過労死した俺、調査する

第30話 黒影の森

 束の間の安らぎを得た悠斗、リリア、リリーナの三人だったが、王国からの本格的な任務が間もなく始まるという知らせが入った。王国の重役会議で決定された初任務、それは「影の一族の拠点調査」というものだった。


 宮殿内の応接室に三人が集められると、イザークが緊張感の漂う表情で立っていた。これから始まる任務の内容が重要なものであることを、その様子だけで察した悠斗たちの表情にも自然と緊張が走る。


「悠斗、リリア、リリーナ。今回の任務は調査だ。まずは、王国の北にある広大な森『黒影の森』の奥深くにあるという影の一族の旧拠点を調査してほしい。そこは影の一族が支配していた場所だ。今はもぬけのからのようだが何か手がかりがあるかもしれない」


「黒影の森……」


 リリアが呟くと、リリーナも少し驚いたような顔をして口を開いた。


「でも、黒影の森って地元でも近づかない場所とされているのよね?たしか、影の呪いにかかるっていう噂があって……」


「そのとおり。だが、その呪いの正体は影の一族が自らの勢力圏を守るために張り巡らせてきた強力な影の術に由来している。できることならこの術を解除しつつ、森の奥にある拠点の構造や残存している術式を解明してほしい」


 イザークは、3人にそう告げる。


「まぁ、頑張るよ。死なない程度にな」


 イザークは、そんな悠斗の言葉に微かに微笑みを浮かべた。


「申し訳ないが、僕は今回別の任務があって手助けはできない。一度3人だけで行ってきてほしい」


「えっ!?きてくれないのか?」


 悠斗は先ほどの余裕の表情とはうって変わって、狼狽える。


「悠斗、急にカッコ悪いわよ。良いじゃない3人で。私が守ってあげるわ」


 リリアは、冷静に言う。


「カッコ良い……」


 悠斗とリリーナは声を揃えて呟いた。


 *


 翌朝、準備を整えた三人は黒影の森へと向かった。黒影の森へ向かう道は、かつて影の一族が支配していた地域で、今も何かが潜んでいるのではないかという不安が常に頭をよぎる。


 道が徐々に暗く、木々が背を伸ばし合うように絡み合い、太陽の光を遮っていく。森の入口に差し掛かると、悠斗が立ち止まり、辺りをじっと見渡した。


「この森、思った以上に雰囲気が重いな……」


「こんな陰鬱なところを、拠点に使うなんてどうかしてるわ」


「ほんとにね」


 森の奥深くへと進んでいくと、突如、森の中から視界を揺るがす奇妙な光が見えた。悠斗がすぐに影を手元に集中させて周囲を警戒するが、その光は消えることなく、彼らを誘うかのように奥へと進んでいく。


「あの光はなんだ……」


「影の呪いの一部だと思うわ。私たちを迷わせようとしている」


 リリアがそう告げるやいなや、森の中から不気味な囁き声が聞こえてきた。その声は、かつて影の一族が放った呪術の一つ、「迷いの呪い」が原因だとリリアが指摘する。


「その呪いに惑わされると、出口が分からなくなってしまう。気を付けて進みましょう」


「恐ろしいな。そうやって、この森に侵入させないようにして来たってわけか」


 三人は声に惑わされないように気を引き締め、互いに呼びかけながら足を進めた。だが、次第に影の力が強まり、影の触手のようなものが地面から湧き出してくる。リリアが影の力を駆使して触手を避けるも、リリーナが思わずつまずきかけたところで悠斗が支え、なんとかその場を切り抜けた。


「ありがとう、ユウト!」


「気を付けろ、何か妙な感じがする」


「なんだか、周囲の影の動きが不穏だわ。誰かに見張られている気がする」


 その瞬間、影がざわめき始め、空気が凍りつくような感覚に襲われた。三人が身構えると、闇の中から数人の影使いが姿を現した。彼らは穏やかな表情のまま、三人をじっと見据えている。


「侵入者か……影の一族の領域を荒らす者たちよ」


 その中の一人が冷ややかに言葉を発すると、他の影使いたちもまた静かに影を操り始めた。


「おいおい、ここはもう使われてないとかじゃなかったのか?」


 そう言いつつ悠斗が影を拳に集中させると、リリアも続いて戦闘態勢に入った。リリーナは精霊に呼びかけ、周囲の気配を探るための風の精霊を召喚する。


「私たちの行動が読まれていたってことかもしれない」


リリアが自身の推測を述べる。影使いたちはにやりと笑いながら影の刃を作り出し、悠斗たちに襲いかかってきた。


「リリーナ、精霊で防御を頼む!」


 悠斗が指示を飛ばし、影の刃を避けながらリリアと共に反撃の機会を探る。リリーナも必死に精霊に呼びかけ、風の盾を張り巡らせて影使いたちの攻撃を防いでいた。


「お前たちはここでくたばってもらう!」


 影使いたちが再び攻撃態勢に入ると、悠斗は素早く影を利用して彼らの隙をつき、次々に刃を受け流しながら反撃を加えていく。

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