第14話 メスブタファイルその4:左近寺遥
2ーBに所属する隣のクラスの優等生メスブタ。
メガネ姿が印象的な眼鏡メスブタである。
黒髪のポニーテール。顔立ちや体型において特別語るところはない。街を歩けば普通にすれ違うくらいの痩せ型の美少女。付け加えるならば、どちらかと言えば地味で目立たない風貌をしているメスブタだ。眼鏡を掛けているからか、どこかクラス委員長のような雰囲気がある。そのくせ、シルバーのピアスでバチバチに耳を飾り、黒のチョーカーなんて洒落たものまでつけているのだから富が丘校生らしくオシャレには敏感なのだろう。緩く留めたシャツのリボン。ブレザーにカーディガンをレイヤードして、スカートの下には黒タイツを履いている。
教室の隅で少ない友人と静かにおしゃべりをするような人間で、ふとした空き時間に教科書を開いて勉強に励む学生の鑑でもある。そのため、学業の方も優秀らしく昨年、一年生の定期テストでは常に五位以内の成績を修めていたとか。ちなみに、一位をキープし続けたのは言うまでもなく日暮奈留であった。
簡単にまとめると、左近寺遥は良い子ちゃんの優等生。
ただし、このメスブタには奇妙な生態がふたつほどあった。
ひとつめ、左近寺遥の一人称は世にも珍しい「あっし」なのである。
そんなやついるの?
男ならまだしも、女の子で「あっし」なんて聞いたこともない。子供の頃、創作キャラにでも影響されてそれが染み付いてしまったのか、それとも親がいなせな口調の江戸っ子なのか。あまりに耳馴染みのない一人称に、初対面の人間は大抵面食らって冗談か何かだと勘違いし笑う。しかし彼女は「あっしはあっしですが?」とまじめ腐った顔と声で「なに言ってんだこいつ」と言わんばかりに自我を押し通す。そのことから察するに、我の強いメスブタであることは確かだ。
そんな特徴を持つものだから、眼鏡メスブタは友人から「あっしちゃん」と呼ばれ親しまれている。
彼女を取り囲む友人たちは気が弱そうだったり、大人しそうだったり、真面目な子が多い印象だ。困っていたり、悩んでいたり、嫌なことがあったとしても溜め込んでしまうタイプ。トイレに席を立って帰ってみれば、派手な女子グループが自席を占領していた。「どいて」と言えば良いのは分かっているけれど、何も言い出せずそこに立ち尽くしてしまう。そんな彼女たちに助けの手を差し伸べるのが眼鏡メスブタである。「あっしの友達と今からそこで話したいんすけど」とフォローを入れて、臆さず怯まず自分の意思をまっすぐ伝える強さを持っている。あっしちゃんは、地味子ちゃんグループのリーダーだった。
ふたつめ、左近寺遥の眼鏡は毎日変わる。百面相ならぬ、百眼鏡相だ。
眼鏡なんてそうそう変わるもんじゃないはずだ。一本買えば、それがヘタれるまで掛け続けるのが普通である。
けれど、眼鏡メスブタの場合は話が違うようで。
ある日は小さめの銀縁。ある日はビックサイズのリムレス。ある日はサーモント型のトゥルーグレーカラーレンズ。クラウンパンド型のべっこうに、ラウンド型の赤眼鏡。ボストンシェイプの黒縁。ウェリントン型のクリアフレーム。色も形も素材も大きさも、時にはレンズの色だって、毎日毎日ころころと変化する。いったい何本の眼鏡を持っているのやら。まるでランナウェイのように、彼女の鼻の上に登場する眼鏡が変化する。普段狭い交友関係の中で活動する眼鏡メスブタであるけれど、ひとたび、琴線に触れる眼鏡をかけし者が眼前に現れれば、知人であろうとなかろうと猪のごとき猛進で突撃し「どこで買ったんすか?」「なんでそれを選んだんすか?」「以前は何をかけてたんすか?」「ブランドは?」「製造は?」「歴史は?」「モデルは?」と矢継ぎ早に話しかける。一部から、眼鏡変態と恐れられるほど、その情熱のほどは大きい。
ラウンド型の赤眼鏡。
眼鏡メスブタはいつも通学鞄のアイウェアケースにそれを忍ばせている。おそらく、一番のお気に入りで、一番自分に似合っていると確信しているものなのだろう。翡翠の瞳に赤いフレームは補色の関係にあり両者がよく映える。顔馴染みもよく、大きめのサイズ感も彼女の魅力を大いに引き立てている。まさしく相棒といったところか。
メスブタは手塚に話しかける時、隣にいる時、必ずその眼鏡をかける。違う眼鏡をかけていたとしても、わざわざ彼のもとへ行く前に付け替える。そして、前髪を手櫛で整えながら、恥ずかしげに頬を染めるのだ。
笑われようとおかしな一人称を使い続け、控えめな友人のために矢面に立つ気概があり、かける眼鏡をコロコロと変化させて、興味のある分野には貪欲で恥知らずな姿を見せる。そんな、風変わりなメスブタも、手塚の前では花も恥じらう乙女な姿を見せる。それが眼鏡の変化からも感じられるというところが、いかにも眼鏡メスブタらしい。
さらなる深淵を覗くべく、メスブタの身辺調査に乗り出そうとしたのだが、グラサン柄シャツのイケメン兄ちゃんに「なにしてんのん?」と関西弁で詰められて以来、心臓の鼓動が天地を揺らし天地開闢のきっかけを作りそうになったもんで調査を中断せざるを得なくなった。
というわけで、メスブタファイルその4:左近寺遥の情報は以上とする。
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