異世界バット~魔法が使えないので、バットで戦います~
イグチユウ
00夜の公園
バットが風を切る音が街灯に照らされた夜の公園に響く。ここは近所の公園で象の形の滑り台と砂場、切れかけで点滅している電灯、綺麗とは言い難い男女共有のトイレ、トイレの横にはポール型の時計が設置されている。どこにでもあるような作りの公園だ。時計を見るとすでに時刻は十時を回っている。日が沈んでもう何時間も経つとはいえ夏も真っ盛りの時期のため空気は湿気っていて熱っぽい。ユニフォームの下に身に着けているシャツが汗を大量に吸って肌にべったりと張り付いていた。
――俺のせいで負けてしまった。まだまだ努力が足りない。
バットを振りながら何度も頭の中によぎるのは同じ光景だった。
一週間前、甲子園への出場を決める地方大会の決勝。
最終回、九回の裏、ツーアウト満塁の場面で自分に打席が回ってきた。得点は1点差、逆転のチャンス。
そこで俺はしくじってしまった。打ち損じた打球がライトに飛んでいき外野フライ。それで今年の夏の大会は幕を閉じた。
――驕っていた。自分の才能を過信していた。
小学生の頃から同級生たちと比べて体格がよく何度も大会でチームを優勝に導いてきた。周囲からは将来は凄いプロ野球選手になると期待されてきた。俺も自分の才能を信じて疑わなかったし、その才能を伸ばす努力を惜しまなかった。
――最後の打席に限った話だけじゃない。あの日俺はずっと力んだままだった。
あの日、俺は一本もヒットを打てなかった。肩に力が入っていて、全く普段どおりにいかなかった。甲子園出場という夢が目前となったことで緊張していたのだ。一年生ながらに期待されレギュラーになることができたというのに。
三年生の甲子園出場の最後のチャンスを俺が潰してしまった。先輩たちは涙を流す俺にお前のせいじゃないと言葉をかけて慰めてくれが、俺は自分自身を許すことができなかった。こんな不甲斐ないままでは甲子園出場なんて夢のまた夢だ。
――ポツン。
肌に汗ではない冷たい水滴が降れた。雨が降り始めたようだ。
少し遠くから重たい雷鳴が聞こえた。
――体が冷えるといけない。きりよくあと十回で終わりにしよう。
そう思ったその時、衝撃と共に世界が光に包まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます