第2話 パン屋
「運転中どうにも胃が重くて、気分が悪くなってきたもので」保安官が申し訳なさそうに言った。「もし重曹がおありなら、拝借できませんか?」年は六十代で、いかにも母親といった雰囲気を漂わせているパン屋のおばあさんはにこやかに微笑んだ。「ちょっとキッチンに座ってらしてくださいな、保安官。あいにく重曹はありませんけど、おいしい紅茶を淹れてさしあげましょう。不思議なほどにすっきりするはずですよ。お試しあれ」
保安官が素直に腰を下ろすと、おばあさんはこぢんまりとした使いやすそうなキッチンで忙しげに動いていた。生活の糧を自分で得ながら一人暮らしをしている親切な女性のことを、保安官は常々尊敬していた。
保安官は紅茶を飲み終えると、立ち上がっていとまを告げた。「ずいぶんと楽になりました。本当にありがとうございました」
外に出たところで、おばあさんのバンが家の南側に停めてあるのを見かけた。
話に聞いている通り、おばあさんは自分で焼いたパンやケーキやパイを高速沿いのホテルに卸しているのだ。
保安官はバンのピンクの文字を読んだ。“ダフィおばさんのホームメイドパイ、ケーキ、パン”。それから思案顔でしばらくおばあさんの家を見つめていた。
街に戻ると、保安官は博士に電話をかけた。高名な犯罪学者に家宅捜索令状をとるべきだと熱心に勧められ、一時間もたたないうちに保安官はおばあさんの家に引き返した。
家を捜索した結果、ダフィおばさんのパイ、ケーキ、パンは、店で売っているものを買ってきて、包装をはがしただけだということが判明した。だが、大きな長いパンの塊に一本ずつ隠されていた密造ウィスキーは、間違いなく自家製だった。
なぜ保安官はおばあさんを疑ったのでしょうか
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