第152話

「物語に出てくるようなヒーローには程遠くて。強くたくましいどころか、生まれもよくないし、多くの罪も冒してきたし」


「え?」


 プレヌは目をしばたたく。

 この人はなにを語り出すんだろう?


「過去の恋愛遍歴だって輝かしくもなんともなくて。一番とかじゃなくても好きになってくれたらみたいに、情けなく自分を安売りしかけたような、そういう人間がいたとして」


伏せたその目に見え隠れするのは、恐る恐る、扉の向こうを覗いてみるような、かすかな期待。



「それでもきみは友情に値するって、言ってくれるか」


 最後の一口のシャンパンも忘れるくらい、プレヌはあっけにとられる。

 呆れてしまったのだ。


「じゃぁ訊くけど」


「恋人に騙されて薬を混ぜられたあと、あなたどうしたの?」


 うっと、その瞳がすがめられる。


「そのまま飲み干して」

「告発は?」

「しなかった」

「なんで?」


 かすかに首をかしげた後、ロジェは応える。


「彼女の夢を壊すまねは、したくなかったし。それに」


「――そりゃ輝かしいあの人の夢に、自分が敵うわけないよなって思った」


「やっぱりね。理解不能すぎだわ」




 泣きたくて泣きたくて、いっそ笑えてくる。

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