第33話 俺は、特別(オリジナル)になるんだよぉお!

「エレメント・ロード!」


 信也はなんとか変身すると突風をかき消す。全身に受けていた強風が消え脱力するがすぐに気を引き締めた。


「待ってくれ錬司! 俺は、俺は!」


 言うか迷った。昔から抱いていた想いを伝えることを恥ずかしいと思う。それでもこの状況で、二人の戦いを止められるならいいと覚悟を決める。


 この二年間、抱いていた夢を。


「お前に憧れていたんだ! いつも諦めないお前に! だから、お前とは戦いたくないんだよ!」


 ずっと憧れていた。なにも出来ない自分にはいつだって錬司は輝いていた。何度も救われたし、教えられた。


 諦めなければ道は開ける。諦めない心、人間の可能性。


 そして思ったのだ。


 自分でも、いつかは錬司のような人間になりたいと。


「ハッ」


 しかし、その夢は本人によって笑われた。


「そんなんだから、お前は駄目なんだよ信也」


 錬司は右の手の平を胸の前で上に向けた。すると手の平の上でバチバチと火花が散っていたのだ。なにもない空間でなにが起こっているのか普通ならば分からないだろう。


 しかし信也には分かる。元素を極めた今の信也なら。


「嘘だろ……」


 エレメント・ロードの信也が見たもの。


 それは、錬司の手の平の上で粒子が高速で動き粒子同士が衝突しているものだった。粒子がぶつかり壊れる。それによって生まれる新たな粒子。


 反物質の生成。ランクCの芸当だ。


「俺は証明してみせる、俺自身を!」


 錬司は叫んだ。それに呼応するように小さな火花が増えていく。


 信也は再び放心状態へと陥っていた。憧れの人と戦うことも、そして、彼が行なっているめちゃくちゃも。


 姫宮は言っていた。獅子王錬司はランクFだと。しかしこれはなんだ? これのどこがランクF? 誰だって思うはずだ、ふざけるなと。信也も思った。


(ふざけんな、なんだそれ。ランクFが光学迷彩に音波の遮断、風向操作に果ては反物質の生成だと? 全部ランクC相当じゃねえか!)


 混乱していた。破綻していた。この男の所業に、アークホルダーの限界を超えた異能(アーク)に。


 分からない。どうしてそんなことが出来るのか。


 ――どうして、戦わなければならないのか。


 そんな信也に錬司は叫ぶ。


 己の想いを。信也もよく知っている彼の渇望を。


「俺は、特別(オリジナル)になるんだよぉお!」


 そして錬司は右手を信也に向けた。反物質を解き放ち物質と接触、結果生まれる膨大なエネルギーに指向性を持たせ信也を襲ったのだ。


 さきほどの突風など話にならない。空間が震撼した。床はひび割れ天井は震える。信也のみを狙い撃った爆発の奔流。


「うおおおおお!」


 信也はエレメント・ロードの力で前方に魔法陣の防壁を張った。青白い紋様はゆっくりと回りながら錬司の攻撃を防ぐ。その衝撃、身体が押され足が地面をすべる。防壁に全魔力を注ぐが防ぎきれない。


 ついに魔法陣が壊された。信也は爆発の波に吹き飛ばされ壁に衝突した。


「ごは!」


 背中から伝わる激痛。信也は床に倒れた。痛みに体が動かない。意識はまだあるのに、身体がまったく動いてくれない。


「錬司……どうして……」


 見上げる先、そこには錬司が立っている。錬司はゆっくりと歩き信也に近づいてきた。


 冷たい視線が、じっと信也を見下ろしてくる。


「悪いが信也、これは俺にとって必要なことだ。そのためにもお前は狩らせてもらう、ランクA」


 そう言って、錬司は信也に右手を向けた。


「くっ!」


 反撃しなければならないのに、身体が動かない。腕も足も動いてくれない。


 信也は頑張った。


 諦めなければ道は開けると。己を信じ、人間の可能性を信じてきた。


 しかし。


 錬司を前にして信也は――


(俺には、無理なのか……?)


 この時、諦めた。


「アンチに言い訳、パンチにガード。そしてピンチに姫宮パーンチ!」


 しかし、この場に声が響いた。


「なんだこいつ?」

「うわあああ! 避けられたぁあ!?」

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