第19話

 結局『闇病みYummy』には二時間ほど滞在し、店を出るころにはすっかり空は真っ暗になっていた。


 それと反比例するように街のネオンは光り輝いており、ただでさえいかがわしい通りがさらにいかがわしくなっている。


 いや、そんなことはどうでもいい。


 それよりも……。


「わ、悪い……祐太郎……」


 繁華街を自宅方向へと歩く俺の腕にしがみつきながら顔を真っ赤にしてふらふらと歩く女。


 明日花である。


 どうやら明日花はヤンデレを演じるという人生初の経験と、コンカフェという慣れない空間での緊張によって知恵熱を出したようだ。


 おでこに触れてみると少し熱いし、瞳も虚ろである。


「おい……本当に歩けるのか?」

「だ、大丈夫ぞ……」


 なんか日本語も変になってるし……。


 とりあえず友理奈さんに明日花を任せられた俺は、彼女を自宅へと送っていくことになったのだが、本当にたどり着けるのか彼女が心配である。


 かくいう俺も例のゲロ甘ドロドロスムージーのせいで少しお腹が重い。


 が、まあそれでも明日花と比べれば全然マシなので我慢する。


 ということでしがみついてくる明日花の体重の三分の一ぐらいを肩代わりしながら歩いていた俺だったが、住宅街についたところで「少し座っても良いか?」と尋ねられたのですぐそばの公園に入ることにした。


 昼間は幼稚園児や小学生で賑わう公園だが、今は誰もいない。いつも小学生がキックベースをしている大きな広場を突っ切ってその先のベンチに腰を下ろすと、明日花は肩に頭を乗せてきた。


「おいおい……本当に大丈夫か?」

「…………大丈夫ぞ……」


 やっぱり日本語変だし……。


 とりあえず今の俺は薬も持ち合わせいないので、しばらく彼女に肩を貸してやって少し落ち着くのを待つしかない。


 本当にヤバそうなら家から親を召喚して、彼女を車で自宅まで運んでもらおう。


 なんて不測の事態にそなえつつも、彼女の体調が回復するのを待つ。


 にしてもこの公園に来るのも久しぶりだな。


 毎日横を通るが、中に入るのはもう数年ぶりだ。昔は毎日のようにこの明日花と一緒にこの公園に来て一緒に遊んだっけか。


 なんて考えながら砂場を眺める。


 あの砂場ではよくおままごとをした。


 今でこそなかなかに男勝りなところのある明日花だったが、幼い頃はいっちょ前に女の子っぽい遊びもしていた。


 親に買って貰ったであろうケーキの型で砂のケーキを作って俺に食えと本気で強要してきたっけか。


 そんな明日花に食べるふりをしたら食べてないと真顔で見つめられて戦慄したのを思い出す。


 あの目はマジで子供心に怖かった……。


「まだ根に持ってるのか?」

「え?」

「砂場を見てたから、どうせままごとのことを思い出してたんだろ?」

「お前、いつの間に読心術を手に入れたんだよ……」

「やっぱりだ……」

「ってか無理に話さなくてもいいんだぞ。お前が落ち着くまでここにいてやるから目瞑ってろ」


 そう言って俺の肩にもたれ掛かる明日花を見やると、彼女はわずかに笑みを浮かべた。


「少しだけ気分が楽になってきた。もう少し夜風を浴びれば大丈夫だ」


 ということらしい。とりあえず会話できるレベルにはマシになったのであれば安心だ。


「なんだか今日は初めてのことばかりで疲れたぞ……」

「そうだな。俺もコンカフェなんて行ったの初めてだったし」

「けど……楽しかったぞ……」

「そうだな。いつもとは違う友理奈さんも見られたし新鮮だった」


 明日花もそうだが友理奈さんもなかなかの美人さんだ。友理奈さんがあんなヤンデレファッションで大学内にいたら男たちは黙っていない気がする。


「私はお姉ちゃんが羨ましい……」

「なんだよいきなり……」

「お姉ちゃんは私よりもずっと美人だし、私なんかよりもずっと女の子らしい」

「人には人の良さがあるんだし、あんまり気にすることじゃねえよ」


 明日花には明日花の魅力があるのだ。案外、明日花のような男勝りな女の子が好きな人も多いのだ。少なくともクラスで数人明日花に好意を寄せている男子を俺は知っている。


「でも私が一番羨ましいのは自分の気持ちをちゃんと伝えられるところだ」

「苦手なのか?」


 少なくとも俺には明日花がそういう風には見えない。


 俺の目には明日花は元気で誰にでもフランクに話しかけられる印象だ。


 まあ緊張するときはとことん緊張してポンコツ化するけど、それはそれで明日花の可愛いところだ。


「祐太郎……祐太郎とつるむようになって長いな」

「なんだよ今更」

「この公園を眺めていると色んなことを思い出す。ずっと祐太郎と一緒にいたんだなって思って……」

「そうだな」


 俺の幼い頃の記憶はそのほとんどが隣に明日花がいる。


 冷静に考えてみれば凄いことだ。


 と、そこで明日花は俺から頭を離すと俺を見上げて笑みを浮かべた。


「なあ、祐太郎」

「どうした?」


 そう尋ねてみるが明日花はしばらく何も答えずに俺を見つめていた。


「なんだよ……」

「私はこれからも祐太郎と仲良しでいたいぞ」


 そう言って明日花は俺の脇腹を肘でこづいてきた。


「なんだよ。あらたまって……」


 何を言い出すかと思ったら当たり前のことを口にする明日花。


「ってか体調は大丈夫なのか?」

「なんか昔を思い出してみたら元気が出たぞ」

「そっか。ま、まあ元気になったならなんでもいいや」


 なんかよくわからんが、元気に越したことはない。

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