05
夏休みに入ってすぐに約束通りお出かけをした。
大人がいてくれたのもあって移動時に問題は起きなかったし、ホテルの方も柚木さんのお母さん、
だけど夜になってから……。
「私だけ置いていこうとするなんてありえないからね?」
「そ、それならなんで朝の時点で付いてこないのよ」
「そんなのお仕事があったからさ。大体さ、心ちゃんのお母さんと仲良くなってなにがしたいんだよーもしかしてそれから本人を攻略しようとしているの?」
「いえ、たまたまそんな話になっただけよ。元々、早織さんも遠出をしたかったみたいで丁度よかったみたいよ?」
なにもしていないのにお礼を言われてしまって困ったぐらいだ。
お金も出すと言ってくれていたけどそこはなんとか頑張って断った、柚木家にいく度に引っかかってしまうようなことを増やしたくはないから。
「で、私は仲間外れ、と」
「朝にちゃんと言ったけどね」
それなのに「んー」とか「へー」としか答えなかったのが姉だ。
「あーあ、もう少し時期をずらしてくれたら私もちゃんと休みを取れて一緒にいけたのに」
「でも、限りなく少ないでしょう? そんな貴重なお休みを意地で消費してしまうのはもったいないわよ」
「意地を張っているのは真綾ちゃんだけどね。というわけではい、いまからご飯でも食べにいこうよ」
「まあ、それぐらいは付き合うわよ」
拗ねたままで終わってしまったらせっかくここまで来たのにもったいない状態で終わってしまう。
せめて少しはいいことがあってほしいから付き合うのだ。
もう夜ご飯を食べていてお腹がいっぱいだけど一緒にいるぐらいならね。
「ふんふふーん」
「楽しそうね」
「そりゃ、私からしたら真綾ちゃんがいてくれるだけで十分だからね」
「でも、本当は柚木さん達に会いたいでしょう?」
「だけど予約していないから、今日は車中泊さ」
行動力がありすぎるのもそれはそれで問題だ。
しかもそういうときに連絡はしないという徹底ぶり、その度に驚くことになる。
自分一人で急にお出かけしたとか、海外にいったとかならいいけど私のところに来るから大変だった。
「やっぱりこのまま連れ帰っちゃおうかな」
「お金を払っているからそれは嫌よ」
払ってもらっていても申し訳ないからできない、だから今回は我慢してもらうしかない。
「そのお金も後で払ってあげるからさ、ね、いいでしょ?」
「駄目」
「もういいっ、無理やり連れ帰るからっ」
そのまま走らせ続けることができない姉で数分も経過しない内に近くのファミリーレストランにいた。
「そもそもいいこともなにもできない私なのになにをそんなに気に入っているの? お世話になっているということならお母さん達にお礼をしてあげたらいいじゃない」
こういう時間を使って一緒にいてあげたらいい。
結婚なんかをしてしまったら出ていってしまうだろうから多分両親的にはそのなんてことはないけど楽しい時間を求めているはずなのだ。
幸い、仲はいいままだからまだいいけど家族仲によっては敵視すらされていた可能性もあったから怖かった。
「真綾ちゃんにだってお世話になっているけど」
「どこがよ、いまだって結局こっちがお世話になっているわけだけど」
「なんか可愛くなくなっちゃったよね」
「最初からそうじゃない、迷惑しかかけていないわ」
姉だからと優しくしすぎる必要はないのだ。
黙ってしまったからこちらも黙って飲み物を飲んでいると「スマホ貸して」と言われたから渡す。
「あれ、羽根ちゃんとは交換していないの?」
「そういえばそうね」
いまでも柚木さんに対しては少し厳しいところがあるからなにが目的で一緒にいるのかが分からない、見てきた感じで素直になれていないだけではなかったのだ。
まあ、そこは連絡先を交換しているかどうかに繋がってはいないけど、多分そこがはっきりしていったら変わっていくと思う。
もっとも、柚木さんに対して変わっていくだけで私はあんまり関係ないのが現実だ。
「あと、心ちゃんともあんまりやり取りしていないんだ?」
「ええ、あんまり使うことはないみたい」
「じゃあお姉ちゃんを仲間外れにしているわけじゃない……?」
「それはそうよ。というか、家族なのもあってお姉ちゃんと一緒にいる時間が一番多いわよ」
逆ではなくてよかったと思う。
家族とすら安定して一緒にいられなかったら嫌だ、外で上手くいっていなくても家で上手くいっていればなんとかやっていけるはずだから。
「それなら今回のこれは……無駄遣い?」
「ガソリンと時間の無駄遣いではあるわね。まあ……夜もちゃんとお姉ちゃんの顔が見られてよかったけど」
あとは同じ車内でも運転してくれているのが姉と早織さんの場合では全く違ってくる。
何故か助手席に座ることになったからいきはそこまで休まらなかった、気まずいわけではなかったけど。
「真綾ちゃん好きっ」
「でも、ちゃんと帰るからこれからはやめてね」
「うん、約束」
それからはばくばく食べている姉を飲み物を飲みながら見ていた。
今日はやたらとお腹が空いていたみたいで四千円近く使っていてすごかった。
「あの、早織さん」
「つーん」
昨夜からずっとこんな感じだった。
出るときは「いってらっしゃい、気を付けてね」なんて言ってくれていたぐらいで、逆に娘さんの方が「真綾は付き合いが悪い」と言葉で刺してきていたのにこれだ……。
「ま、普通は姉が来たからって抜けないわな」
「でも、ここまで来たのに無視も可哀想じゃない」
というか、早織さんが姉に似すぎているのだ。
相手をしなかったら拗ねるところ、まさかここにもいたとは。
「はぁ……結局シスコンかよ」
「いや、あなただって家族が急に来たら対応するでしょう?」
「急に来たりするほど興味を持たれていないからな」
「そ、そんなにマイナス発言をする必要はないでしょう」
ま、まあいい、もう家に向かって車を走らせている状態だから黙って待っておけばいい。
夏休みだから冷たいままでもなんとかなる、親子でずっと同じようならこのまま終わらせてしまえばいいだろう。
同じような状態になって無視をできるようになってから強く言うべきだ。
「ありがとうございました、それではこれで失礼します」
結局、姉にとってはいい結果に終わっても私達にとっては微妙な状態で終わった。
相手を微妙な気持ちにさせるぐらいなら最初からなかった方がよかったと思う、あとは今更になってもう少し待ってあげればよかったかなと後悔し始めているのだ。
「ただいま」
「真綾ちゃんおかえり!」
「お姉ちゃんはずっと元気ね」
似たような絡まれ方をするときはあるけど姉といられる方が落ち着く。
ずっとこのままでいいと思う、外では一人でもトラブルが起きなければそれでいい。
「そりゃあね――って、なにかあった?」
「いえ、家族以外とお出かけなんて滅多にしないから疲れてしまっただけよ」
「嘘だよね、昨日とは全然違うもん」
「いえ、家なら自分のペースでゆっくりできるからそこが違うのよ」
部屋に戻ってベッドに寝転ぶ。
一応確認をしてみてもメッセージが送られてきたりはしていなかったからスマホの電源を完全に落として目を閉じた。
「ばーんっ」
「お姉ちゃんといけばよかったわ」
「あ、やっぱりそうでしょ? 真綾ちゃんは私が大好きだもんね」」
「好きよ」
「え、あ、あれ……やっぱり今日は駄目みたいだね」
勝手に駄目だということにしないでほしいけど否定もしなかった。
そのままベッドに座った姉はこちらの頭を撫でてきたからその手を掴む。
「今日はお休みだからずっといてあげるよ、だから安心して」
「でも、休めないでしょうからお姉ちゃんがしたいように行動してちょうだい」
こういうときにこそいきたいところにいくとかすればいい。
というか、これでは自分勝手に行動しておきながら困ったときだけ姉を利用しているみたいで嫌だった。
もう既になるべく迷惑をかけないという自己ルールを破ってしまっていることになるのでそのことでもダメージを受けている状態で。
「だからこれだよ、丸一日とまではいかなくても半日以上は他の人に取られていて不満だったからね」
「それならどこかいきたいところとかない? 付き合うわよ」
「んー外では特にないかな、だから真綾ちゃんがいてくれればいいよ」
人のために動くくせに自分のためにはなにもさせないのが姉だった。
「あ、誰か邪魔をしに来たみたい」
「宅配便とかじゃなくて?」
「ないない、これはきっと心ちゃんだね」
代わりに出てくれるみたいだったので待っていると「心ちゃんのお母さんだった」と、しかもここまで連れてきてしまっていた……。
「えっと……さっきはごめんね?」
「いえ、気にしないでください」
どんな理由からであれ一人で来るのはすごいと思う。
「あと、加藤ちゃんが帰ってから羽根ちゃんもすぐに帰っちゃって……心も部屋に戻っちゃって寂しくてね」
「まだあの二人も話し始めたばかりですからね」
こちらもそうだからそんなメンバーで泊まることになったのは中々レアな気がした。
林間学校とか修学旅行みたいな強制力がなければどんなに明るい人達でも急にそんなことはしないはずだから。
「だから戻ってきてほしいの」
「でも、もうお姉……姉と過ごすと約束を――」
「それならいきましょう!」
姉が早織さんと一緒に過ごしたいから、そういう理由からだったらいいけど私のために動いていそうで微妙だった。
それと戻ってなにができるというのか、せめて数日ぐらいは時間が経過してからの方がみんな上手くやれるはずなのに。
「加藤先生いいんですか?」
「私のことはさやかと呼んでくださいっ、ささっ、いきましょう心ちゃんのお母さん!」
「それなら私のことも早織でいいですよ」
いやでも、二人で盛り上がっているいまの状態なら私が付いていかなくてもスルーしてもらえるかもしれない。
「敬語はやめてくださいよ」
「それなら早織さんもやめてくださいね。さ、真綾ちゃんもいくよ!」
結果はこれで笑うしかなかった。
姉と早織さんだけが楽しそうで早くも置いてけぼりだった。
「昨日のあれは冗談だったのに気づいたときには真綾がいなくてびっくりした」
「ごめんなさい、少し余裕がなかったのよ」
「お母さんが子どもみたいな絡み方をしたからだよね、ちゃんと注意しておくからこれからも来てね」
「え、心ちゃん結構お母さんに厳しいね?」
ここには早織さんだっているのに姉が言うように厳しかった。
「それは違うよ」とすぐにそんな彼女に抱き着いた早織さんだけどあくまで無表情で、
「事実だから仕方がない」
と言い切る。
「こら心、お母さんへの厳しさはともかくちゃんと敬語を使わないと駄目でしょ?」
「休日のさやかには必要ない、学校では加藤先生だから敬語を続けるけど」
「ご、ごめんなさいさやかさん」
「気にしなくていいですよ」
あ、結局この二人は名前で呼びながらも敬語を続けている。
まあ、早織さんは必要ないけど本人達がなにも言わないのでこちらも黙ったままだ。
「もう少し予定を遅らせてさやかも連れていくべきだった」
「そうでしょ!? 誰なのこんな最初の時期にいこうと言い出したのは!」
「そこにいるたまに子どもっぽくなるお母さん」
「あ、す、すみません……」
大人として疲れそうなことを先に終わらせたかったのだろう。
実際、それで彼女と羽根さんの願いは叶ったわけだから感謝こそすれというやつだ。
それを微妙な状態で終わらせてしまった自分からは目を逸らしつつ、うん、そういう大事なことを忘れてはならないと内で呟く。
「八月になってからだと結局いかないままで終わりそうだったので約束を守って七月の頭にしたんです、だけど心の言う通りさやかさんもいてくれた方が加藤ちゃん的にもよかったですよね……」
とはいえ、姉がいたらいたで普通に相手をしているだけでシスコンなどと言われていたかもしれないからほとんど変わっていなかったかもしれない。
結局疲れずに乗り切るにはもう少し仲良くなってからでないと駄目だったのだ。
「そもそもお母さんは私達に勝ったから守る必要なんかなかった」
「でも、加藤ちゃんが付き合ってくれるという話だったからわくわくしちゃって……」
「まあ、今度はみんなでいけばいいか」
あれだ、流石にお出かけをしたばかりですぐにいくことにはならなさそうだから勝手に不安になる必要はない。
そのときには早織さんとも上手くやれてきっと楽しい旅行になることだろうと片付ける。
「おお、心ちゃんは優しいねっ」
「さやかがいた方が真綾も安心できるから」
「うんうん、やっぱりまだお姉ちゃん大好きちゃんだからね」
「でも、今度さやかから貰う」
「ふっ、やれるものならやってみな」
いま変に意識を向けられても困るから縮まっておいた。
それとまた微妙な状態で終わらせたくないからなるべく早織さんに気づかれないように、
「あ、ちょっと暑いかな?」
「い、いえ、大丈夫です」
すぐにバレてしまったものの、既に寒いくらいの室内温度になっているためそちらでも動いてもらうわけにはいかなかった。
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