第十六回

『ピロン!』


 メッセージが届いた時、僕はちょうど煉藥れんやおの最中だった。


 煉藥れんやおを行うには、まず煉藥爐れんやおるーを用意して、材料を入れ、煉藥れんやおスキルを発動する必要がある。

 レシピはNPCから買うこともできるし、自分で試行錯誤して作ることもできるけれど……後者は成功率がとても低い。たとえ材料が正しくても、成功率は3%程度しかないらしい。


 スキルを発動すると、内力ないりきを消費して火力を調整し、煮え方に応じて火を強めたり、弱めたりする。さらに精煉じんりぇんというスキルを使えば、できあがる薬の数や品質を上げることができる。


 たとえば今、僕が作っているのは一番基本的な薬――金創藥じんちゅぁんやおという一星の回復薬だ。止血草じーしぇつつぁお夏枯草しゃくつつぁおを一つずつ使い、最大で三つまで作ることができる。火力をきちんと管理できれば成功だ。同じレシピでも品質には「普通」「高級」「極品」があり、精煉じんりぇんを上手く使えば草薬の雑質を取り除けて、高品質を狙える。


 ……もっとも、高品質でも効果が5%ほど上がるだけなんだけどね。それでも経験値は多くもらえる。だけど火力調整や精煉じんりぇんには内力ないりきを使うし、足りなくなると失敗する。


 だから低レベルのうちは、「安定して量を作るか」「品質を上げて数を減らすか」、どちらかを選ばないといけない。

 もちろん、レベルが上がって内力ないりきが増えれば、両立も可能になる。でも今度はより高ランクの薬を作ろうとすると、必要な内力ないりきも増えるから……結局は苦労が絶えない。


 武功と同じで、アイテムも一星から五星まであって、星が多いほど品質が高い。そして各星にも「普通」「高級」「極品」がある。極品の一星は、二星の普通品より強いこともある。


 生産職は煉藥れんやお鑄鐵じゅうてぃえ裁縫さいふぁん廚藝ちゅいー木工もーごん石工しーごん畫符ふぁーふーの七種類。

 煉藥れんやおは薬と毒の両方を扱うけど、門派によっては配方が分かれていて、たとえば衡山には毒のレシピがほとんど無い。でもスキルやレベルは共通だ。


 鑄鐵じゅうてぃえは金属製の武器や鎧を作る。重装系は特定の内功がないと装備できないけど、軟甲のような防御力の高い軽装もある。ただし最低でも四星クラスが必要だ。


 裁縫さいふぁんは衣服製作。装備部位は頭、上衣、下衣、手袋、靴、アクセサリの6種類。アクセサリは3つまで装備できるから、合計で8部位になる。裁縫さいふぁんはそれら全部を作れる唯一の職業だ。


 廚藝ちゅいーは料理。今のところゲームには空腹度はなく、飢えてもデバフはない。でも食事をすると一定時間ステータスが上昇する。たとえば楊州炒飯やんじょうちゃおふぁんなら力が1%上がり、12時辰(=現実で24時間)持続する。


 しかもこのゲーム、新技術で「味覚」が再現されていて、本当に味を感じられるのに身体には影響しない。だから、甘い物好きな女の子プレイヤーには大人気らしい。


 木工もーごんは木製の武器や防具、家具も含まれる。

 石工しーごんは主にアクセサリだが、石製の武器や家具もある。中華風ゲームだけあって、玉(ぎょく)製品も多く、それらはすべて石工しーごんの範囲だ。


 畫符ふぁーふー符咒ふーじょうを描くスキルで、これは陣法じぇんふぁに使われる。陣法じぇんふぁは武當や道教系の小門派が使う特殊スキルだ。


 陣法じぇんふぁは戦闘中に使用し、味方全体を強化できる。廚藝ちゅいーと違って、料理は誰でも食べられるけど効果が低い。一方、陣法じぇんふぁはパーティ専用で、内力ないりきを消費する。


 たとえば、一星の回命陣ふぇいみんじぇんを張るには60点の内力ないりきが必要で、その分は解除するまでずっと拘束される。さらに陣の効果範囲内に味方がいないと意味がない。でも最大30メートルまで広げられるから、ボス戦のフィールドでも十分にカバーできる。


 ……やっと煉藥爐れんやおるーの中が赤く光った。僕は慌てて気持ちを整え、火力を微調整して仕上げに入る。進行度が90%、95%、96%……そして100%!


 よし、成功! そっと煉藥爐れんやおるーを開くと、2瓶の金創藥じんちゅぁんやお(高級)が出来上がっていた。さすがゲーム、材料を入れただけなのに、ちゃんと瓶詰めで出てくる。鍛冶も同じで、鞘付きの剣が自動で完成するらしい。


 僕の今のレベルと内力ないりきなら、普通品質で5瓶、高級で2〜3瓶が限界。極品なんて、一度も成功したことがない。

 最も効率的なのは、煉藥れんやお成功時に内力ないりきを全部使い切ること。そうすれば経験値が一番多く入る。だから僕は高級狙いでやっている。


 ――そして、ついに煉藥れんやおがレベル10に!


「や、やった……! 初めての霊感ポイントだ……! よっしゃー! ばんざーい! あはははっ、やったぁ!」


 ……あ、あれ? いまの僕、誰にも見られてないよね? ちょっと小躍りしちゃったけど……。


 ちょうど手が空いたので、僕は通信を開いた。すると――見覚えのない名前から、メッセージが届いていた。

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