第7話 呼び方が旦那様に変わったよ
2人部屋を取り、お湯を借りて体を拭こうとすると、
「こ主人様、私が」と言ってルージーが俺の身体を拭いてくれた。お礼にルージーの背中を拭いてあげた。体型がずんぐりして見えるのは、脂肪の下にドワーフ特有の分厚い筋肉があるからだと分かった。余談だが、前を拭くのは、やんわりと断られた。
さっぱりしたところで、それぞれ買っておいた部屋着に着替えて、お互いのベッドに腰をかけ、これからのことを話し合うことにした。
「これからのことなんだが」
「はい、ご主人様」
「まず、俺の所持金だが、後、銀貨50枚ぐらいしかない」
「はい」
「まず、金を稼がないといけない」
「力仕事でしたら何でもやります」
ルージーは、太くて短めの腕を擦りながら言う。
「力仕事もいいが、もっと稼げる仕事がしたい。知り合いの商人に聞いた話だと、魔物を倒して魔石を売ればいい稼ぎになりそうだ。だから、魔物を狩りたいと思っている。魔石のことは詳しいか?」
「村にいるときに、夫や村の人たちと魔物を退治したことがあります。その時に殺した魔物から取れた魔石を貯めておいて、纏まったら村長たちが街へ売りに行っていました」
「村で魔物を退治したときは、どんな武器を持っていた?」
「女はみんな棍棒です。男たちは斧を持ちます」
「剣は使えるか?」
「いいえ、持ったこともありません」
「どんな魔物を退治するんだ」
「たいていはゴブリンです」
「ゴブリンとはどんな感じで戦った」
「棍棒で殴りました。たいてい一撃で仕留めました」
「そりゃ優秀だな。魔石を取り出したことはあるか?」
「村では女の仕事でしたから」
「魔石の相場は知っているか?」
ルージーは首を振って、
「申し訳ありません。知りません」
「謝らなくていい」
「はい」
「話を変えよう。ルージーのジョブとスキルを教えてくれ。それと、得意な武器はあるか?」
「ジョブは農民です。スキルは開墾、栽培、裁縫です。それとゴブリン狩りなら、棍棒で十分です」
「そうか。俺は剣を2本持っているが、剣が使えないなら無理に使わない方がいい。明日、森に行って木の棍棒を作ろう。今は、武器を買う金を節約したいからな」
「棍棒ぐらい、わざわざ買う必要はありません」
「力は強い方か?」
「ドワーフの村では、背が高かったので力は強い方でした」
「ドワーフは背が低いのか」
「はい、私より頭半分ほど低いのが普通です」
「その、なんだ、ドワーフの女はみんな、ルージーのように筋肉がついているのか?」
「みんな私より凄い筋肉がついてますよ」
もっとごついというドーワーフ女のイメージを頭から締め出しながら、
「こっちへ来て腕を触らせてくれないか」
ルージーが俺の隣に腰掛けたので、その腕を撫で
「凄い筋肉だな」と言いながら、体のあちこちを触る。太腿を撫ぜると止めようとするので
「俺と寝るのは嫌か?」
「そんなことはありません」と首を振り、俺の手を止めていた手を離す。
俺は腰に手を回して、ゆっくりと押し倒しながら唇を吸った。
その後は、時間をかけて慈しんだ。
翌朝、少し遅くに目を覚ました。
「おはようございます。旦那様」
一晩過ごしたことで呼び方が変わった。
今後は俺が面倒をみるというと、ルージーは涙ぐんでいた。
それにしても、昨夜は良かったと、思わずニヤけてしまう。
「とうしました?ニヤニヤして?」
とルージーか聞いてくる。不味い、朝から押し倒してしまいそうになる笑顔だ。だが、ここは我慢して、
「朝飯を食べに行こうか」と起き上がった。
宿屋の食堂で朝食を食べていると、ルージーがおずおずと言い出した。
「あの旦那様、今でなくてもいいのですが、リリカとアンヌも買い上げてやってもらえないでしょうか」
意外な申し出に、俺は眉を上げて、
「リリカとアンヌ?それって、奴隷商にいた娘達か?」
と聞き返した。
「はい」とルージー。
「理由を聞いてもいいか?」
「はい、理由は、2人はハーフノームとハーフリングだからです」
「その種族であることに、意味があるのか?」
「はい。ハーフノームのリリカは種族スキルとして特殊な植物魔法が使えます。それに、ハーフリングは、魔物が仲間と思って襲いませんで優秀な斥候になります」
「特殊な植物魔法って?」と俺が聞き返すと、
「囮になる植物を生み出せると言っていました」
「囮になる植物?その説明じゃ、よく分からないな」
俺は暫く考えたが、
「ルージーは、あの2人と仲が良かったのか?」
と聞くと、
「はい。心細い環境でしたので、励まし合っていました」
「そうか。あの2人と一緒にいると嬉しいか?」
「はい」とルージは瞳を輝かして頷いた。
そんな笑顔をされるとルージーの望みを叶えてやりたくなる。
「だけど、今の俺には金がないからな」
「無理なことを言いだして申し訳ありません。忘れて下さい」とルージーは俯いた。
「そのことは、金が出来てから考えよう。それより、今日は狩りに集中しよう」
朝飯を食べ終えた俺は、
「女将さん、今夜の宿代を払うから部屋をそのままにしておいてもらえるか?」と、今夜の宿泊を予約する。
「はいよ、部屋をそのままだね。銀貨3枚もらうよ」
女将は太ったお腹を揺すりながら答える。
銀貨を払い、一度、部屋に戻り装備を整える。
盗賊から剥ぎ取って俺が着ている胴鎧はルージーには大きすぎたので、そのまま俺が着ることにした。短剣が2本あるので1本をルージーに渡して腰のベルトに挟ませた。剣は2本あるが、ルージーの背丈では剣は扱えそうにないので、2本とも俺が持つことにした。そして、さらに俺は手に槍を持っている。
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