第68話

黙って座ったままのあたしの上で環が口を噤んで。



後ろのドアが、怖いとでも言うかのようにおサラちゃんによって開かれる。




「ごめんね、幸来」



環が何かを言うより先に、ルイが謝った。



おサラちゃんは事務所に足を踏み入れた後俯かせていた顔を上げ、静かに首を横に振る。



「気にしないで、ルイ兄」





彼女は、ルイの妹で。


私たちは、彼女が知っている以上のルイの秘密を、知っているつもりだった。




おサラちゃんは時々、一瞬だけ覗かせる眸の色を押し殺すように隠して、ドアの向こうへ振り返る。



「多分、今市と乙姫が来る。さっき見えたから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る