第15話 グベルナとウルペース

 真琴たちは、黒い大理石が引き詰められた部屋に目を見張る。


 部屋の中央には、背の高い玉座があった。

 背もたれに二匹の大蛇が絡まりあい天に昇っていく彫刻。

 誰も姿が見えなかった。


 コロニクスは、周りを見渡し誰かを探している。

 そして、声を張り上げた。


「グベルナ様、人間を連れてきました」


「今行くよ」と声がすると、玉座の後ろからキックボードに乗った子どもが現れた。

 真琴たちの周りをぐるっと一周して玉座の玉座の前に着くとキックボードから降り、玉座に座りなおした。

 一周している間は、真琴たちから目を放さなかった。

 栗色の髪の美形の子どもだった。


「ようこそ、白い塔へ。私がこの塔の管理者であるグベルナだ」

 そういうと真琴たちからメトセラに目を移した。

「久しぶりだな、メトセラ……なぜ、植物の王が人間と一緒に?人間なんて嫌いだろ」

 とニャッと笑いながらメトセラを見つめた。

「知っているの?」と、絢音が振り向いてメトセラの顔を見上げる。


「見ておかないとな、人間は何をしでかすかわからないからな」

「ああ、人間が何かしでかそうとしたら教えてくれ。

 メトセラ、もっと話そうこっちへこい」

 グベルナとメトセラは、奥に部屋に向かって行った。


 グベルナは、思い出したかのように、振り向いて真琴たちに目を向けた。

「お前たちの事は、爺さんに頼まれている。ウルペース、案内してやってくれ」


 ウルペースと呼ばれているであろう女性が玉座の後ろから現れた。

 白い狐の面をかぶっている。

 着ている白い衣は、うっすらと光っているようにも見えた。


「では、こちらへ」

 真琴たちが案内されたのは、玉座の右横にあるテーブルだった。

 そのテーブルは、直径二メートルの円卓で、砂のようなものが敷き詰めれれていた。

 絢音は、心理療法の箱庭を思い出した。

 ウルペースは、真琴たちの顔を見回し、準備は出来ている?これから話しますよと軽く頷いた。

「あなたたちが、居たのはここ」

 ウルペースが指刺すと砂のようなものが盛り上がり粘土細工のような地下鉄の入口が出来上がった。

 そこから、人形が三体出てきた。

「かわいい、これ、私たち」絢音が声をあげる。


「白い塔はここ、あなたたちは、ここに向かって来たの」

 円卓の中央に白い塔がそびえたった。

 三体の人形が白い塔に向かって動きだす。周りの森もジオラマの様に次々と円卓上に作られていく。

 真琴たちは、驚いて見るだけだ。

 途中から、人型の樹が現れ、四頭立ての馬車に乗ると、白い塔の下で止まった。

 馬車から人形が四体降りてくる。

「メトセラ?」

 絢音がちょっと大きめのピノッキオみたいな人形を見つけ指さす。


「今、私たちはここに居る」ウルペースはその白い塔を指さした。


「樹でもない、虫でもない、動物でもないモノたちの塔……

 これが、あなたたち、”人間の塔”です

 この塔は、人間が作り上げてきたもの全てが収集され管理されています。

 道具や絵や本、音楽。機械や武器、全てです。

 後で、案内しましようね」


「なぜ、収集しているのですか?」

 絢音は、知りたくてしょうがない。


「あなたたちを知るため。爺様の命令なのよ。

 私たちは、その管理するのが仕事」


「あの……、子どもも?」

 ウルペースは、わからなかったのねというように目を絢音に向けた。


「あの容姿だから、分からなかったのね。

 あのお方は、グベルナと言ってここの最高権利者よ。

 全て、あのお方が判断するの」


「……判断って?」

 ウルペースは、首を伸ばしキョロキョロと周りを見回すと、肩をすぼませ唇に人差し指をあてた。

 思わず真琴たちはウルペースに頭を近づけた。


 ウルペースは、静かな声で話始めた。

「存続させるかどうかってこと。

 この白い塔の周りに同じような塔があったでしょ」


「あの廃墟みたいな塔ですか?」

 真琴が眼がしらにシワを寄せる。


「そう、すべてあの方によって、廃棄された塔よ。

 あの方が、いらないとか、邪魔だか判断したら、なぜか、勝手に滅びるの。

 これ以上は、ダメってところまで行っちゃったから」


「この塔も廃棄されちゃう?」


「そうならないように、あなたたちが呼ばれたのかもね」

 真琴たちはお互いに顔を見回す。


「横に銀色の塔も出来てきたみたいだし」

「銀色の塔?」

「そう銀色の塔。この塔の横にいつの間にか出来たの。この塔のことも調べているわ」

 真琴たちは、銀色の塔は何だろうと顔を見渡す。


「外に行きましょう、見せたいものがあるわ」

 ウルペースは、重厚な扉の前で何か唱えると、ゆっくりと扉が開いた。

 そこは、庭園になっていた。

 真琴たちは、自然と庭園に惹きつけられた。


 庭園に踏み出し振り返ると、扉の両側には大きな門番の石像が立っていた。

 その後ろには、今まで居た塔があり、青い空に真っすぐ伸びていた。

 真琴たちはその塔を見上げる。


「この塔は、”エスピラール”と呼ばれ、再生の塔です」


「あなた方二人は、いずれこの塔の先端から生まれ変わるの」

 ウルペースは、絢音と響介を手を握った。

「下の階で海を見たでしょ。

 あそこから、生命の元が出てくるの。

 それが、この塔を昇って行って、エスピラールに集まるの。

 集められた生命の元を凝縮し、あなたたちが造られる」

 そうなんだと真琴たちは、エスピラールを見上げる。


「今日はこれまでにしましょう。好きな部屋で休んでください。では、明日」

 ウルペースが会釈をして塔の中に消えて行った。


「爺さんがこの世界の出口は白い塔の天辺って言ってたよな」

 真琴が二人の顔を見た。二人とも何か浮かない顔をしている。

「あっ、ゴメン。自分のことばかり考えて」

 真琴は、自分の事ばかり考えているのが恥ずかしくて下を向いた。


 心が落ち着いた真琴たちは、庭園を見て回ることにした。

 庭園の端まで行き、この世界を見渡す。


 大自然の中の古城のようだ。

 鮮やかな蒼い空だ。

 何処までも上空に広がっている。

 絢音は、空に白い微かな陰影の丸が浮かんでいるのに気付いた。

 夜から取り残された月だろうか。


「月かしら」

「そうだな、月だ。中で休もう」と、真琴が歩き始めた。


 絢音が振り向いて月を観る。

 違和感があった。

 いや、月じゃない……。ち、地球?

 そんなはずない。じゃ、ここはどこ?


 絢音の頭に月のイメージの単語が浮かんだが、口には出さなかった。

 言ってはいけない事に思えたからだった。

 絢音は、真琴たちの後を追って塔の中の戻って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る