第9話 決着へ
聡真はボルトの力を右腕に感じながら、刀の徒人が一気に距離を詰めてくるのを見据えていた。
「その一本で何ができる!」
挑発するように叫びながら、徒人は鋭い目つきで聡真を睨み、刀を振り下ろす。
瞬間、聡真は戦術刀でその攻撃を受け止めた。
「ガキィィィン!」金属同士がぶつかり合う音が耳を劈く。火花が散り、刀同士が激しくこすれ合う。その一瞬の接触で熱が生まれ、聡真の右腕にはボルトの力が流れ込んでいたが、それでもその重量感が腕にずっしりとのしかかる。だが、彼の体はその負荷に徐々に慣れつつあった。
(重い……でも、今は引けない!)
腕に発現したボルトの取りまわり方をよく考えながら、冷静に戦場を分析していく。こちらの武器は二つに増えた。だが、まだリーチ差では、遠隔斬撃を持つ相手に軍配が上がる。
(あの斬撃を見切れるかどうかがカギだ……!)
つばぜり合いは続く。敵の斬撃は強く、攻撃が繰り出される度に、聡真は自分の腕に感じる振動と衝撃を何とか耐えしのいでいた。火花が弾け、激しい音が何度も響く。まるで戦場そのものが彼らの闘いを見守るかのように、瞬間的な静寂と共にまた新たな火花が散る。
「ほら、どうした!?もう終わりか!?」
徒人がさらに刀を押し込む。聡真の汗が額から滴り落ち、彼は必死に耐える。
(あいつ、やっぱり……ならば、やはりまだ勝機はある!)
聡真が敵が持つ、とあるこだわりを見抜く。
聡真はつばぜり合いの中で気づいた。徒人は何度も自分から距離を詰め、近接戦闘をしかけてくる。遠隔斬撃の力もあるのに、わざわざ自分から距離を詰めてきているのだ。
「あんた、やけにこだわってるな?」
聡真が挑発する。
徒人の眉がピクリと動く。
「何が言いたい!?お前なんかに俺の考えがわかるものか!」
その反応に確信を得た聡真は、さらに挑発を続ける。
「そうやって、最後はいつも自分で勝ちを決めたくて仕方ないんだろ?」
「黙れ!」
徒人は怒りに満ちた声で叫び、力任せに聡真を押し込む。その勢いでつばぜり合いはさらに激化し、火花が激しく散る。
聡真は逃げ回りながら、周囲の環境を把握し、ついにガス爆発のあった事故現場に辿り着いた。息を切らせつつも、彼はこれが最後のチャンスだと悟る。そして、彼は自らを奮い立たせて、敵を挑発する。
「ここ、変な作りだよな。何か知ってるのか?」
聡真はわざと冷静を装い、軽く笑みを浮かべながら言った。
敵の徒人はその言葉に引っかかり、不快そうに眉を寄せる。
「何を言ってる?そんなことに何の意味がある?」
聡真は右腕のボルトを握りしめ、構えた。
「来いよ、倒してやる」
腕には未だ重みが残るが、ボルトから力を引き出す感覚は徐々に慣れてきていた。戦術刀をゆっくりと前に突き出し、目の前の敵を見据える。
「その半端な能力で、俺を倒すつもりか?驕ったな!」
敵の徒人は再び遠隔斬撃を使おうと身構えたが、聡真の誘導に乗り、無意識に地面を踏みしめていた。彼の足元は、ガスが充満する危険な場所だった。
(よく見ろ、俺……!)
聡真はガスの位置を正確に把握し、徒人の足元を確認した。ガスは無色透明だが、遠隔斬撃で周囲のガスがわずかに揺らぐのを彼の目は見逃さなかった。そして、ついにその一瞬が訪れる。
「お前がな!」
聡真が叫びながら突っ込むと、徒人は激昂し、遠隔斬撃を放った。その刃が聡真を追いかけ、空間を切り裂いていく。しかし、その斬撃はすぐにガスによって揺らぎ、わずかにその形を現した。
(イメージしろ…あの時受けた一撃を!)
聡真は鋭い目でその斬撃を見切り、ギリギリのタイミングで回避する。
そして、間髪入れずにボルトの力を込めた右腕で、刀の根元を狙い、一撃を放つ。
それは先日、聡真自身を窮地に追いやった、ボルトの徒人のチャージアタックだった。腕の延長線上にボルトが打ち出され、一時的にリーチが倍になる。
「ガキィン!」金属同士が激しくぶつかり合う。
その瞬間、聡真の打ち出されたボルトと敵の刀が交差する場所から火花が飛び散った。まさにその火花が、ガスの充満した空間に触れた瞬間、巨大な爆発が巻き起こる。
「ぐあああああ!!!」
徒人は咄嗟に叫び声を上げるが、その声も爆風の中にかき消される。爆発の炎が一気に周囲を包み込み、まるで空間全体が焼き尽くされるかのようだった。
「ぐぁぁ……!」
聡真も爆風に巻き込まれ、背中から地面に叩きつけられた。
衝撃で視界がぼやけ、耳鳴りが響く。だが、すぐに徒人の再生能力が発動し、致命的なダメージは受けずに済んでいた。
(……俺、まだ生きてるか?)
彼は体を起こし、荒く呼吸をしながら周囲を確認する。
一方、爆発の中心にいた刀の徒人は、完全に力を失い、倒れていた。服が焼け焦げ、体中に無数の傷を負っている。息も絶え絶えだが、まだ意識が残っているようだった。
だが、いくら徒人だろうと再生限界はあるらしい。聡真自身、今の傷が治る感覚で理解した。
この再生能力は精神力のようなものを消費しているのだ。それが何かはまだ詳しくわからない。だが、無限に傷を治せるような都合のいい代物ではないと確信があった。現に今倒れている敵は、損傷が激し過ぎて、回復が追い付いていない。
聡真はゆっくりと近づき、虫の息の敵を見下ろす。
「お前は自分でとどめをさすことにこだわりすぎた。それが敗因だ」
彼は冷静に、そして静かに言った。
「遠隔斬撃を撃ち続ければ、俺に勝ち目はなかった。最後の最後で攻撃範囲を見誤ったな」
最後の爆発を起こした一撃。あの時、聡真はガス溜まりの外にいた。踏み込んだとはいえ、中心を突っ込んできた相手とは、受けるダメージに雲泥の差があったのだ。
刀の徒人はその言葉に一瞬反応を示すが、もはや何も言えなかった。その顔に苦悶が走り、目の前の少年に敗北を悟ったかのように目を閉じる。
(こっちも、ガス爆発で生き残れるかは、賭けだったがな……)
斬撃の徒人は目を細める。
「無念だ……あいつと同じ武器の使い手に負けるとはな……」
「?」
聡真が止めを刺そうとした手を躊躇する。
何か、まだ話さなければいけないのではないか。
聡真は直感的にそう感じた。理屈とかではない。ただ、このまま何も言わずに止めを刺すのが、嫌だった。
「…お前は強かった。手段を選ばなければ、この立場は逆だっただろう」
それを聞いて、そいつの瞳に一瞬光が見えた気がした。
「…またな」
その言葉を手向けに斬撃の徒人の心臓を貫く。
相手の体がだんだんと塵になり、頭の花が枯れていく。そして、枯れた花の後には種が付き、それが塵の中に零れ落ちる。
そいつは何も言わなかった。
だが、いい顔で眠っていた。
その体が崩れ去り、風に乗って消えていく。
「はぁぁ……」
聡真は心の中でも安堵の息を漏らしながら、戦いが終わったことを実感する。種を手に取り、頭の花に近づけると、勝手にそれを吸収していく。
その時、とある映像が頭を駆け抜ける。
「待て!俺と戦え!俺を見ろ!」
そいつの視点は地面を這いつくばっていた。倒れているのだろう。
そして、その視線の先にはボルトの徒人がいた。
「お前は放っておけばもうじき死ぬ。そんな奴をわざわざ殺す手間は掛けねえよ。俺が興味があるのは徒人だけだ。」
そのままボルトの徒人は去って行った。
「今のは……」
頭に流れたその映像のことを考えていると、突然目の前に何かが降って来る。
「今度はなんだ!」
聡真が再び警戒に入る。
土煙が晴れると、そこには明るい茶髪の一人の少女が立っていた。
「あんた、甘いのよ。」
「!」
その姿に聡真は釘付けになる。
見るからに戦闘を想定した装備と服装。細いながらも筋肉が付いた体。そして、頭に咲いた白い花。
「徒人…!」
その少女からの敵意を感じながら、聡真は戦術刀を構えるのだった。
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