第109話

「らしくねーな。どうしたんだよ?」


 すとんと、投げられた乙女の身の横に腰を下ろすと、


「……通りを挟んだ大聖堂で、友達の結婚式とばったりいきあって」


 乙女はようやく枕から顔をあげ、苦しそうに何度か深呼吸すると、乱れた髪のままロジェの隣に腰かけた。


「幸せそうだったの。みんなに、祝福されて」


 打ちひしがれ、心なしか色素の薄い、アップルグリーン。

 かすかに震えるそれをロジェはじっと見つめる。


 察するものが、ないこともない。


 ロジェはぽんと、自らの膝を叩いた。


「よし」


 立ちあがり、プレヌを振り返りながら言う。


「セーヌ川にピクニックだ」


「……そんな気分じゃない」


 むくれてそっぽを向く頬を掴み、無理やりこちらを向かせる。


「くさってるときは、自然のある場所が一番なんだ」


 プレヌがかすかに顔を上げ、考えているそのあいだにもロジェはささっと、ピクニックとやらのの支度にかかってしまう。

 ダイニングに降りて行ったかと思うと、その手はあっという間にホットサンドだのバゲットだの飲み物だのを包んだバスケット用意して戻ってきてしまう。

 抵抗する間もないまま、半ば強引に、プレヌは彼に連れ出された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る