第171話

 後ろ手で部屋をロックし、廊下の奥に、ロジェは呼びかける。

「出て来いよ」

 起きたときからずっと感じていた気配。

 姿を現したコートにサングラスの男に、問いかける。

「なんの用だ」

「……コルネイユ氏に遣わされました」



 存外謙虚な口調で、男は答える。

「お嬢様に郊外の屋敷にお帰りいただきたいと。和解したいと仰せです。……こちらを手渡してほしいと」

 差し出された文書を受け取り、文面に目を通した直後、くしゃっと握り込む。

 思った通り。お前を許すとか、すべて水に流すとか、立場をはき違えた言葉のあとにただ一言、家に戻るようにという身勝手な要求。

 返答はしたためるまでもない。



「却下だな。プレヌは渡さない」

 端的に言うと、相手はしょげかえるように肩をすぼめた。

「コルネイユ様は、あなた様にもおいでいただきたいと、仰せでしたが……」

 ロジェは怪訝そうに目を細めた。

 この男を寄越したことからもわかるように、他人に金を握らせ娘を探るような家族だ。

 放っておくのは得策ではない。

 縁を切らせるぐらいの牽制も、必要かもしれない。

 男からコルネイユ家――プレヌの実家の住所を記したメモを、ロジェは受けとった。

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