第8話∶スーパーヒーロー
真っ逆さまに落ちきった俺は、ゆっくりと目を開いて周囲を見渡す。
周りにはドローンが数台、そして俺の下には張った布が一枚。
そして布のそばにはサイバルが立っていた。
片手にガスマスクを持って、今にも泣きそうな顔で。
「よ、よぉ」
「よぉ、じゃないよッ!!」
案の定ブチギレである。
とは言え、ここまで逃げてきたツケが回ってきた、と考えるしかないだろう。
これ以上、逃げることはできない。
「……わかったよ。逃げねぇから、ちゃんと話にケリつけよう」
俺はサイバルの手を借りながら拘束を解くと、頭の後ろを掻きながら立ち上がる。
ドローンの巻き起こす風によって空いたガスの穴の中で、逃げるのをやめ、遂に立ち会うことを選んだ。
改めて見ると、かなり荒んでいたらしい。
こう言っちゃなんだが、涙の跡や顔の隈のせいで酷い顔だ。
(……一応これも、俺のせいになるのか……?)
なんてことを考えつつも、何話したらいいのか……と、悩んだ末に、言葉を捻り出そうとした。
「えっとだな──」
その瞬間、頭上で強烈な爆発音が響き渡る。
そうだった、と思って上を見上げると、Rに背負われてGが飛び降りてきた。
穴は開かない……と言うことは、Wは顔を出す気がないらしい。
俺は苦虫を噛み潰したよう顔をしながら下がって、サイバルの隣に立って、飛び降りてきた二人と対峙する。
「もういいだろ、いっぱい遊んだじゃねぇか。帰れよ、お前ら」
「……ぃ……」
「シュコ〜……やだ〜」
俺は舌打ちをして、近くに落ちていた鉄の棒を蹴って拾うと構えを取る。
流石にヴィラン二人と対峙したからか、サイバルも文句を言わずに背負った直刀に手をかける。
一触即発。
どっちが先に動くか、という場面で最初に動いたのはRだった。
袖の下から出てきた銃口から一発の弾丸が撃ち放たれる。
俺はその銃弾を、手に持った鉄棒で叩き弾こうとした、その時。
突然後ろから投擲されたナイフによって、銃弾が裂かれてあらぬ方向へと飛んでいく。
「ワガママは治んねェなァ。G」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはA.ウェポンが立っていた。
「A〜……生きてたんだね〜。元気にしてた〜?」
「最悪の気分だ。テメェみてぇなヤツの顔を見る羽目になったんだからなァ」
悪態をつきながら俺のことを無視して横を通り過ぎると、顔をそらして投げナイフを避けていたRのもとへと向かっていく。
そんなAの顔には怒りがにじみ出ていた。
「おいス……R、どういうつもりだァ」
「…………」
目をそらして黙りこくるRに、何とも言い難い気まずい空気が流れる。
もう何がなんだかさっぱりだが、一先ず流れは変わった……変わったのか、これ。
静かな時間が流れる中、その沈黙を破ったのはGだった。
「はぁ〜……」
一段階大きなため息。
そのため息に、俺たちの視線は一斉にGへと集まる。
「兄妹喧嘩は、後にしない〜?」
「あァ?」
「……『
その瞬間だった。
ため息は黒いガスへと変化し、急速に周囲に蔓延していく。
これは身に覚えがある。
かつての戦闘で追い詰められたG.オーシャンが放った技。
アレは毒とか、薬とか、そう言った概念を超越したガス。
吸えば問答無用で即体内を循環し、体から平衡感覚を奪う。
(……と、言うことは、俺まずくね?)
「てッ──!?」
その言葉を聞くと同時に、RはAのことを蹴って距離を取ると、袖の下からガスマスクを取り出し装着する。
Aも急ぎ何処からか取り出したガスマスクを手にすると、急いで着けた。
俺も急いでガスマスクを……と思ったが、そもそも持ってきていない。
どうするか、などと考えていた瞬間、後ろから突然ガスマスクを装着させられる。
サイバルの手によって。
「さ、サイバル!? おまっ、なにをっ……!?」
「これで、いい……」
それだけ言い残すと、ふらりと地面に倒れる。
と、同時に周囲のドローンも次々と墜落する。
はっきり言って、状況はかなり悪い。
最悪だ。
A,G,R,W、ヴィランは四人。
そのどれもが特級にイカれたクソッタレども。
能力の強さ、個人の戦闘能力、どれをとっても一級品。
つまり、能力者でもなんでもない俺が相手をするには厳しすぎる、って話だ。
まぁ、AとRで仲間割れ中みたいだが。
少なくともR,G,Wは俺の首を狙っている。
まぁ、仮にこの三人が首を狙ってなくとも状況は最悪であることに代わりはない。
この黒いガスのせいで行動を制限されているようなものなのだから。
「……はぁ。頼らざるを得ないか」
ここまで来たら積み重ねてきた剣術の意味はない。
話し合いも効果がないだろうし、真っ向から戦闘となったら苦しいものがある。
ならば…………仕方あるまい。
奥の手だ。
俺は両手を重ねて手印を作り、それを下へと向ける。
実に簡単なものだ。
手を重ねて、親指を曲げ、その他八本を下へと向ける。
たったそれだけの、簡単な手印だ。
だが一度味わったことのあるAは知っているのだろう。
目の色が変わる。
「覚悟はいいか? クソッタレども」
そうして俺は、契約を結ぼうとした──その直後のことだった。
突如、空から飛来して来たものが土煙と轟音を立てながら、地面へと突き刺さった。
必然的に俺たちの視線はその飛来したものへと向けられる。
何事か、と思う暇もなく、周囲に蔓延していたガスが、突然巻き起こった風に集められ……いや、吸い取られていく。
「チッ……こんなことできるやつァ、一人しかいねェ」
「……撤退〜」
Gが明らかな不利を悟ったのか、足元に開いた穴に吸われ消える。
Rは狼狽えながらもAのことが気になるのか、その場を離れようとしない。
Aは黙りながらも、風の中心をただ見つめるのみ。
そうして風が晴れた時、そこにいたのは一人の男だった。
金色の髪に逞しくも整った体。
顔は端的に言えばハンサムってやつで、青いスーツに赤いマントとザ・ヒーローな見た目をした男。
「『スーパイト』!」
「やぁ、ノーネーム。そしてA.ウェポンも。元気にしているみたいだね」
「よォ、クソッタレヒーロー。今日も元気にパトロールかァ?」
「そういきたいところだけど、君の気配を感じてね。つい飛んできてしまったよ」
「チッ……超人野郎が」
AがRの腕を掴んで肩に担ぐと、後退りをして俺たちから距離を取る。
俺は一応手印を解いて鉄棒を構えて、Aの動きを注視し続ける。
スーパイトが来た以上、AもRも下手な動きはできないはずだ。
一手ミスれば、その時点で全てが決する。
彼の力ならば。
「どうだ? 僕と一戦交える気はないか?」
「バカ言うんじャねェ。テメェみたいなクソッタレとやる必要がどこにある。勝てるわけねェだろ」
「僕もいい歳だからね、夢にかけてみるのもありだよ」
俺が言うのはなんだが、夢にかけても無駄だと思う。
スーパイトは万全の対策をした上で、リカバリー案を三重くらい用意しないと誰だって勝つのは難しいだろう。
無論、俺もだ。
「悪ィが、ここいらで退散させてもらう。ノーネーム。次に取っといてやるから、楽しみに待ってろやァ」
「……逃げるつもりかい? 僕から」
「逃げるだけなら、幾らでも手は……あるからなァッ!!」
そう言って着けてたガスマスクを握ると、突然ガスマスクは球体へと変化する。
と、同時にその球体から閃光が放たれる。
「っ!! スタングレネードか!!」
咄嗟に俺とスーパイトが飛び出すものの、放たれた閃光を抑えることはできずに目が眩む。
視界が戻った時には、そこにAとRの姿は跡形もなかった。
「……逃がしたか」
「一先ず目的は君みたいだし、大丈夫だろう」
「俺が大丈夫じゃないんすけど……」
はははっ、と笑う彼をよそに、俺は地面で倒れるサイバルを担ぐ。
周囲には静けさが戻り、あれだけ充満していたガスも一人の男の手によって消え去った。
彼はスーパイト。
この世界における最強のヒーロー。
まさにデウス・エクス・マキナのような存在だ。
俺が信頼する数少ない人間でもある。
「取り敢えず、移動しません? なんで俺が見つけられたのかの話も聞きたいですし」
「……ああ、わかった。行こうか」
と言うわけで、超人ヒーローを引き連れて、俺たちはホテルへと戻っていくのだった。
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