バイバイ、ネバーランド

森野苳

プロローグ

01

「渚ちゃん。お母さんから電話」


 雨が降り続いた今日も終わりに近づいていた。かけると床にジクソーパズルを広げて遊んでいたとき、電話に出た紗希さんに呼ばれて受話器を受け取る。


「もしもし」

『渋滞で遅くなりそう。あと1時間半くらいで着くと思う』

『いい子にしてるんだぞー』


 お母さんの声の後、お父さんの声も聞こえた。今は夜の8時過ぎ。プラス1時間半。いつもなら寝ている時間だけれど、約束した。


「起きて待ってる」






「渚ちゃん」


 肩を揺すられて目を覚ます。体を起こすとかけられていたタオルケットが落ちた。遊んでいるうちにラグの上で眠っていたらしい。時計は9時を過ぎていた。


「落ち着いて、聞いてね」


 落ち着いてと言う紗希さんの声の方が震えていて、その目は潤んでいる。なんだか胸がざわざわして、安心するものを探すようにあたりを見回す。司さんと翔が真面目な顔して私たちを見ていた。


「お兄ちゃんたちが――」


 涙と一緒に、見えない何かが自分の中からこぼれ落ちた。

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