第12話 フェラーリ

「ねぇ、あなた、このお金どうしましょ?」

 ジュリーが、一千万円の札束を竜一に見せた。

「そんな大金どうしたんだ」

 一千万円の札束に驚いた竜一が訊く。

「信長さんよ、彼が、当面、『これでしばらく住まわしてくれ。そのうち住むところを見つけるからな』だって」

「そんな大金どうやって作ったんだろ」

「どうも、刀を売ったみたいよ」

「へぇー、さすが織田信長、持ってる物が違うね」

 竜一は恐れ入る。

「感心している場合じゃないでしょ。どうするのよ。もらっといていいの?」

「いいんじゃないか。下手へたに返して怒らしたらやばいよ。それに、そもそも返す気なんてないだろ」

 竜一は、ジュリーの性格は分かっている。

 信長ら四人は、この平成にやって来て早や三ケ月になる。自分たちの立ち位置がだいぶん分かってきたのか、このところは妙な殺気さっきが消え街に馴染なじんできた。

 刀を売って入った金で、毎日出かけて何かを買ってくる。三人の男は、銀座のテーラーで一着百万円のスーツを仕立て決め込んでいる。帰蝶は、頭の先から足の先までシャネルで統一。岐阜弁ぎふべんを使うシャネラーおばはんは、銀座界隈ぎんざかいわいで名が売れ始めている。

「あの車が欲しいのう」

 信長は猛スピードでタクシーを抜いて行った車を指さした。

「お客さん、ありゃフェラーリだ。ちょいと高いよ」

 タクシーの運転手が言う。

「如何ほどじゃ?」

「そうですな、ピンからキリまでありやすが、安いもんで三千万ってところですかね……」

「では、一番高いのは如何いかがほどじゃ?」

「2億ってとこじゃないっすかね」

 タクシーの運転手は、あんなものは大金持ちの道楽で、大金持ちのバカ息子なんかが欲しがるもんで、自分たちには関わり合いの無い世界だというようなことを言った。

「大金持ちのバカ息子? それはわしではないか。その2億とやらを買うぞ」

 信長は、大真面目おおまじめに言った。

「しかし、2億となると、今は持ち合わせておりませぬが」

 蘭丸が口をはさむ。

「あるではないか。お前たちに命じて隠した宝が。あの武田、朝倉、浅井らから奪いし宝よ。あれを使おうぞ」

 本能寺の変の少し前、信長は、弥助と蘭丸に命じてお宝を隠しておいたのだ。

「で、お前たち、何処いずこに隠したのじゃ?」

 信長は隠し場所まで指定していない。抜けていることは否定できない。

「お宝は、小牧山こまきやま廃城跡はいじょうあとに隠しました」

 蘭丸が言うと、

「なるほど、よき場所じゃのう隠すには。お前たち、あの宝を持ち出してこい」

「ははー」

 命令された二人、困り果てた。小牧山までどうやって行くのか。どうやって運び出すのか。はたまた、未だあるかどうかも分からない。

「おたからかえ。わらわも探しに行くぞえ」

 帰蝶が乗ってきた。刀を売って手に入れた1億円も、このところの節操せっそうのない出費で心細くなっていたのだ。


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