第38話 連れてきた訳

 真琴たちは、銀の塔に進入してから、緊張していて腹が減っていることに気付いていなかった。

 そこに出されたドウルケのチョコレートケーキの香り、一気に空腹を緊張を解いてお腹が鳴った。


 一番最初にチョコレートケーキの香りに気付いたのはウビークエだった。

 微かな微かなケーキの香りが、ウビークエの鼻腔をピクピクと痙攣させ、取り込み脳へと伝達したのだ。

 それが、きっかけでこのテーブルに着くことができたのだ。

 真琴たちはドウルケのチョコレートケーキを食べ満足していた。

 甘さも元気の元になる。

 頭もすっきりしてきたようだ。

 ただ、驚いたのは絢音も食欲だ。

 食いしん坊のウベークエもびっくりしていた。

「ケーキは、別腹なのよ」

 口を大きくあけケーキを喉に押し込む。


 周りは、驚くより引いていた。

 でも、コクウスとドウルケは、嬉しそうだ。


「ケーキは、このぐらいにしておいてほしい。

 もう一人、食べ物で紹介したい人が居るので」

 食べるのを抑える様にとノウムが言った。


 誰だろうと、コクウスとドウルケが、私たちにも紹介してくれるのかとノウムを見つめる。

 それに気づいたノウムは、おまえたちもだと頷いた。 


 ノウムは、真琴たちの様子を見て、そろそろかなと声を掛けた。

「満足できましたか?」

「ええ、とっても。美味しかったです」と真琴がお礼を述べる。


「ケーキのお礼は、ドウルケさんたちに言ってください。

 お腹も膨れたようなので、お話をしましょう。

 あなたたちは、なぜ、ここに来たのですか?」


「あの三人を早く返していただきたいのです」

 その問いに絢音が答えた。

 絢音は、つねに時間を気にしていたからだ。

 自分がこの世界にいつまで居られるかわからなかったからだ。

 老人が言ったように生き返る準備が知らないところで進んでいるはずなのだ。

 この身体があるうちに真琴を元の世界に戻さなくては。

 早く、早く戻りたいのだ。


 真琴が付け加える。

「そうです……オムネ城の人々は、彼らの料理を待っているのです。

 彼らに取っては、とても重要な人物なのです。

 訊いてもよろしいですか?なぜ、この三人をこちらへ……」

 真琴の問いに、ノウムが頷いた。


「私は、銀の塔の創造主から、彼らを連れてくるように言われただけなのです」

「銀の塔の創造主?」

「銀の塔の創造主は、ここに住む者をつくりました。

 私も創造主によってつくられたのです。

 だから、創造主の命令通りに行動しただけなのです」


「理由はわからないと……」真琴が突っ込む。


「そうです。私にはわかりません。

 なぜとも訊けません。私の創造主ですから。

 連れて来いと言う指示だけなので、創造主が返していいと言われるまで、ここに居ることになります」


「その創造主に訊いてもらえないでしょうか?」真琴が食い下がる。


「それはできないのです。

 立場が違いすぎるので、お伺いをすることは出来ないのです。

 それが、銀の塔のルールなのです」


 真琴たちはどうしょうかと顔を見合わせる。


「確かに彼らをここに連れてきました。

 御覧の通り、彼らの行動を規制しているだけです。

 苦痛を与えている訳ではないので、よろしいかと・・・・・・」

 ノウムは、話を続ける。

「創造主は、私に人間を知る様にと指示を出しています。

 人間は日々進化していて、生きた情報を仕入れよという事なのです。

 そのため、ここに来た人間の世話を仰せつかっているのです。

 あなたたちと話しやすい様にと人間に近いボディを与えてくれました」


 改めてノウムの姿を見る。

 性別を超えていた白いボディは神秘性を感じさせ、声は暖かく人間の耳の心地よかった。


「あなたたちの事を色々教えていただきたい……その前に私の事をお話しましょう」

 ノウムは、一旦、目を閉じた。何か考えているようだ。

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