第50話 エスピラール

 白い塔の庭園に、大きな螺旋を描きながらはるか天へとそびえたつ塔。


 エスピラール。


 真琴たちは、その根本に居た。

「そうだ、これを持っていて」

 パイロは、真琴に手渡した。

 それは、鍵だった。

「屋上の鍵だ。屋上の扉は、君が開けないとならない」

 そうなのかと、真琴は鍵を胸のポケットにしまった。


 真琴は、エスピラールに触れた。

 温かく柔らかかった。

 何でできているのだろう。


 パイロが、塔の壁に触れながら歩き出した。

 真琴たちは、パイロの後に続いた。


 その時、真琴は、誰かに呼ばれたような気がした。

 左右を確認したが分からなかった。

 また、声がした。

 どうやら、上から聞こえるようだ。

 塔を見上げる。

 何か黒いものが見えたような気がした。

 窓でもあるのだろうか、誰か下を見たのだろうか。

 よくわからない。

 視線を上から前に戻し進もうとした。

 何かが足に触れた。

 見てみると、先ほどパイロに貰った鍵だった。

 真琴は、あわてて胸のポケットを触る。

 鍵がない。落としたのか?

 真琴は、鍵を拾った。

 踏んでしまったのか、鍵に土が付いていた。

 土を払いポケットに入れなおした。


 真琴たちは、エスピラールに触りながら、一周した。

 一つの継ぎ目も見当たらない。

 パイロが、急に立ち止まった。


「ここだな」

と言い、コンコンと軽くノックすると塔に切れ目が出来、光が漏れる。

 人が通れるほどに切れめが開く。

「どうぞ」とパイロが手で中へと促す。

 真琴たちは、キョロキョロしながら中へと入る。

 最後のパイロが入ると、ゆっくりと切れめが閉じられた。


 エスピラールの中を明るかった。

 上を見ると図鑑で見た巻貝の中の様だ。

 螺旋階段が気の遠くなる程、天に続いていた。

 ところどころに窓のような開口部が設けられているようだ。


「これを上るんだ」と、パイロが先頭に階段を上った。

 しばらく、上がると小さな窓を見つけた。

 塔の中に灯りと空気を取り入れるものなのだろうか。

 真琴は、窓に向かって階段を駆け登った。

 窓は、真琴の顔の高さにあった。

 大きさは、身体を乗り出せるくらいの矩形だ。

 窓を覗き下をみると真琴たちがさっきまでいた広場が見えた。

 真琴は、また、階段を上がっていった。

 すると、また、窓があった。

 何周かに一つ、窓があるらしい。

 上に行くほど窓が段々大きくなっているような気がした。

 いや、気のせいじゃない大きくなっている。

 真琴は、何回目かの窓の前に立つと窓から顔を出してみた。

 心地よい風が髪を撫ぜた。

 真琴は深呼吸をして下を見た。


 真琴は、塔の根元に誰かいるのを見つけた。

「おおーい、おおーい、ここだよ」

 真琴は出来る限りの声で叫んでみた。

 下の人は、きょろきょろと左右を見ると、また、塔を触りはじめた。

 その時だった、窓の外に何か飛んでいた。

 すごい速さで、こちらに向かってくる。

「あれは?」

 目を凝らして見る。

 バルバルスだった。

 銀の塔で戦ったバルバルスだ。

 でも、羽が生えて飛んでいる。

「バルバルスだ!」

 真琴たちは、窓の外を見た。

 その時、真琴は窓に近づきすぎた。

 胸のポケットに入れていた鍵を外へ落としてしまった。

「あっ」真琴は、鍵を目で追った。

 下に居る人の近くに落ちて行った。

「おーい。鍵を拾ってくれ!」

 下の人が気付いたらしく、顔を上げた。

 その顔を見た時、真琴は、後ろに引っ張られ階段に尻餅をついた。

 引っ張っていたのは、パイロだった。

「あぶない!

 エスピラールの外に出るんじゃない。

 バルバルスに捕まる。

 中に居れば、奴らは手出しできない」


 確かに、羽の付いたバルバルスは、エスピラールに近づけないようだ。

 バリアでも張っているように、一定の距離から近づいてはいない。


「鍵を……鍵を落としたんだ」

 真琴は、パイロに訴えた。

「何を言ってる。鍵は君が持っている、上へ登ろう」

 真琴は、胸のポケットに手を当て取り出してみると土がついた鍵だった。

 拾った鍵?


「さあ、行こう」と、パイロ。

 真琴は、みんなに続いて階段を上った。

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