第38話 第五章 諦めなければ道は開ける。自分を信じる心、人間の可能性
第五章 諦めなければ道は開ける。自分を信じる心、人間の可能性
学園の廊下を牧野萌は歩いていた。知的に見える細い目つきと眼鏡を光らせ白のスーツを着ている。全身から凛とした雰囲気を香水のように振り撒いていた。
歩き続けていた彼女は理事長室の前で立ち止まる。
「学園長、牧野です。入ります」
彼女は返事を待たずドアノブを回して部屋に入り込んだ。
部屋には学園長である賢条が座っている。彼女の入室を笑顔で迎え入れる。
「いやー萌ちゃん、おはよお~」
朝の空気にゆるやかな声が溶けていく。賢条は柔和な笑みを牧野に向けるが反対に彼女は険しい。
「学園長、名前で呼ばないでくださいと以前から散々申し上げていますが」
「いやだってさ、やっぱり萌っていい名前だと思うんだけどなぁ。もったいないよせっかくの名前なんだし」
「通報します」
「ごめんごめん、冗談だよ冗談。もー、今日も牧野ちゃんは絶好調なんだから~」
剣呑な彼女の視線に微苦笑しながら賢条は佇まいを直す。
そんな賢条に牧野は軽く顔を振る。名前で呼ばれることに抵抗感を覚える彼女にとって毎度行われるやり取りには辟易する思いだが、気を取り直して表情に気合を入れる。
そして、本題を口にした。
「学園長、ジャッジメントの詳細をお持ちしました」
「進展かい?」
彼女の空気に合せるように賢条の表情も引き締まる。
「犯人は獅子王錬司。第一アークアカデミアに所属している生徒で今年の新入生です。ただし入学早々問題を起こし二か月の停学処分となっています。もともと素行に問題が見られる生徒だったようでその後の消息は掴めていません」
「彼のランクは?」
「それですが……」
賢条からのするどい質問に牧野は眉を寄せる。
「彼の能力ですが、念じたものを一ミリだけ動かす。ランクはFです。……解せません。ジャッジメントはランクB以上のはず。それがどうやって……」
隠ぺい力。そして対象を倒す破壊力。審判者(ジャッジメント)の特徴は多彩な能力だ、故にランクB以上だと思っていた牧野にしてみればキツネに摘ままれたような事実だ。
念じたものを一ミリだけ動かす。
使えない異能(アーク)だ。
実用性なし。
出来るはずがない。
不可能だ。
――そんな能力で、いったいどうやって戦ったのか。
「なるほど」
「学園長?」
しかし賢条は整然としていた。表情は固くこの問題をすぐさに解いていた。
「可能なのですが? このような使えない能力であれだけ様々な異能を発現することが」
「牧野」
「はっ」
名前を呼ばれ牧野は背筋を正す。
「異能において固定概念は捨てろ。我々が相手にしているのは現実の童話だ。東から昇る太陽もある」
「では彼がジャッジメントだと? どのようにしてランクC相当の異能を、それも複数発動したのですか? まさか複数異能(マルチアーク)ですか?」
「違うな」
「マルチアークでもないのにこれだけのことを?」
「可能だ。ただし理論上はな」
「理論上?」
「人の業ではない。しかし、もしそうだとしたら……」
眉を寄せる牧野をけれど賢条は無視した。それよりも考えるべきことは他にあると視線を斜め下に向ける。
ランクFでありながらハイランカーを幾度も倒した最強の最弱。
矛盾している。
破綻している。
けれど。だからこそ。
それは、『特別』なのだ。
「獅子王錬司。彼こそが鍵かもしれん。我々が求める扉を開く、――のな」
「鍵……」
「各学園の対応は?」
「第一に動きは見られません。第二アークアカデミアはそれどころではないでしょう」
「第一の動向には特に気を遣え。彼のデータが欲しい」
「了解です」
賢条はするどさを保ちつつそう告げ牧野は頷いた。
審判者(ジャッジメント)事件。この顛末を第三アークアカデミアのものにするために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます