第16話 ランク説明

 一枚の画像は路地裏、その壁がクレーンでぶつける鉄球にでも当てられたかのようにへこんでいる。他の画像ではコンクリートの地面が爆発でもあったかのように四散している。ほかにもさまざまな破壊の跡が映っていた。


 そして、画像の端々には被害者と思われる血痕があった。


「襲撃に遭った人物の証言では犯人は背丈一七五センチほどの少年。フードの付いたコートを目深に被っていたため顔は分からないそうです。ただ、この犯人のことをジャッジメント、そう呼ぶ噂が飛び交っているようですね」

「ジャッジメント?」


 信也は画像から顔を上げる。


「情報統制はしてるんだろ? どうして噂なんか。それにジャッジメントって?」

「アークアカデミア近辺に残された襲撃の現場、欠席している数人のハイランカー、これまでは隠せません。これらを結び付け噂が出来たのでしょう。審判者(ジャッジメント)についてですが、おそらくロウランカーの妬みが出所だと推測されます」

「妬み……」


 その言葉を聞いた時、信也はアークアカデミアに根付く暗い闇のようなものを感じ取った。


「この事件での犠牲者はハイランカーばかりです。普段は羨望の的でしょうが、裏では妬んでいる者も少なくないでしょう。ハイランクの優越に浸ったアークホルダーへの、これは審判だと、そうした願望の投影が名前の由来だと思われます」


 ハイランクを妬む者たち。


 それには心当たりがある。教室で人間の可能性を信じようと声をかけた信也を否定したのはハイランクだけじゃない。ランクAの信也を妬み、拒絶したのはランクが低い者も同じだ。


 信也は暗い表情になり牧野先生が一回咳払いする。


「それで犯人、ジャッジメントの特徴について共通する証言があります」

「それは?」

「犯人ですが、突然現れた、そして襲撃に周りの誰も気付かなかった、というものです」

「突然? 気づかなかった?」


 それはおかしい。画像を見る限りその痕跡は派手だ。これほどの衝撃が起きて誰も気づかないというのはおかしい。


「はい。音も気配もなく、突然現れいきなり攻撃を受けたとか。襲撃時の現場にはアカデミアの女生徒がすぐ近くのベンチに座っていたそうですが、破壊の物音すら聞かなかったと証言しています。これは別の事件ですが、攻撃を受けても犯人を見なかったという被害者もいます」

「なるほど……。たいしたスニーキング能力、いや、隠ぺい力だな」


 信也の中で疑問に固められた鍵ががちゃりと開く。


 いかに強力なランクB、ランクAの能力を持っていても能力を発動する前に不意打ちを受ければ倒される。奇襲が有効だとされる尤もな理由だ。


 もしかしたら異能対決をして負けた者もいるかもしれないが、もしそうだとしても、ハイランカーのプライドは奇襲で負けたと言うだろう。


「犯人がどのような異能(アーク)を持っているかは依然不明ですが、姿を消せる点に加えてこの破壊力。ランクB以上は確実でしょう。もしくは複数犯です」

「根拠は?」


 信也はそもそもランクの定義を知らない。なにを以てランクBと判断したのか分からない。


「そうですね、いい機会ですからランクの説明をしておきましょうか」


 それで牧野先生が察してくれたらしく、ランクの説明をしてくれた。


「ランクの定義ですが、ランクにはAからFまでのランクが設けられています。まずFからですが、これは能力的に実用性がないものをFとしています」


 信也は不謹慎ながらなるほどと胸中で頷いた。ランクFは役立たずだと心無い人間が言うわけだ。ちなみに姫宮のアークもこのFに該当する。


「次にランクEですが、これは実用性はあるものの比較的代用が容易なものがEとなります。私の知っているものですと指先から小さな火を灯せるものですとか、体温を調整できるものですね。前者はライターで代用可能ですし、後者は体を温めたいだけなら服を着ればこと済みます。そうしたものがランクEです」


 牧野先生からの説明が続いていく。ランクEというのは便利ではあるがわざわざ異能である必要がない、それくらいの能力だ。


「ランクDは肉体、一部の物体への作用になります。肉体への作用でしたら怪我や病気をすぐに治す超回復力。ほかには怪力など。また自分の肉体だけでなく相手の感情を感知したり記憶を書き換えるなどもこのランクDになります」


 肉体の作用というのは他人の肉体も含まれるということらしい。自分を強化したり相手を操る、そういったのがランクDになる。


「一部の物体への作用というのは言葉が難しいのですが、要はすべてではなく、それだけを出したり消したり出来る。それだけを巨大化したり変形できたりするものですね」


 牧野先生の話から信也が思い浮かべたのは、漫画やアニメの主人公がなにもない場所から自分の武器を取り出して戦ったり、魔法少女が変身して服装が変わる場面などだ。彼ら彼女らは自分の武器を取り出せたり変身は出来るが、すべての物質を空間転移できたり変形できるわけではない。あくまで一部なのだ。それがランクD。


「ランクCは物理の操作です。天候を操ったり光を使って映像を作ったりします」


 これは分かりやすい。物理法則の操作なら空気を操って風を作れるだろう。他にも炎を操るなどいろいろ思いつく。不良生徒であった田口のサンダーヘッドがランクCなのも納得だ。


「対照的にランクBが物理法則の超越となります。たとえば死者の蘇生などの新たな法則の創造、質量保存の法則やエントロピーなど物理的な限界の突破。こうしたものがランクBです」


 要は現実的には不可能なことを起こす力だ。これはとても強力だ。なにより危険とも言えるだろう。その危険性はランクAすらも超える可能性がある。ランクBの発現一つで世界が変わりかねない。


 そして。


 次のランク。それを牧野先生が口にした。

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