第17話 案内人ウビークエ
真琴たちは、脇道に入り顔を見合わせた。
「お祭りみたいだ」
真琴が声をあげ、すぐに響介と絢音が頷く。
「そうだよ、お祭りだよ」
真琴たちの足元から声がした。
驚いて足元を見ると、そこに腰までの高さのウオンバットのような生き物がいた。
「なに!」絢音が思わずのけ反る。
「今日は、人間が創りだした三番目のお祭りなんだ」
ウオンバットは、真琴たちを見上げ得意そうにしゃべっている。
よく見ると、ウオンバットではなく毛皮をかぶった子どもだった。
「君はだれ?」
絢音は、しゃがんで子どもの視線に合わせると訊いた。
「僕?」
絢音が、子どもの目を見つめ「そうよ」頷いた。
「僕は、ウビークエって言うんだ。おねえちゃんは?」
絢音は、初めましてと挨拶をし、名前を告げた。
この子どもを改めてよく見た。
ウオンバットの被り物をした子どもで、鼻の横にネズミのような髭が左右に三本づつ生えていた。
「お前たち、この街は初めてだろ。おいらが教えてやるよ」
ウビークエは、右親指を顔の前でかざした。
そして、木の枝で足元に絵を描き始めた。
一通り書き終わると、準備はいいかと真琴たちを見上げた。
「この街は、ここのオムネ城を中心に造られているんだ。
道は、全てのこオムネ城に繋がっている」
絵の真ん中に城らしき絵が描かれていて、その周りを枝で丸くなぞった。
「オムネ城」真琴たちは、その名前を声に出し、思い出していた。
ここが、オムネ城だ。
「オムネ城には、何でもある。
書物や音楽や映像や創作物、人間の作ったモノなら何でもあるんだ。
集めるのがここに居る大人たちの仕事」
行ってみたいと真琴たちが顔を見回す。
ウビークエは、そんな表情をみてニヤリと笑った。
「行きたいだろ……案内するよ。暇で暇で退屈してたところなんだ」
と、大きく右手を振り、先頭に立って大通に向かった。
真琴たちは、ウビークエと一緒にオムネ城を目指す。
広場からオムネ城への道は、バザールが開かれていて、色とりどりのテントが張られていた。
人々は、個性的な店主と値段の交渉をし、商談が成立すると笑って握手をするのがならわしのようだ。
ネット通販や宅配により、人との接触が少なくなった真琴たちには新鮮に映り、何か大切なことを思い出させてくれる気がしていた。
人込みの中をウビークエの後を付いて行くのは、意外と大変だった。
モコモコのウオンバットの毛皮を着た子どもと似たような毛皮の服や帽子を身に着けている子どもも多く、バザールの店の品物に気を取られてしまうとアッという間に見失ってしまう。
絢音は、キラキラしたアクセサリーや服にはすぐ目を奪われウビークェだけでなく真琴や響介からも何度もおいて行かれそうになっていた。
だがそこは、響介の出番で、人々の頭ひとつ上の高さから捜索は完璧だった。
オムネ城に近づくにつれて、バザールはテントから回廊へと移って行った。
陳列されている品物は、段々ときらびやかになっていった。
ウビークエが、突き当たりの壁に向かって走って行った。
壁の前に行きつくと振り向き、こっち、こっちと手招きした。
真琴たちが向かう。
「着いたよ」ウビークエは、得意げに三人を見上げた。
でも、目の前は壁だった。
「どこだよ?」と、響介が呟く。
ウビークエが、上、上と右人差し指をたて上下させる。
真琴たちが見上げると、壁が遥か上空まで続いている。
いくつか窓らしきものが見える。
「これが、城なの?」絢音がしゃがんでウビークエの目を見つめた。
「そう」ウビークエは円満の笑顔。
「何処から入るんだ?」真琴が壁を触る。固くザラザラしたコンクリートみたいな手触りだ。
すると、ウビークエが壁を三回ノックした。
壁に大きな顔が現れた。
思わず三人は後ずさり、構える。
大丈夫だとウビークエは笑っている。
大きな顔の眼がゆっくりと開かれ、真琴たちを見つめた。
何が起こるのかと身構える三人。
「ようこそ!オムネ城へ」大きな顔がしゃべるり、口を大きく開けた。
人が通れるくらいに大きな口だった。
ウビークエが、さぁ行こうと三人に促し大きく開かれた口の中に入っていく。
真琴たちもウビークエの後に続いた。
オムネ城の中も、人で一杯だった。
渋谷の駅前の様に、込み入った場内を歩いていく。
真琴たちは奥へ進むと、円形のホールに出た。
壁には木製のドアが並んでいた。
ドアの上部には半円形の窓があり、金属板がはめられ数字が刻まれていた。
数字を針が指している。
ドアは金属製の蛇腹に囲まれていた。
真琴たちは、そのドアをじっと見ていた。
”1”に針が来るとチンと音を立て、木製のドアが開かれ、蛇腹が開かれると中から人が出てきた。
「これ、エレベーターよ」絢音が、声を上げる。
「エレベーター?」ウビークエが、目頭にシワをよせた。
「何ていうかな……、この箱が上に行ったり、下に行ったりするのよね」
絢音が説明するが、ウビークエは首をひねるだけだった。
「これに乗って、行きたいところに行けるんだ。
このドアの前で、行きたいところを考えればいいんだよ。
やってみるね」
ウビークエは、振り返りドアの方に向うと、手を上げた。
「イーレ!」呪文のような言葉を唱えると、目の前の格子とドアが開いた。
「さぁ、乗って、案内するよ」
ウビークエと中に乗り込んだ。
エレベーターらしき物の中でウビークエが話始めた。
「前にも言ったけど、人間の創ったものはここに集められるんだ。
書物や音楽や映像、何でもだ。
利用の仕方は、その部屋にいる者に訊いてみて」
大きな施設である図書の間、美術の間、音楽の間、視聴覚の間の四室に案内された。
この四室で事足りるだろうということだった。
ウビークエは、あっと言うと忘れていたと頭をポリポリ掻きながら、毛だらけのポシェットから小さな箱を取り出し真琴たちに渡した。
小さな箱の中には、直径一センチくらいの透明な半円が二個入っていた。
「眼に入れるんだ。部屋で映像が見れるのさ」
ウビークエは、早くつけてとピョンピョン跳ねた。
「コンタクト……」絢音が呟くと真琴と響介が頷いた。
真琴たちは目に入れてみた。
「これがあるとすごい便利なんだ」得意そうに言った。
ウビークエが、城の中を案内してくれる。
「何か見えるぞ」と響介。絢音と真琴が頷く。
眼の中に文字が見える。
部屋の名前だ。
「これ、デスプレィなの?」絢音が叫ぶ。
「便利でしょ。部屋の中に入ったら、必要に応じて映像が見れるんだ」
ウビークエが真琴たちを見上げる。
図書の間は、端が見えないくらいの大きな部屋だが、全て本で埋まっていた。
音楽の間は、様々な楽器が飾られていて、実際に触ることも使用することもできた。
美術の間は、様々な画材道具や手法を使った作品が並べられていた。
歴史的な音楽家の演奏などは、次に行く視聴覚の間で見ることができるそうだ。
憧れの音楽家の演奏が生に近い感じで味わうことができる。
視聴覚の間は、球体の部屋で真ん中で使用する。
先に述べた生演奏や、スポーツ、冒険さえも疑似体験することが出来る。
真琴たちの興奮が収まらない。
どこから手を付けていいかわからなかった。
「後は、個人で鑑賞してくれ。用事があれば、おいらの名前を呼んで」
「えっ、それで呼んでいるってわかるの?」
「わかるんだなこれが」
と、言うとウビークエは、立ち去ってしまった。
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