第13話 もう一人の自分
守るための……助けるための刀で、私が大切に思う誰かの命を
「そん……な……」
自分自身が助かるために、他者に呪いを押し付ける。
自分の命を助けるために、他の誰かを
そんなのは、旧五年一組の皆が——私が、
ついさっきまで「大丈夫だ」と言っていたはずの口が、なかなか言葉を
「あ……ご、ごめん」
激しく
「ひっ……!」
私の手が触れるより先に、〈宿世渡〉は私の元へと戻った。
もう、この短刀は——
「……やっぱり、言わない方がよかったらしいな」
「いやいやいや、そんなのショック受けるに決まってるだろ。どんだけサガミンのこと
「ね、ねぇ、弓丸……ちなみに、なんだけど。一番最初に〈宿世渡〉が
「一人目は、〈宿世渡〉との繋がりを切ることなく
「うーわマジかよ。レアルならもーちょい長生きしたいと思っちまうなそれ……」
稀瑠はそんなことを言いながら、保健室の壁際から小さめのリュックをもう一つ引っ張り出す。〈甘味処あずさ〉で鏡の中に吸い込まれて以降、私たちは荷物らしい荷物を持っていない。ならば持たせるのにちょうどいいと、備品入りリュックを追加で作ることにしたようだ。
私だって、できることなら何か作業をしながら
どんな事実でも受け止めるから、全部聞かせてほしい。そうしないと、落ち込むことすらできない。知らなきゃ前に進めない。
そう言った私の思いに答えて、弓丸は話してくれているのだ。逃げてばかりはいられない。
「なんで
「宿世渡が一時的にもたらす
「一人目、ということは……二人目もいたんですの? 〈宿世渡〉に手を出したお方が」
「ああ。二人目は、持ち主が得るという異能に
「精神の方が、限界……?」
「まーた難しいこと言ってるし。どういうことだよ、わっかんねーよ」
私が聞き返すと、弓丸は言葉を選ぶように
「誰だって、大切な人のことは殺したくないだろう。それで自分の命が助かると思っても、普通は理性で
「それ、って……その人は、誰のことを失ってしまったの」
私は、どうしても我慢できずにそう聞いた。
ふっと
あの本のタイトルを、一言、聞いてみればよかった。もっと早く、教室というサラダボウルに放り込まれてすぐの、まだ何も始まっていなかった時期に。そうすれば、何かが違ったかもしれないのに。
誰かと引き換えに助かった自分の命を抱えて、その人はどんな思いでその後を生きたのだろう。
「……彼女の母上であり、僕の
「そっか……」
人生の残り時間が短かったとしても、はい、じゃあそれで良かったね、とはならないだろう。そのことは、弓丸だって分かっているはずだ。
〈
……どうして、この刀は、そんな力を持つに
「一人目の
「そんなあぶねーもの、なんで渡しちまったんだよ。てかなんでお前が持ってたんだよ」
「
死にたくない。助かりたい。まだ、私は何も——できていない。
そう思ったときだった。頭の中の霧がサァァっと消えて、身に覚えのある感覚が脳内を満たしていく。点と点が繋がりあって、普段なら思いつきようもない策を授けてくれる。
「ねぇ、弓丸……」
また。まただ。これは私じゃない。しかも今度は、思考と体の両方が自由を失っていく。私は宿世渡をつかんで立ち上がり、一歩、二歩と弓丸の方へ近づいた。目の奥に、じぃんと熱を持って
「私が助かる方法なら、まだ、他に二つあるよ。本当は分かってるんでしょ? それとも、実は私の方が
私の唇が、うっそりと
「一つは、私が私の心臓を
意識ははっきりしているのに、この光景を
それに、体の
「この
もう一人の自分は、つくづく
弓丸みたいになればいい。もう一人の自分——〈私〉は、いとも簡単に口にしたが、それすなわち神を意味する。なんて
「でも、これはちょっと
〈私〉はしゃがんで、弓丸の耳元に唇を寄せる。
「弓丸の〈落とし矢〉で、私のことを射抜けばいいの」
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