第43話 裏の世界
「蓮太郎さん、なにかありましたか?」
「え? なんで?」
「いえ、昨日とは気配が違うような……それに、懐かしくて嫌な感じが纏わりついているんです」
お義母さん……愛娘に嫌な感じとか言われてますけど大丈夫ですか?
「まぁ……なんでもない、よ?」
「……蓮太郎さんが喋りたくないなら別に追及したりするつもりはありませんが、本当に問題ないんですね?」
「身体的な問題は特にないよ。なにかされた訳じゃないし」
「つまりなにかには会ったと」
誘導尋問?
どうやら僕は今、スズに疑われているらしい。隠し事をしているのは事実だけど、正直に言うつもりは全くない。だってスズとお義母さんの関係を俺が悪くしたとか思いたくないし、僕的にはスズと仲良くなって欲しいなと思っているぐらいだし。
しばらくスズと見つめ合っていたのだが……先にスズが溜息を吐いて目を逸らした。
「蓮太郎さんに害が無いのであればいいです。私から、貴方の行動を縛り付けるようなことはあまりしたくないので……浮気でないのならばいいです」
「浮気はしないなぁ……そもそも、僕に対してちょっかいをかけてくるような女性はそういないと思うし」
「絶対に嘘です。貴方は密かにモテるタイプだと私は思っています……なにより、人でない存在にとても好かれているじゃないですか」
「全然嬉しくない」
スズ以外の人外に好かれたって怖いだけだ。
僕はそっとスズの手を握る。とても冷たくなっていたのでちょっとびっくりしたのだが、それを温めるようにして包み込む頃にはスズが僕の腕の中に転がり込んできた。
引率の先生方が前方で注意することなんかも色々と話してくれているが、僕とスズは全てをガン無視して2人だけの世界に入っていた。まぁ……今更、修学旅行って感じで学校の決まりに従う必要も無いと思う。僕とスズなんて、昨日の時点で2人きりで行動してたし。
「それで、今日はどうする?」
「ショッピングモールとかでもいいですね」
「えぇ……流石に京都に来てショッピングモールは引くよ」
「引くっ!? え、そんなに嫌ですか?」
「うん」
流石に京都に来たんだからある程度は色々なものが見てみたいんだよね。それこそ晴明神社とか行ってみたいし。ただ、昨日の出来事のお陰で、京都を無暗に歩き回るのは良くないことだってのはわかった。旅館ですらあんな風に、簡単に異界化させることができる存在がいるのが京都なんだなって。そうすると、京都市動物園の近くで見かけた龍神様は随分と心優しい神様だったんだな……太陽の神を血筋に持っているってスズは言ってたけど、納得だ。
「うぅ……御所とかにしませんか?」
「御所ならいいとかあるんだ」
まぁ……京都御所なら楽しそうだしいいかな。ついでに京都大学とかも見に行ったら面白いかもしれない……御所からそこまで遠くない位置だし。
団体行動をガン無視して京都を歩いていたのだが……どうやら僕は選択肢を間違えたらしい。スズの言う通りにしておけばこんなことにはならなかっただろうな……もっと彼女の意見を聞いておくべきだったか。
「スズ」
「動かないでください……下手に動くと、厄介なことになりますから」
僕とスズは予定通りに京都御所へと向かい、中を一通り見学してから外に出て、京都大学をちょっと見に行こうと思って路地に入って2回ほど曲がったら、空が暗くなって人の気配が消えたのだ。
「まず、ここから脱出する方法を考えましょう。と言っても、穏便な話ができる神が相手ならば領域の主に出会ってそのまま外に出してもらう方が早いんですが……そこはどうにもなりませんね」
「穏便に済まない相手だったら?」
「……最悪、京都で大騒ぎを起こすことになります」
だよね。
そもそも、僕の体質を考えると京都なんて無暗に歩き回るものではなかったんだろう。スズが傍にいるからって霊的な存在への危機感が薄れてしまったのが原因か……いや、原因をスズに擦り付けるなんて最低なことはしたくない。あくまでもこれは僕の不注意が生んだ危機だ。そう認識しなければなにも始まらない。
「気を付けることってあるかな」
「まず、絶対に神の領域で飲食物を口にしないでください」
「帰れなくなる?」
「人間ではいれなくなります」
もっと酷かった。
「それから、絶対に私の傍から離れないでください。神の領域内だからと言って、霊的な存在が絶対に襲ってこないなんてことは無いんです。神がしっかりと自治していればいいのですが……そういうのを放置して混沌を眺めているのが好きな神もいるので」
なんで悪いことで楽しんでんだよって思ったけど、幼い子供が虫を甚振って遊んでいる様に、きっと神々も人間のような矮小な存在に対して興味を持っていないだけなんだろう。
とりあえず、僕はスズに言われた通りに絶対にスズの傍から離れないようにしながら様変わりした街の中を歩く。やはり人の気配は感じないのだが……どうにも周囲から視線を感じる。
「正確に言うのならば、ここは神の領域ではありません」
「え?」
「京都には様々な神がいて、その力が互いに影響し合って世界にこうした裏の世界ができてしまうんです。つまり、ここは人間たちが生きる世界とは表裏一体の場所、裏側の世界……生のない存在たちが溜まる場所です」
それはつまり……悪霊みたいな存在ってことなんだろうか。しかし、それじゃあさっきの領域の主である神に外に出してもらうって方法が使えないんじゃないだろうか。
「裏の京都と言っても、それぞれ神々が勝手に分譲して私有地にしている筈なので、ここら辺を取り仕切っている存在に話を通せばいいんですが……問題は引きずり込まれてしまった場所が悪かったですね」
「御所の近くってのが?」
「はい……私ですら顔を合わせることができない、とてつもない神格の存在が守護していてもおかしくはない場所なんです」
「それって……ヤバいってことじゃないのか?」
「端的に言えばヤバいです」
えぇ……マジでさっさと京都から逃げればよかった。
「可能性はあります。苦肉の策ですが……母に助けを求める、とか」
「お義母さんに?」
「……会ったんですか?」
「え?」
ずいっとスズの顔が僕に近づいてきた。
いきなりのことだったので大した反応もできずに僕が1人で困惑していると、スズは勝手に納得して笑顔を浮かべた。
「昨日ですね。私が離れた瞬間に……なにかされませんでしたか?」
「なにもされてないけど、ちょっと喋っただけだよ」
「そうですか。なら──」
「助けてやらんことも無いぞ?」
スズが思案するように視線を彷徨わせた瞬間に、僕の背中から腕が伸びてきて、途轍もなく柔らかい何かが背中に当たる感触がした。
「……人の男に手を出さないでください、お母様」
「ん? 娘婿と仲良くしたいのは当然のことだろう? なぁ……蓮太郎殿?」
なんでもいいけど、僕を挟んで修羅場を繰り広げるのやめてくれないかな。
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