第二章∶ハロワナ大戦

第11話∶現状確認

「取り敢えず……これと、これ。あとそれもだ」

「はいはーい!」



 サイバルを説得したその日。

 俺達は取り敢えずホテルに弁償代を出して、徹底的に謝り倒し、別のホテルへと移った。


 サイバルの知名度が高かったこと、そこのオーナーがヒーロー好きだったこともあって、何とか穏便に済ますことができた。


 それで昼となった今はだが。

 一先ず別のホテルに移った俺達は、三人で一つの部屋を取り、いつもの調子に戻ったサイバルとともに買い出しに来ていた。


 当然、博士もいる

 サイバルには博士ことは紹介済みだ。


 いつもの格好から薄手の服……まさに南国とでも言えるよう服に着替えたサイバルが、頼まれたものを元気よく持ってきてカートに入れる。



「これで大丈夫?」

「ああ。後は別の店で買い揃えば──」



 と、まぁ、一先ずは平和が戻った。

 とはいえ、ヴィランたちはまだこの街に潜んでいるし、ヒーローたちも多くない。


 それにスーパイトの話じゃ、これからまだまだ色んなことが起きそうだ。


 だから打てる手は打つべきだ。

 そのためには、まず博士にガジェットを作ってもらう必要がある。

 即席でも何でもいい、俺がまともにやりあえるレベルまで引き上げてくれる道具達を。



「流石にスーパーじゃ、武器は手に入んねぇか……どうしたもんかなぁ」



 流石にこんな場所で武器が手に入るわけもなく。

 しかし武器がなければ俺も戦えない。


 いや、まぁ、完全にないわけでもないんだが、例によってあまり使いたい手ではない。

 一応、出すだけなら問題はないし……そっち使うのもありか。


 どうしたもんかなぁ、と考えていると、棚の影から博士が姿を現す。



「ううむ……」

「どうした、博士」

「なに、大した話ではないんじゃが。テレビ作った機械があったじゃろ」

「夜明けに作ってたやつか?」

「そうじゃ。人の感情に反応するレーダー……と言っても、昔作ったやつのパチモンに過ぎんがな」



 昔、とあるヴィランと戦う時に、特定の感情にのみ反応するレーダーが必要となったことがある。

 その時、博士に作ってもらったことがあるのだ。



「で、なんでそれが必要に?」

「感情の発信源をお前さんに合わせとけば、見つかると思ってのう。まぁそれも──」

「ん? どしたの?」



 と言って、博士が目線を向けた先にはサイバルがいた。

 どうも、サイバルの反応が大きすぎて、他を捉えるにはスペック不足らしい。


 当然、そんなことを知らないサイバルはボケーっと、首を傾げてこっちを見ている。


 博士の方に目を向けると、ちっさな画面が引っ付いた機械を取り出す。

 件の機械だ。



「改良部品が必要、と?」

「ああ。ヴィランも強烈なのばっかじゃからな。こんなもんなくとも問題はないじゃろうが、それでも持っておくに越したことはないじゃろ」

「そうだけどさ。手に入るのかよ、部品」

「……まぁ、どうにかしてやるわい」



 もしものときは任せたぞ、と言って博士は棚の影へと消えていった。


 感情に反応するレーダーか。

 懐かしいな……あの時は、あれがなければ完全に敗北していた。

 やつが脱獄していないことを祈るか。


 うんうんと、一人勝手に頷いていると、カゴを手にしたサイバルが俺の顔を覗き込む。



「トーヤ、他になんか買うものある?」

「いや、一先ずはこれでいいだろ」

「武器はどうするのさ」

「考えてねぇ。まぁ、もしものときは……」



 手のひらを見つめる。

 もしものときは、あまり使いたくないが、あの武器を使うしかないだろう。

 臭くなるのは勘弁だが、命の危機に比べれば安いもの。


 そうして必要なものを一通り買った俺達は、袋に詰めて店の外に。

 しかし……絵面が最悪だな。


 アロハシャツのおっさんに薄手のガキ。

 日達国じゃ、間違いなくよろしくない光景だ。


 南国だから許されている。



「これからどうする?」

「んー……取り敢えず飯でも食って、現状について話すか」



 適当に借りた車に荷物をぶち込んでいると、博士が遅れてやってくる。

 頭をボリボリと掻きながら、機械をみている様子から収穫はなさそうだ。



「部品何とかなりそうか?」

「なってたらこんなに悩んどらんわい」



 じゃあ仕方ねぇ、と言って俺たちは車に乗り込んでエンジンつけると、袋から適当に買ったもの取り出して、それぞれが好き勝手に昼食を取り始めた。


 色々あったが一段落ついて、取り敢えずは平和な一日が戻ってきた。

 ラジオを聴きながら、適当に飯を食う。

 普通のことがどれだけ幸せか、ようやく理解したような気がする。



「で」

「で?」

「で、なんじゃ」

「いやさ、なんか話し聞いてないかと思って」



 サイバルの方を見ると、サラダロールを頬張ってスマホに画面にやっていた。

 高校生らしい光景ではあるが、一応こいつもヒーローだ。



「休業という形になってはいるが、やつらの狙いは俺。ならば少しでと情報を集めておきたい」

「ヒーロー活動以外の戦闘は犯罪にならない?」

「ヴィラン相手だから正当防衛だ。そう習ったろ」

「確かに」



 もっもっもっ、とサラダロールを食い進め飲み込むと、スマホの画面をスクロールして俺たちの方へと向ける。


 俺はコーヒーを飲みながら、博士とともに画面を覗き込んだ。

 画面には色々なデータとともに文字が羅列されている。



「取り敢えず、近くのJ.S協会支部から能力でデータ取ったんだけどさ。最新情報だけでも面白いのばっかだったよ」

「ほぉ、例えば?」

「『コーレント、海上凍結の末、ハロワナへ接近中!』とか」

「ぶふぉッ!?」



 思わず顔を背けて、飲みかけのコーヒーを吐き出す。

 汚っ! と叫ぶ、博士を無視して、俺はサイバルからスマホを取って画面を見る。


 するとそこには、凍結した海上を進む一人の少女の姿が映っていた。

 特徴的な水色の長い髪からして、間違いなく彼女だろう。



「な、なんだ、これ」

「機密情報」

「そんな話じゃなくてな、どういう状況かって話だよ」



 コーレント。

 ローベルシアを中心として活動する少女ヒーローだ。


 北部、ローベルシアは広大で、それに比例するかのように数多のヒーローがいるが、その中でも強力なヒーローの一人が彼女。


 能力は『凍結』、周囲の温度を極度に下げることによって、ありとあらゆるものを凍らせる能力だ。


 故に、複数のヴィランを一瞬のうちに鎮圧できる。


 ……が、そんな彼女が自らの国を離れて、海上を移動している。

 まさに異常事態だ。



「ほ、他には」

「他のヒーローは見えないけど、ヴィランの方なら情報が出揃ってるかな」

「確か、現状確認できてる脱獄ヴィランが、『ジャンヌ・ダルク』、あとはMとHだろ?」

「だけだったらよかったんだけどねー」

「え?」



 サイバルがはぁ、とため息を一つ吐くと、一枚の写真をこちらに見せる。

 黒いローブを纏った小柄な人の姿。


 俺の頭には一人のヴィランが浮かんでいたが、その答え合わせはすぐだった。



「『スペクター』が今日の朝、確認されてる」

「……あのイカれ星野郎が?」



『スペクター』。

 特級指定……ではなく、A級と呼ばれる特級の少し下のヴィランだ。

 だが、その厄介さは特級と比べても遜色ない。



「で、やつらの狙いは?」

「まだ分かってないけど、全員ハロワナに向かって進行中だって」

「…………俺、もう離れたほうがいいかな」

「雲隠れしたら、あっちこっちで大暴れして手を付けられなくなるけど、それでもいいなら」



 それは勘弁願いたい。

 そんな事になったら、いよいよJ.S協会は過労で潰れるだろう。



「ローベルシアは『ザ・ウェポン』がいるから、大丈夫なはず……メリアデは『アーク』と『プラズリット』とか……世界に目を向ければ『フラット』に『スピッシュ』、『スーパイト』もいるし、ハロワナには『オーバーレイン』と『フィッシャー』……これらの強力なヒーローたちがいなくなった話はまだ出てないから、なんとかなるか……?」



 世界規模で活躍する強力なヒーローたちの名前を並べてみたが、結局のところ彼らも人間。

 一人ではできる範囲に限界がある。


 ならばできる限り場所は絞るべきだろう。



「そもそも、やつらはどうやって俺の場所を?」

「ヒーロー側はそこのお嬢ちゃんのせいじゃろう」

「うっ……」



 サイバルの顔を見るが、目を背けてこっちを見ない。

 こいつには後でちゃんと反省をしてもらう必要がありそうだ。


 だがその前に、ヴィラン側がどうやって知ったのか、それを知る必要がある。



「R……やつらの兄妹……『ファミリー』は、の能力で居場所を知ったような感じだろうが、ジャンヌとスペクターは?」

「それもじゃない?」

「どうだろな……他のヴィランと仲良しこよしするような感じじゃねぇだろ。ま、これもまた調べる必要があるな」



 と、そこまで言ったところで、サイバルが何かを思いついたかのように俺に聞いた。



「そういえばさ、A.ウェポンたちが出たとき、オーバーレインとフィッシャーはどうしてたんだろ」

「そういや出てこなかったな。テレビに映ってたのは別のヒーローだったし……」



 ちょっと悩んだが、当然ながら少し考えた程度でわかるようなことではない。

 ただ可能性としては別のヴィランの対処に当たっていた可能性だ。


 まぁ、それでもA.ウェポンにとっての天敵になりえるオーバーレインを向かわせないのは、おかしな話ではある。



「……何が起きてるんだ? ヒーローは失踪、ヴィランは大脱走。めちゃくちゃだな」

「変なことが起きないといいね」

「もう既に起きまくってるけどな」

「……今考えても仕方ない。準備だ、準備。戦うための準備を進めるぞ」

「はーい」「うむ」



 そうして飯を食い終えた俺たちは準備を進めるべく、車を発進させて次の店へと移るのだった。

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