私、人気Vtuberの彼女してます〜配信の切り忘れにはご注意を〜

終夜こなた

プロローグ『透明な独白』

 ——かつて、幼い頃の私は一体何になりたいと、願っていたっけ。

 仕事終わり。夜のベランダ。紫煙しえんくゆらせ、茫洋ぼうようと街の景色を見下ろす私は、ふっとそんな事を考える。

 描いた夢は、沢山あった。

 パン屋さんになって、ふわふわで美味しいパンを焼きたい。

 お花屋さんになって、目一杯咲き誇る花々に水をやりたい。

 プリキュアになって、悪者を退治してみんなのヒーローになりたい。

 物心が付く前、沢山の夢を頭の中で描いていた。片手の指じゃ足りない数の夢を、思い描いていたように思う。時に言葉に出したり、文字にしたためたりした事もあったか。

 それらの夢に、大それた理由はない。その場その場で、その瞬間幼心をくすぐった夢を、意気揚々と語るだけ語っていた。

 何一つとして疑わず、自分の未来に思いを馳せ、早く大人になってキラキラの世界に行きたい。まだまだ小さかった私は、純粋無垢にそんな事を考えていた気がする。

 だけど、悲しきかな。現実は非情であり、無情だ。

 小さな私がいつの日か描いた夢は、ついぞ叶わず死んでいった。


「…………ふぅー」


 ——かつて、幼い頃の私は一体何になりたいと、祈っていたっけ。

 唇から吐き出した真っ白な煙が、呑気に宙を漂って、消えた。

 変わり映えのない日々を過ごしている。ありふれていて、ありきたりな日々だ。

 今の私に、夢はない。特別な名前を持たず、茫漠ぼうばくと毎日を消費している。

 仕事をして、家に帰って、家事をして、タバコを吸って、床につく。

 抱いた夢を叶える為、必死に駆ける事も、苦しいともがく事も、報われたと涙を流す事もない。

 変哲無い、平凡な人生。己の半生を振り返った時、自分は何も特別な事をしてこなかったのだと、悟る。

 彩のない、灰色の世界。そうっと視線を落とし、見つめた掌は透明だ。


「…………私、何考えてるんだろ」


 ——かつて、幼い頃の私は一体何になりたいと…………笑っていたっけ。

 独りごちた私の言葉は、誰にも拾われずに転げ落ちて、世界に溶けた。

 後に残るは、何色でもない……無色透明な人間、ただ一人だけだった。

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