、心霊体験は作り話であると一蹴され、心霊番組の需要は一度どん底にまで落ちた。
たが、ダンジョン化という摩訶不思議な現象によって、それは命を吹き返すことになる。
ダンジョン。魔物。魔術師が現代に実在する。
その事実はオカルトに現実味を与え、となれば幽霊や霊能力者もと考えるのが正常な思考で。
実際それは当たっていた。
「じゃあ霊能力者はちゃんと本当にいるんだ。魔術師とはどう違うの?」
「似たようなもんだけど分野が違う。魔術師は妖怪やら魔物やら、霊能力者は文字通り幽霊特化ってな具合でな」
「魔術師じゃ幽霊に勝てない?」
「そんなことはないけど、やっぱ対霊知識と経験じゃ霊能力者には敵わないかな」
「そっか。霊能力者もありだったかも?」
「何かが違ってたらそうなる未来もあったかもな」
たらればの話をしてもしようがないが。
「しかし、霊能力者VS魔術師ねぇ」
今一度、企画書を手に持って文章に目を落とす。
「霊能力者チームと魔術師チームに分かれて廃墟になった病院を進む。先に目的地に到達したほうが勝利か」
呼んでいる途中で道の起伏で車内が揺れて酔いそうになる。
窓でも眺めてるか。
「お祓いを兼ねているみたいだね、この企画。この廃病院は曰く付きらしくて撮影の後は取り壊されるらしいよ」
「お祓いついでに撮影って罰当たりなことするなー、テレビって」
「まぁ、心霊スポットに行って、いたずらに霊を刺激するよりかはかなりマシだけどな」
昔は心霊現象を信じる人はいても、霊障を信じている人はそういなかった。
その関係でよくテレビのロケで心霊スポットが舞台となると、その場に本当にいる幽霊が刺激されて大変なことになっていたらしい。
その後始末をしていたのが当時の霊能力者たちだ。
いま霊能力者たちがよくテレビに出演できているのも、単純に需要が出来たからというのもあるが、その頃に売った恩のお陰によるところが大きいのだとか。
「共演する霊能力者ってどんな人?」
「最近出始めた若手霊能力者みたいだよ。
「へぇ、人手不足はどこも一緒か」
「魔術界みたいに純血主義ではないけど、霊能力者はなり手が少ないからね」
「子供が磨り潰されてるのはどこの界隈も一緒なんだねぇ。あーやだやだ」
「苦労してるんだろうよ。せめて先輩の俺たちがサポートしてやらないとだな」
なんてことをロケバスを追い掛けながら話していたんだが。
「はぁー、だる。やってらんないってのー」
「俺たちに仕事押しつけやがってあのゴミカスクソボケどもが」
ロケ地について挨拶をしに向かったところ、途轍もなく態度の悪い若い二人がいた。
天然パーマの少年のほうが蔓木で、オレンジのメッシュが入った長髪の少女のほうが小此木か。
二人ともパイプ椅子にふんぞり返り、簡易机に脚を上げ、携帯端末を弄っている。
とても周囲に大人がいる環境でするような態度じゃない。
まさかの事態に言葉を失っていると、ふと目が合う。
「なに見てんの? つーか誰? ん? あれ、どっかで見たことあるような」
「今日一緒に撮影する魔術師だよ」
「魔術師……あぁ、あいつだよ。テレビに出てた」
「あぁー、思い出した。まぐれで目立っていい気になってる魔術師。こんな顔してたわ」
「いいよな、楽して知名度稼げてさ」
なるほど。こういうタイプか。
苦労している者同士、助け会おうという気分がすっと胸から消えて行くのを感じる。
「ってことはー……あ、いた! あんたが遠条結衣でしょ」
「そうだけど」
「ふーん。ま、大したことないね。あたしのほうが可愛いし」
ずいと結衣のほうに顔を寄せて、そう言い放った小此木。
「はぁ?」
それにキレたのは結衣本人ではなく、天音のほうだった。
青筋を立てて、声を荒げはしないものの、見たことないくらいキレている。
「目が腐ってんじゃねーの? 結衣ちゃんのほうが百億倍可愛いが?」
「は? 誰? 一般人は引っ込んでてくれる? あ、ごめーん。魔術師だっけ?」
「あーあー、痛い痛い。見ててこっちが恥ずかしいわ。これだから勘違い芸能人気取りはよー」
「ああん?」
「よせ。こんなところで言い争うな」
人目もある。それに二人は年下だ。俺も内心穏やかじゃないが年長者としてここはぐっと堪えないと。
そう思い、二人の間に立って言い争いを強制的に終わらせた。
しかし、仲間がこうして言い争っているのに蔓木のほうは我関せずの態度でまるで無関心。霊能力者の教育は随分と行き届いているみたいだ。
「ま、とりあえず今日はよろしく頼む。くれぐれもカメラの前ではそんな態度とってくれるなよ」
「心配しなくても仕事はきちんとやるよ。それ以外の時間に一秒たりとも干渉してほしくないけどね」
「そりゃいい。初めて意見があったな」
その言葉を最後にこの場を去る。
「キィイイイイ! なんなのあいつ! ムカつくムカつくムカつく!」
「誰よりも怒ってんな。逆にこっちが冷静になるくらい」
「あったり前でしょ! 推しにあんなこと言われて黙ってられるもんですかっての!」
「ありがとうね、天音ちゃん」
息を荒げる天音の肩を結衣はぽんぽんと叩いて落ち着かせている。
撮影が始まるまでに落ち着いてるといいが。
「それにしても」
視線を天音から廃棄された病院のほうへと向ける。
剥がれ落ちた外壁に蔓や蔦と言った植物が這い、くすんだ窓ガラスはそのほとんどが割れている。沈んでいく暗い夕焼けに照らされた姿は、随分と雰囲気があって不気味に映った。
「嫌な感じがするね」
「八百人もそう思うか」
「たしかにお祓いが必要な場所だ。でも、なんだろうね。それだけじゃない気がするのは」
「警戒しておくか。こういう時の勘は嫌に当たるもんだ。あっちの二人は実力がどうあれ正直信用に値しない。連携は無理だ。こっちで出来ることはこっちでなんとかするぞ」
「そうしよう。天音ちゃんたちにも話しておく」
天音たちのほうへと行った八百人から、視線を再び廃病院へと戻す。
「さーて、鬼が出るか蛇が出るかってところか」
今のところは撮影の中止を進言するほどの事態じゃない。
けど、もし撮影が始まってダメだと判断するようになった時、すぐにスタッフたちを廃病院の外へと出せるようにしておかないと。
それからしばらくが経って、出演者もスタッフも諸々の準備が整った。
「出演者の皆様は集合願いまーす」
結衣をつれてカメラの前へ。
この撮影、無事に終わるといいけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます