第9話 選手登録の空欄を埋めておいてよかったね
7月22日。レース2戦目は新宿区内の一般道からスタートし、新宿区内のビル間の所定のルートを経由して、首都高速上に設置したゴールを目指す。2戦目はサイドカーを付け、人を乗せたが、江戸前レーシングチームにトラブルが生じていた。
若手メンバーの扇谷が係長に報告をした。
「大変です。山内と犬掛が来ません」
「どうして?」
「昨日、LINE上で喧嘩したみたいです。結果的に二人ともグループチャットから退会しました」
「なにやってるんですか?こんなときに・・・パイロットはDOKAN君だとして、これだとサイドカーに乗る人がいないじゃないですか」
その場にいる全員でメンバー表を見返した。DOKAN,山内、犬掛と飯塚の4名が記載されていた。ちなみに、『飯塚』とは係長の事である。その場にいある全員が、メンバー表に係長の名前が記載されていることに気づいた。全員の視線が係長に注がれていた。
「困りましたね。これだとサイドカーに乗れる人がいないですね・・・」
再び、全員の視線が係長に集まっていた。係長はこのことにようやく気付いた。一瞬にして顔がこわばった。
「え、わたしですか?」
DOKANが満身の笑みを浮かべながら係長の肩をたたいた。
「『係長』って人はあなただけでしょう?いきましょう。さ、サイドカーに乗って」
「あわわわ、私としたことが余計なことをしてしまいました」
係長はサイドカーに乗せられた。スタートの号砲音とともに、全チームが出走していった。
スタートして約10秒後、勝田が独り言を口にした。
「係長大丈夫かなあ・・・」
その勝田の様子に紗良が気づいた。
「わたし、心配だから見に行きますね」
紗良は自転車にまたがって、ホバーバイクを追いかけた。
「ああ、気を付けていってくるんだよ」
各機体はビル街に設けられたコースを飛行する。コースには多数のカーブが設けられていた。紗良は、その集団のたどり着く先を予測して直線に移動する。そうしれば、先頭を先回りして、どこかで出会える可能性があった。
中間地点をトップで通過したのは桜島レーシングだった。二位はメグロスカイビークルとの差は僅差。その後を5秒遅れて江戸前レーシングが三位であった。
サイドカーの選手はただ運ばれているだけではない。カーブに差し掛かれば体重移動をさせる。これによりコーナリングをサポートするのである。江戸前レーシングの不利は明らかであった。急遽、搭乗することになった係長は体重移動など知らないからである。三位のDOKANの背後に四位のイエローバタフライが迫っていた。
「くそ。このままだと追いつかれる」
DOKANはスロットルを操作しながら、必死にコーナリングしていった。
紗良はようやく先頭集団の前に回り込むことができた。そこは新宿副都心の摩天楼から強いビル風が吹き降ろす場所であった。不規則に吹き下ろす強風が、水平に広がる各機体のローターを激しく揺さぶった。
「うおおおおお」
DOKANもまた、必死に揺れを制動していた。
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