第125話

「なに、なに、どういうこと?」

 部屋に戻る道すがら、無論、プレヌはロジェを質問攻めである。

「別にどうってことねーよ」

「ヴェッティーナ・ベルタンと知り合いなのにどうってことないわけないでしょ」

 ロジェの部屋の前で彼の前に回り込み、通せんぼする。

「彼女あなたに、『またすぐ』って言ってた」

「……」

 興奮に満ちた視線に観念したように、ロジェは肩を上下させる。

「三年前、マルセイユの港からパリに向かう途中、三等車両で行きあって」


「――歌手になるために田舎からでてくるとこだったあいつと」


「――まぁぁ!」


 ぐっとプレヌは両の拳を握った。

 テンションだだあがりだ。


「それじゃロジェは、歌姫の無名時代を知ってるの? そのあとも行き来があったってことよね?」


 拳をほどきぱしっと組み合わせて、うっとりと首をかしげる。

 気分は物語のプロローグ。タイトルは『歌姫の知られざる誕生秘話』

 プレヌの脳内の小劇場で晴れやかに垂れ幕が上がる。

 

「うん……ていうか、まぁ」


 眉根に皺を寄せたまま、ロジェが答えるまでは。


「一時期、つきあってた」


 プレヌの中で晴れやかに上がった垂れ幕が雷により、盛大な音を立てて舞台に落下した。

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