第28話

 祐太郎がぐうすか眠っていることを良いことに、沙月は明日花とおしゃべりをすることにした。


 高校に入って二年間、沙月と明日花は同じクラスだったのだが、こうやって二人きりで話をするののは初めてである。


 ベンチにちょこんと腰を下ろしながらそわそわした様子の明日花。そんな彼女の元に近くの自販機で買ってきた缶コーヒーを持って歩み寄る沙月。


――そんなに怖がらなくてもいいのに……。


 別に沙月は明日花をとって食うつもりではない。が、明日花はときどきはわはわと言いながら怯えたようにちらちらと沙月に視線を食ってくる。


――それにしても可愛いなぁ……。


 なんというか明日花は男勝りに見えなくもないが、改め彼女を見ると本当に美人である。


 沙月自身もクラスメイトから可愛いと言われることはあるが、彼女は彼女なりに可愛く見られる努力をしている。


 が、明日花はあくまで自然体。特に化粧をしているわけでもないのに一目で可愛いと思えるような整った顔をしていた。


 そんな幼馴染みがいるというのにどうして祐太郎は彼女に惚れないのだろうか? それが沙月には不思議でならなかった。


「コーヒー飲めるよね?」

「う、うん……飲めるぞ……」


 そう言って明日花はポケットからがま口を取り出すがそれを手で制す。


「お話に誘ったのは私だしコーヒーぐらいは奢らせて?」

「い、いいのか?」

「まあそんなに高い物でもないし」

「ありがとう……」


 そう言って明日花はコーヒーを受け取るとプルタブを開けた。


 が、やっぱり沙月が気になる様子でちらちらはわはわと落ち着きがない。


「そろそろ落ち着こうか」

「え? はわわっ……ごめんなさい……」

「いいよ」

「で、話というのは?」


 と促されたので沙月は会話を開始する。が、いきなり本題を口にするのは明日花を混乱させかねないと思った彼女はジャブを打つことにする。


「鎌田くんと三宅さんって本当に仲が良いね。休みの日はいつも一緒に遊んでいるの?」

「そうだ…………い、いや、そうじゃなくて今日はたまたま……」

「別に気を遣わなくてもいいってば……。学校での仲の良さを見ていたら休日も一緒なんだろうなってわかるし」

「なんというかこれはその……腐れ縁で、私と祐太郎はあくまで幼馴染みでそれ以上でも異化でもないというか……」


 どうやら思っていた以上に明日花は気を遣っているようだ。自分と祐太郎が付き合っていると沙月に思われないような言い回しをしてくる。


 が、それは沙月に気を遣っているというよりは祐太郎に気を遣っているのだろうと沙月は思う。


 自分と祐太郎が付き合っていると思われれば、沙月と祐太郎との距離が開いてしまう。明日花はそんな心配をしているようだ。


「ねえ三宅さん」

「な、なんだ?」

「三宅さんって鎌田くんのことが好きなの?」

「はわわっ……」


 明日花は頬を真っ赤にしてから顔を手で覆う。


 わかりやすいというレベルではない。そのあまりにも露骨な明日花に思わず笑ってしまいそうになる。


「そりゃそうだよね。二人はずっと一緒だし」

「そ、それはその……ただの幼馴染みというか……」

「三宅さん、さすがにそんな顔をしてそんなことを言っても説得力ないよ」

「…………」


 祐太郎と揃いも揃って嘘が苦手である。それが二人の良いところなのだろうと沙月も思わないでもないが。


 しばらくなんて言えば良いのか困った様子の明日花だったが、彼女はおそるおそる沙月を見やると「そ、そういう吉田は……どうなんだ?」と尋ねてきた。


 不意なカウンターに沙月は少し面食らうも、こっちが先に聞いた以上答えないわけにはいかない。


「気にはなってたよ……」


 だから素直に答える。


「教室で鎌田くんと話すのは好きだし、表情も豊かで一緒にいたら楽しいと思う。それに良くも悪くも嘘がつけない素直な男の子だと思うし」

「た、確かに嘘は苦手だな……。でもそれなら」

「でも三宅さんと一緒にいる鎌田くんはもっと素直で素敵だと思うよ。鎌田くんが三宅さんに接するみたいに私に接してくれたら好きになってたと思う」

「わ、私に接するみたいに?」

「うん、三宅さんが羨ましいなって思うよ。だけど私にはきっと吉田くんはあんな風に接してくれない。だったら私にはもっと他に素敵な人がいるかなって」

「で、でも祐太郎は吉田のことが……」

「それはどうかなぁ」

「だ、だって祐太郎は吉田に告白したんだぞ?」


 確かに現に沙月は祐太郎に告白された。それは事実だしあのとき告白をした祐太郎に嘘偽りはなかったと思う。


 だけど。


「だけど鎌田くんは私と付き合ってしまったら、三宅さんとの時間が少なくなっちゃうことに気づいていないんじゃないかなぁ……」


 祐太郎にとって明日花は当たり前のように隣にいる存在なのだ。それが当たり前だからなくなることを想定していない。


「三宅さんの幼馴染みをこんな風に言うのは申し訳ないけれど、鎌田くんはバカだから……」

「それは私も同感だ」

「きっと鎌田くんは三宅さんがいなくなるまで気づけないんじゃないかなぁ……」

「私がいなくなるまで?」

「うん、失って初めて三宅さんの存在の大きさに気がつく……みたいな。三宅さんはモテるしそれが起きてもおかしくないのにね」

「私がモテるかはともかく……吉田の指摘には概ね賛同だ。祐太郎はバカというか鈍感すぎる……」


 と、そこで沙月は明日花へと視線を送る。


「ねえ三宅さん」

「な、なんだ?」

「私と二人で鎌田くんのお尻に火をつけない?」

「火をつけるっ!?」


 これはもうショック療法しかないのではないかと沙月は思わざるを得なかった。

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