第2話 矢が飛んできた、ビビった。
空が明るくなったので目が覚めた。
朝か。
俺は巣の上で上半身を起こし、まずステータスを確認した。昨日と変わりなかった。
樹から降りて、また、川に沿って歩いていく。
暫く進むと、ゴブリンモドキを見つけた。地面に屈み込んで何かをしている。
無防備なところを後ろからそっと近寄り、木槍で背中を叩いて這いつくばったところを、奥の手の短剣で背中を刺す。ゴブリンモドキは、恐らく自分に何が起きたか分からないうちに死んだだろう。
さらに川に沿って進むと、今度は大きなウサギのようなものに出合った。そいつは、俺を見つけると突撃してきたので、今度も咄嗟に奥の手の短剣を突き出す。そいつと正面衝突した短剣は見事に眉間に突刺さり、そいつはグッタリとした。
こいつは食べることが出来ないか?
俺はそいつの後ろ足を切り落とし、皮を剥いで生肉にかぶりついた。
美味くはなかったが、丸1日何も食っていなかったので夢中で食べた。ウサギのように発達した後脚は、結構な筋肉がついていたので、脚1本でそこそこ腹が膨れた。もう1本の後脚を蔓で腰に吊るしてさらに川下へと歩く。
ゴブリンモドキをさらに3匹倒したところでステータスに大きな変化があった。
スキル 奥の手(短剣、盾)、短剣術1、盾術1,気配察知1、生食1
奥の手に盾が増えていた。例によって盾術1も付いている。
出してみると2本目の奥の手は透明な盾を持っていた。大きさはそれ程大きくはない。50センチ四方位の正方形だが、強度は十分にあり、ゴブリンモドキの牙や爪を防ぐには十分だ。直角の角を使って攻撃も出来る。その上で相手には見えないようなので、攻守の幅が劇的に広がる優れものだ。
それと予期しなかったのが生食のスキル。これで生肉を食っても食あたりの心配はなくなった。といっても1だから、少し心配はある。
次の日、歩き出したとたんに、いきなり5匹の狼に出くわした。正面から飛びかかってきた1匹は木槍で突き、右側から飛び掛かってきた1匹は奥の手の短剣で突く。左側の1匹は奥の手の盾で防ぐ。3匹の同時攻撃を退けると、3匹の後にいた残りの2匹が飛びかかってきた。1匹は木槍を振り回して体を横から叩く、その間に、腕に噛みつきに来たもう1匹を奥の手の短剣で刺し、まだダメージを与えていない左側の奴は盾で動きを邪魔し続ける。木槍で跳ね飛ばした奴が身を翻して着地して再び飛びかかって来たところを奥の手の短剣で刺す。あっという間に残り1匹になり、そいつに盾をぶつけて怯ませたところを透明の短剣で首を刺した。相手には奥の手の攻撃が見えていないので簡単に刺されてくれる。奥の手の短剣と盾のコンビネーションは強かった。とはいえ、もっと練習が必要なことも分かった。
数日後、気配察知に、複数の何かの存在を感じた。何となく人間か?という感じがあった。
俺は、足音を忍ばせながら、茂みや木の蔭に隠れてつつ、相手に気付かれないように注意しながら近寄ってみた。
そこには数人の男たちが居た。
森の中を移動しているようだ。
そいつらは俺が隠れている茂みの近くを通り過ぎていく。
「今度の・・・は楽しみだな」
「・・・が手に入ったら・・・」
断片的だが、言葉が聞き取れることに驚いた。
ここが異世界だとして、言葉が通じるかどうか不安だったからだ。
言葉が分かるのでひと安心だったが、同時に、話の内容が気になった。
その後、会話が全て聞き取れるようにもう少し近付いて聞き耳を立てていると、こいつ等は盗賊のようだ。
どこかで仲間と落ち合って、何かを襲うようなことを話し合っている。馬車を襲うという言葉が聞こえたから、旅人か商人を襲うつもりなんだろう。会話の内容から盗賊であることが確定した。
俺はそいつらに気付かれないように息を潜めてやり過ごすと、また、森の奥に戻った。
その日の夜、俺は樹の上の巣で横になって考え込んでいた。
『この世界にも人間がいたんだ。しかも言葉が通じることが分かった。危険は多いが、森の外へ出てみるか』
数日後、俺は意を決して、森のはずれを目指して歩き出した。
川に沿って進んでいたが、川が大きく曲がった先で森が切れていた。
川から離れるのは心配だったが、いったん森から離れて進んでみると、叢の向こうに道が見えた。俺は走り出して、その道までやってきた。目の前の道は左右に伸びている。
『さて、どちらに行くのが正解か?』
ここで思案して立ち尽くしていても仕方がない。道しるべにしてきた川は道の左側へと向かっていた。それなら川からあまり離れずに済む方向と考えて、左側に進むことに決めた。
道に沿って歩いていると、道から逸れた茂みに倒れた馬車があった。
ここで何かに襲われて道を逸れて、木の根か石を踏んで倒れたのか?そんなことを想像しながら馬車に近づいてみた。
天蓋が破れた荷馬車で、周りに人の死骸があるわけでもない。と思っていたが、周囲をよく見ると叢に頭蓋骨が隠れていた。奥の手を2本とも出して警戒を強めながら頭蓋骨のところまで行くと、その辺りに骨らしきものが散乱していた。人骨の周囲や馬車を探しても人の持ち物や荷物は残っておらず、何があったのかを探る手掛かりはなかった。
しかし、動物に襲われたなら持ち物が残っている筈だ。やっぱり盗賊に襲われたのか?
前にも森の中で盗賊を見かけているので、警戒しながら再び歩き出した。
透明な盾を体の前に構えて歩いていると、視界の隅に何かを捉えたので盾をそちらに翳した。何かが盾に当たって跳ね返った。道の左側の茂みから放たれた矢だった。
慌てて矢が飛んできた方に盾を構え直して、身を屈めながら道の右側にあった樹の方へ退避する。
その間にも2本目3本目の矢が飛んできたが、1本は運良く逸れて足元の叢に突き刺さり、もう1本は盾に当たって跳ね返った。
相手に盾が見えていないから、上手く防げたのであって、見えていたら盾からはみ出している所を狙われていたはずだ。
樹の後ろに回り込んで安全を確保したが、このままここにいても不味いと考え、囲まれてしまう前に逃げ出すことにした。
矢に狙われないようにジグザクに走ってその場を離れる。奥の手が便利なのは、背中側にも盾や短剣を構えることが出来ることだ。
奥の手の盾で背中を庇いながら、木立の多い方へ逃げた。
所々、木立が疎らな所があるが、構わずにジグザグに走りながら森に向かって走った。
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