第25話 狛江莉弥は遠慮しない

「膝枕、にゃー姉の感覚と全然違う」

「男性と女性じゃ肉の付き方も違うはずだしな。……居心地悪いならやめるか?」

「ううん。これはこれで趣がある。それに、ナツ兄にひざ枕されてるっていうこの状況がえっちで非常によき」


 現在。俺は莉弥の部屋で彼女を膝枕していた。

 どうしてと聞かれても、莉弥が『やってほしい』と言ったからに他ならない。


「膝枕は人類の夢」

「随分規模がでかくなったな」

「ん。男の子も女の子も膝枕されたい人はされたい。それにここ、ナツ兄の体温いっぱい感じられて楽しい」

「楽しい……はよく分からないけども、それなら良かった」

「ん」


 もぞもぞと体を動かし、ベストポジションを見つけたのか莉弥がそこで止まる。


「ナツ兄、暇だったらおっぱい揉んでていいよ」

「絶対に暇でやっていいことじゃないな」


 莉弥に遠慮してほしくない――とはいえ、ここで触りまくるのもなんか違う気がする。


 もちろん俺も健全な男子高校生である。莉弥に言った通り、そういった欲求は凄まじくある。

 だかど、その欲求を押さえる理性もある。あと、これで触りまくるのはちょっとかっこ悪いような気がするというか、恥ずかしいというか。

 なんなら膝枕をしてるこの状況もちょっと恥ずかしい。風呂に入っておけば良かった。


「じゃあ心臓の音聞いて。私も聞きたい」

「……」


 ものはいいようとはこのことだろう。目的は違えど手段は同じである。

 少しだけ迷った。しかし、これでも触らないとなると、それは逆張りが過ぎないかとも思う。


「ん。どくどくしてる」


 葛藤している間に、莉弥が手を伸ばして俺の胸に手を当ててきた。……このめちゃくちゃ早い心臓の音が聞こえてしまっている。


「ナツ兄も。それとも私が触れさせる?」

「…………それはさすがに情けなさすぎるな」


 やばい。俺めちゃくちゃわがままになってる。これはすっごく良くない。さっきあれだけ言ったというのに。

 おそるおそる手を伸ばす。

 すぐそこに彼女は居るのに、触れるまでがやけに遠く感じて――


 ――むにょん、と。指が簡単に沈み込んだ。


「もっと、指広げて。包み込むみたいに」


 ……分かっている。心臓の位置って小さい頃は勘違いしていたが、案外中央に近い。心臓の音を聞くだけなら、そんなことをする必要はない。指二、三本で足りるはずだ。

 だけど、俺はその言葉通り指を広げて――


 手のひら全体が、指の全てが彼女の豊満な胸を包み込んだ。

 手のひらをいっぱいに広げても、零れてしまう。莉弥は仰向けだというのに、ずっしりとした重みを手のひらに感じる。


「……にひっ」


 莉弥が嬉しそうに笑う。ちょっと仁弥に似てる笑い方だ。

 それは――彼女が本当に嬉しい時にしか見せない笑い方であった。


 懐かしいと思いながらも……それ以上に俺は驚いていた。

 その大きな胸の奥からは――ドクドクと、俺にも負けないくらいの大きさと早さで心臓の音が鳴っていたから。


「私もドキドキしてるんだよ。男の子の経験、ナツ兄しかないから」

「……そ、そうなんだな」

「ん。こんなことするのも出来るのも、ナツ兄だけ」


 彼女の発する言葉は一々心をくすぐってくる。というか……手のひらに当たるものが柔らかすぎる。し、下着越しでもここまでなのか。


「ナツ兄、女の子の耐性全然ないね」

「そ、そりゃ仲の良かった女の子なんて莉弥と仁弥くらいだし。こうやって触るのも……二人が初めてだったし」

「そっか。嬉しい」


 胸を触られながら莉弥は微笑む。

 それはどこか背徳的で――咄嗟に俺は手を離していた。


「む。もう終わり?」

「あ、ああ。終わりだ」


 これ以上触れていたら――反応してしまう。何がとは言えないが。今反応してしまうのは非常に、非常にまずい。


「もうちょっと触ってても良かったんだよ?」

「これ以上は耐えられそうになかった、から」

「残念」


 と、そこで莉弥も手を離してベッドに座った。膝枕の方も終わりで良いらしい。


「……でも、実は私も限界だったかも。えっちなのは好きだけど、私も男の子耐性低め」

「そ、そうか」

「ん。だから最後に後一個だけいい?」

「なんだ?」


 莉弥がじっと俺を見てくる。そして――腕を広げた。


「ぎゅーしよ?」


 ん゛っ、と変な声が漏れそうになった。

 美少女にこれを言われるのは……ちょっと可愛さがオーバーフローしてしまう。

 しかし、だ。


「今はダメだ」

「なんで?」

「汗かいてるから。外、結構暑かったんだよ。お風呂に入ってからなら――」

「やだ」

「え?」

「やだ」


 まさかそう言われると思わず聞き返すも、莉弥の返事は変わらない。

 それどころか更に腕を広げ、ん、と彼女は声を漏らした。


「むしろそれが良い」

「急に変態みたいなことを……そうだった。この子えっちだった」

「そう。私はえっち。失うものがない変態は無敵」

「無敵とか自分で言い出しちゃったよこの子」

「正確には、失うものがないって分かった変態は無敵。えっちだから受け止めて、ナツ兄」


 莉弥が小さく、イタズラっぽく笑う。けれど、その瞳に不安の色は見えず――それは俺を信じているということで。


「少しだけ、だからな」

「ありがと。ナツ兄のその『しょうがないな』って顔好き」


 莉弥の言葉にはなるべく反応しないようにして、彼女の背中に手を回す。

 莉弥は即座に俺の背に手を回し、ぎゅうっと音が立ちそうなくらい強く俺を抱きしめてきた。


 同時に大きな塊がむにゅぅ、と俺の胸に押し潰される。すると、莉弥がすんすんと俺の胸元のにおいを嗅いできた。


「ナツ兄、ほんとに汗かいたんだね」

「だ、だから言っただろ? は、離れるから――」

「やだ。ナツ兄の汗のにおいは嫌じゃない。制汗剤の匂いもするし」

「り、莉弥……」

「ナツ兄も私の匂い、いっぱい嗅いでいいよ」


 莉弥にそう言われ、今までは気にしないようにしていた嗅覚に意識を注いでしまう。

 彼女の体からは、甘いクッキーのような匂いがしていた。


「ぎゅー……」


 彼女の声も近く、それら全てに理性をどろどろに溶かされそうになる。気を、気をしっかり保たねば。


「ねえ、ナツ兄」

「なんだ?」

「私、もう遠慮しないからね」


 莉弥が俺の首筋に頬を擦りつけてきた。汗で気持ち悪くないかと思うも……言葉通り、彼女は遠慮していないだけなのだろう。

 これからを思うと凄く不安であるが――不安だけど、嫌だとは思わない。


「ああ。遠慮なんかしないで全部ぶつけてくれ」

「にひひ。言質とった。じゃあ――」


 莉弥が一瞬言葉を句切る。嫌な予感がするも、俺が口を開くより先に――


「にゃー姉が帰ってきたら、にゃー姉ともいっぱいぎゅーしてね」


 彼女はそう言って、首筋に顔を埋めてきたのだった。

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