第12話 高橋のたくらみ
「……くそ」
高橋は、イライラしながらコンビニの前で缶コーヒーを飲んでいた。
浅黄に引っ張られて警察に預けられた高橋は、何時間も説教をされた。最終的には、親と学校に警察から連絡を入れられた。
高橋にとっては、学校や親に説教されたことはさほど大きなことではなかった。学校は普段から高橋の行為を黙認していたし、親だって高橋に興味を持ったりはしていなかった。
だから、大人の説教なんて心に響かなかった。
それよりも、歳下の浅黄にやられたことの方がずっと重大なことであった。負け知らずの高橋に、浅黄は初めて土をつけた人間である。
それが悔しかった。
高橋は、A級冒険者だ。
無論、高橋より強い人間は山ほどいるだろう。S級冒険者たちは、高橋が軽々と投げ飛ばすほどに強い。幼い浅黄にだって、高橋は負けてしまった。
それまで、高橋は自らの力を過信していた。自分ならば、S級冒険者にだって手が届くものだと思っていた。だが、結果は惨敗だ。
高橋の強さは、取り巻きがいることで助長した強さであった。取り巻きを引きつけるだけの強さを得たことは、高橋の自信に繋がっていたのだ。だが、その強さは井の中の蛙に過ぎなかった。
浅黄は、十四歳だ。
高橋よりも歳下なのに、攻撃の威力はどれも重いものだった。
あれでもS級冒険者のなかでは、浅黄の腕力は弱いほうだ。スピードは誰も追いつけないが、モンスターを一撃では倒せない。浅黄は、自らの速さで翻弄して相手を倒すことを得意としているのだ。
そんな戦法を得意としている浅黄に、一撃でこっぴどくやられた現実が許せない。
それと同時に思い知らされてしまった。
S級冒険者たちが達している場所は、自分ではついて行けない領域だった。
幼い浅黄の実力の一端。
その威力に、自分の強さなど所詮はハリボテなのだと高橋は思い知らされた。
あの領域まで行きたい、と高橋は思った。
それは鳥になって空を飛びたいと言うような叶うことがない夢でもあった。
「よう、望。久しぶりだな」
高橋を呼んだのは、中学時代からの友人だ。
髪を派手に染めていて、顔中がピアスだらけの男である。カタギには、とても見えない。
少なくとも中学校の頃には、もっと大人しい格好をしていた。もっとも、その頃から耳にピアスをつけていたので、今の片鱗は見せていたのだが。
奇抜なファッションを好む友人に、高橋は嫌な顔をする。それなりに馬の合う人間なのだが、彼のファッションセンスだけは好きになれない。
「こいつを頼むってことは、ダンジョンがらみなんだな」
友人は、高橋にピルケースを投げた。
高橋は、それを開けて中身を確認する。頼んだ通りの品が、そこには入れられていた。
「これが身体能力を上げる薬ってやつか……」
水色の薬はピルケースに十分な量だけ入っており、それに高橋は満足した。
この薬は、冒険者の身体能力を上げる薬だ。
一種の興奮剤であり、心臓に負担をかけるという理由から日本では認可はされていない。しかし、日本以外では認可している国も多いので、違法な薬にしては比較的ではあるが安く手に入る。
そのせいもあって、使用する若者数は増え始めている薬である。ギルドと警察が目を光らせているので、大っぴらな商売は出来ない。
しかし、自身が強くなったと錯覚できる薬は飛ぶように売れていた。高橋も薬の噂は聞いていたが、自ら手を出そうとは思わなかった。自分は十分に強いと思っていたからである。
しかし、今は違う。
高橋は自分よりも強い存在を間近に見て、それを超えたいと思った。そうでなければ、プライドの修復がならないと思ったのだ。
「ああ。これさえあれば、ダンジョンのなかでは無敵だからな」
高橋の友人たる売人は、にやりと笑った。売人にには、高橋が次の薬を買いに求める未来が見えていた。けれども、そんなことは口に出さない。
友人の思惑を他所に、高橋は無邪気に喜んでいた。
この薬さえあれば、ダンジョンの中で無双が出来る。高橋を見下していた浅黄だって、高橋の実力を認めるはずだ。
いや、絶対に認めさせる。
聞きかじった話ではあるが、S級冒険者は自分たちの後進を育てるために弟子をとる案を進めているらしい。S級冒険者は慢性的な人手不足であり、弟子を取るというのはありえる話しだった。
この薬さえあれば、高橋が浅黄の弟子の座に収まることも可能かもしれない。いいや、むしろ自分以外はありえないであろう。
そして、浅黄を超える冒険者になるのだ。
「S級冒険者どもを見返してやるぜ」
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