第十七回

送ってきたのは、翡翠ひすいというプレイヤーだった。どうやら、僕と会いたいらしい。


 僕は少し考えた。えっと……もしかして、僕が忘れてるだけ? いや、違う。たぶん――いや、絶対に――そんなプレイヤー、見たこともない。もちろん、フレンド登録もしてない。


 そうなると、僕にメッセージを送れる人は二種類だけだ。ひとつはDCのフレンド。もうひとつは、通話アプリのLAIN。

 前者のフレンドは、ユウキとアミの二人だけ。あとは4X系とか建築系のゲームのグループが少しあるけど……その人たちがVRMMOやってるとは思えない。


 残る可能性は、LAINの方だ。そっちは、家族も入ってる。パパとママ、それにユウキとアミ。4人。あ、倍になった。


 まあ実際はもっと多い。クラスの連絡用グループもあるから。先生はいない。先生は「生徒同士で自由に」って感じで、連絡事項は先生→班長→僕たち、という流れ。


 もちろん、今のクラスだけじゃなくて、一年・二年のときのグループも残ってる。クラス30人以上×3年分で、重複を抜いても60人以上の友だちリスト。別に用がなければ削除もしないし、そりゃあ、2Cのグループもまだある。今はもう沈んでるだけで。


 だから、メッセージを送ってきたのは、確実に僕の知り合い――たぶん、顔を思い出せないだけの――誰かだ。

 ユウキとアミには「知らない人は信じちゃダメ」って何度も言われてるけど、知ってる人なら……だ、大丈夫だよね?


 僕>翡翠ひすい:いいよ。

 翡翠ひすい>僕:じゃあ、後ろを向いて?

 僕>翡翠ひすい:???


 う、後ろ……? なにそれ――えっ!?!?


 な、なんで人がいるの!? さっきまで誰もいなかったのにっ!? い、いつの間に!?!?!?!?!?


「君が小さく跳ねてたときにね。」


 にっこりと笑う彼女。……明るい笑顔なのに、なんで僕、背筋がゾワッとしたんだろう。こ、怖い……。


「紫苑……じえくん……」

「な、なんで……僕の名前を……」


  なんで知ってるの!? もしかして、現実の知り合い!?


「もうちょっとよく見てみなよ。……私だよ。」

「え?」


「私だよ」は詐欺の常套句じゃ……でも、なんか、聞き覚えのある声だ。


「僕たち、知り合い?」

「今朝、会ったでしょ?」

「……え?」

「はぁ……」青髪の少女は小さくため息をついた。「ヒントをあげる。私の髪、何色?」

「青色。」

「名前にも、同じ色が入ってる。」

「青……あ、青山?」

「――班長っ!?」

「正解。」


 班長はぱん、と手を打って、うれしそうに笑った。


 いや、これは仕方ないでしょ!? いつもの班長と今の姿、まるで別人なんだから!

 普段は真面目で、いかにも優等生。黒縁メガネがトレードマーク。なのに今は――やけに露出の多い服で、特にスカートの裾なんて膝上まで短くされてて、しかもレース付き……!?


「これね、丫環やーふぁんだよ。」


 僕の視線に気づいたのか、班長――いや、翡翠さん――が言い足した。


「そ、そんな丫環やーふぁんある!?」

「ファンタジー小説とかに出てくるメイドさん、いるでしょ?」

「め、メイド?」

「うん。それでね、メイド喫茶だと正統派の服を短くして、レースのエプロンをつけるじゃない? だから、私たちもそれを中華風にしたの。」


 ……なんか、おかしい。どこか変。でも、どこが変なのか、わからない。


「それでね、丫環やーふぁん喫茶じゃなくて、中華風だから――丫環やーふぁん茶莊ちゃーじゅあんって名前にしたの。」


 もう確信した。絶対どこかおかしい。でも、突っ込めない。


「ねえ、一緒にやってみない? じえちゃん?」


 そう言いながら、翡翠ひすいは自分が着ているのとまったく同じ服を取り出して、にこっと笑い――

 ゆっくりと、僕のほうへ歩み寄ってきた。


     *


花語軒かゆしゅえんの服装って、こんな感じかな?

思ってたよりずっといいかも……。

https://kakuyomu.jp/my/news/822139837937154818

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る