第20話: 星を越えた二人

「あなたの星に行くとは、どういうことでしょうか?」

「僕は、ここに来るときに星鏡の扉って言うのをくぐってきてるんだ。トラウムが言うには、こっちからでも二人までは通れるって言ってた。ステラも僕といっしょに青い星に行ってみない?」

 なんだかちょっとデートの誘いみたいだなあ。ドキドキする。

「それは、この星を捨てろと言うことでしょうか? 私だけが逃げろと?」

 ステラの目はちょっと怒っている。

「違う違う、まあ正直トラウムからはそれをお願いされてたんだけど。僕はみんなをたすけたいからさ」

「まあ、それならいいのですが」

 あぶない。変な言い方でステラを怒らせるところだった。

「僕の星でステラに見てほしいものがあるんだ。今のステラに必要だって思うから」

「見てほしいもの……? それはいったい」

「うーん、行ってからのお楽しみかな」

「なんのためにでしょうか……それが星を救うことと、どう関係が」

「それも見せたいものを見せてからかな。きっとよろこんでくれると思うんだけどなあ」

 ステラは考えこんだ。きっと今の危機の状況や星の姫としての立場、青い星への興味とかいろいろ考えたんだと思う。

「わかりました。私、行きます」

 出た答えはOKだった。そうなれば後は実行あるのみ!

「じゃあ、トラウムのところに行って星鏡の扉をだしてもらおう!」

 ステラの手を引いて走り出そうとした。そのとき。

「それにはおよびませんよ。ここにいますから」

 トラウムの声がした。

「わあ! びっくりした」相変わらず読めないなあ。

「二人で私を探しに来たと言うことは、私の提案に乗ってくれると言うことですか?」

「ううん、そうじゃない」

「ならなにを?」

「この星を救ってみせるよ、みんなまとめてね」

 トラウムの顔がけわしくなる。

「そんなことはできないと言ったはずです。星の石の力は使えないのですよ」

「それができるんだな。ここまでいろいろやらされてきたんだから、悪いと思ってるんなら、ちょっとだけまかせてみない?」

 トラウムは考え込んでいる。きっとステラには言いたいことがいっぱいあるんだろうけど、だまっていてくれた。

「わかりました。でも、星が落ちるまでです。もし星太くんのアイデアが無理だった場合は、二人で逃げると約束してくれますか?」

「できなかったらね」

 でも、僕はこのアイデアはいけるって思ってる。

「わかりました。何をすれば?」

「星鏡の扉を出してよ、いつもみたいに。それだけでいい」

「よくわかりません。逃げるでもないのに、扉を使うと?」

「うん、まあ、少しだけまかせてみてよ。トラウムが見つけてきた僕を信じて」

 僕は自信満々で答える。

「いいでしょう。私にはもう何もできません。あとはよろしくお願いいたします」

 そういうとトラウムは、なにやら言葉をつぶやく。

 僕らの目の前におなじみの扉があらわれた。

「これが星鏡の扉……」

 ステラがぼうぜんとつぶやく。ステラもこれは知らなかったんだな。

「うん、さあ行こうよ青い星に!」

 僕はステラの手を引いて、扉をくぐる。

 この後の僕の行動で、星の運命が決まるんだ。


 扉をくぐったときのまぶしさに慣れると、いつもの僕の家が見えてくる。

 たどりついた先は、うちの屋上みたいだ。

 ステラはとまどってたけど、なんとか目がなれて外が見えるようになったようだ。

「ようこそ、青い星へ!」

 そんなことを言ってみた。

「ここが青い星……」ステラは辺りをキョロキョロと見回している。

「意外に変わんないでしょ? 僕もそう思ったもん」

「いえ、こんなにたくさんの家も灯りも私の星にはありません。こんなに広い街も。ああ、ここが私があこがれた青い星なのですね。すてきです。たくさんのものがあり、なんでもできる。可能性がある。やはり、比べものになりませんね……」

 ステラの声はさみしそうだ。

「そうかな、僕はここに住んでるけど、それでもステラの星がすてきだと思ったよ」

「それは、見たことのない土地だからでしょう。生きる場所ではないからです」

「ううん、僕がすてきだと思ったのは、そこじゃない。街も人もそうだけど、僕はすい星トラウム自体がとても美しいと思ったんだ」

「星自体が……?」

「うん、ステラだって、青い星にあこがれたのは遠くから見てたからでしょ。じゃあ、それを僕の星からやるとどうなるかっと。それを見てもらいたくてさ。さあ空を見て」

 僕はそう言って、ある方向を指さす。ステラもつられてそっちを見た。

「え……、あれは……?」

 その方向には、輝きながら広く尾を引く天体があった。

 もちろんすい星トラウムだ。すい星は今日も夜空を美しく駆けていた。

 広がるすい星の尾は、きらめく星屑を集めたようでもあり、夢と希望が輝いているようでもあった。すい星トラウムはそれを引く星間列車のようにも思えた。

 僕が最初に見たときよりも大きく強く、美しく夜空に輝いている。

「あれが、私の星……なんてすてきな」

 ステラも魅入っていた。今年最大の天体ショーと言われたこの景色、感動しないわけがない。しかも、星の軌道が変わって元々よりもっと大きくきれいに見えるのだから。

「まるで命が輝いているみたい、希望のきらめきのよう……」

 ステラが泣いていた。悲しい涙では無く、これはきっと感動の涙だ。

「きれい……、そっか、こんなにきれいだったのですね、私の星は」

「そうだよ。ステラの星は誰にでも自慢できる、とっても最高の星なんだ」

「私は、自分の星なのに、こんなにすてきな星なのに、だめだって思い込んでいました。こんなに美しい星で、星の民もあの中で今もあの星をよくしようと、あの星で楽しく生きようとしています。私の想いは、なんてひどい勘違いでしたでしょう」

 ステラはうっとりとすい星をながめている。自分の星をこんな風に外から見たことはもちろんないだろう。僕だってすい星から青い星を見たときは感動したんだから。

 そして、突然ステラは顔を覆って泣き出した。

「……私は、あんなすてきな星を、だめだと決めつけて、嫌いになって、星を落とそうとしてしまいました。なんということをしてしまったのでしょう……」

「ねえ、ステラ。すい星が好き?」

「もちろんです。目が覚めました。私はやっぱり、すい星トラウムを愛しています」

「星を落としたくないと思っている? 元の軌道に戻したいって思える?」

「はい、今は思えます。今までのすい星でよいのだと、あのままでいてほしいって」

 僕はにっこりと笑った。

「あのさ、僕らの星では、流れ星に三度同じことをお願いすると願いがかなうって言われてるんだ。ステラもやってみない?」

「ふふ、そういうのもいいですね。やってみます」

 ステラは目を閉じ、両手を組み合わせて星に祈った。

「私の星が、この青い星に落ちませんように。星が元の軌道で宇宙を駆ける、平和な世界でありますように」

 ステラがそう願ったとき、すい星が強く光り輝いた。

「え?」

 ステラが驚いている。それはそうだろう。

 光るだけじゃない、すい星が、違う向きに急に動き始めたのだから。

 きっと、星を観てるみんな驚いているだろうなあ。

「星太さん、あれは?」

「ステラの願いが星の石に届いたんだよ」

「そ、そんなわけは。だって、私はもう願いをかなえていて……」

「ステラはなんて祈ったんだっけ?」

「え……?『この星が私が思うように動けばいいのにと』」

「だよね。ステラの願いは星を落とすことじゃなかったんだ。願ったのは、自由に星を動かすことだったんだよ。だから、今ステラは星の軌道が元になるようにって祈ったから、そうなったんだと思うよ」

 ステラが目を見開いて驚いている。少し手も震えているようだ。

 僕は、ステラの手を優しく包んだ。

「星の石に届いたステラの願いは、星を落とすことじゃなくて自由に動かすこと。だから今ステラが心の底から思った動きに戻ったんじゃないかな」

 ステラが僕の顔をまっすぐ見ている。わあ近い。その可愛い顔で近いと照れるって。

「じゃあ、もう、星は落ちないんですか……?」

「うん、たぶんね。もう大丈夫だと思う。まあ、自由に軌道を変えられるからこれからも注意は必要だけど」

 どうも後半は聞こえていなかったみたいだ。感極まっている様子がはっきりわかる。

「ありがとうございます! 星太さん!」

 ステラが僕に抱きついてきた! あわわわわ。あのその、女の子とのこの距離感は、ちょっと、わわわわわわ。

 でも、僕もここは大事なところかなって、ステラを抱き返してみた。

 ステラは僕の胸の中で泣いていた。きっと泣きながら笑っていたのだろう。

 空を見上げる。

 たぶん、これまでで一番きれいなすい星が空を駆けていた。

 こうして、すい星トラウムの事件は星空とともに終わりを告げた。

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