呪われたもうじゃ達
氷百芽ウテハ
呪われたもうじゃ達
「………」
「そこに誰かいますか?」
「……あんた、目が見えないのか」
「迷っちまったのか?もうこんな時間だ。引き返した方がいい。なるべく早くな」
「ここは呪いの墓地だぜ。聞いたことはあるだろ」
「長居するようなとこじゃない」
「あの、ではあなたは……」
「ああ、俺はもうとっくに死んでるんだ。ここに埋められた一人だ」
「未練なんざ、残したつもりはなかったんだがな」
「蘇っちまった」
「そんな訳で、村まで送ってやるこたできねぇんだ 悪ぃな」
「とっとと帰りな……死人は生者に関わるもんじゃない」
「……静かな場所ですね。いいところ」
「少しだけ、ここにいてもいいですか?」
「あー、俺は構わんが、村の人間が心配するんじゃねえか?あんたには見えてないだろうがもうずいぶん暗いぞ」
「私には、もう帰る場所はないんです」
「……そうか。そりゃ悪いことを言ったな」
「いえ……」
「でも、あなたが生きている人でなくてよかった」
「……この病を移さないで済む………」
「それに、着いた場所が静かなお墓のある場所だなんて、きっと神様が導いてくれたのでしょうね」
「………」
「あんた、もう長くないのか」
「………」
「はぁ……神なんて、本当にいると思うか?」
「……おれは名誉のために戦ってなんの未練もなく死んだ」
「死者の蘇生は神の祝福なんて言われるが、おれが蘇って得たものは誇りのために死んでいった仲間達の墓と」
「それが呪いの墓地だって呼ばれてることを知っただけだった」
「これは呪いだ 祝福なんかじゃない」
「あんたもそうだ」
「おれが神だったら、あんたのような信心深い人間は幸せにしてやるけどな」
「……私も、最初は呪いだと思っていました」
「神様なんていないんだ、って」
「でも、私には見えない眼の代わりによく聞こえる耳があって、相手の心と直接話すこともできました」
「そのおかげで、私は最期に貴方と話すことができた。きっと貴方は、恐ろしい姿をしているのでしょう?」
「でも、私は今、誰かのために誇りを持って戦った勇敢な方と話しています」
「この呪いがなければ、こんな最期は迎えられなかった」
「……あー……やっぱり、おれには呪われていない人生の方が良かったんじゃないか、と思っちまうな」
「……だがまぁ、あんたがそういうならそうなんだろうな」
「……本当に、静かで素敵な場所」
「私が死んだら、貴方の埋まっていた所に埋めてくれませんか」
「貴方が蘇ったことで、私は誇り高いお墓で眠ることができる」
「貴方が戦ってくれたから、私はここまで生きて」
「ここで死ぬことが出来る」
「私の呪いと、貴方の呪いがあったから成せることです」
「呪われた貴方が私の死を祝福して、呪われた私が貴方の生を祝福する」
「ふふ、呪いのない世界より、素敵だと思いませんか?」
「……それは…ああ…いいかもな」
「呪い続けるよりは、いい」
「だが、お互い祝福しあうってんなら、あんたからもなにか形に残るものをくれよ」
「俺からは名誉ある死に場所やっからよ」
「それは…そうですね どうしましょう……」
「うーん……そうだな…」
「……帽子!」
「その帽子、俺にくれないか」
「死んだら、使わねぇだろ」
「もちろんいいですが、こんなもので本当にいいんですか?」
「おうよ、おれはつばの広い帽子が似合う男だったんだ。あんたに見せれねえのが残念だな」
「……それに、頭から祝福を浴びるってのは気分がいい そうだろ?」
「ふふ…貴方がそういうなら、そうなのでしょうね」
「ああ 大事にする」
「……ありがとう………貴方と話せて本当に良かった」
「俺もだ。この墓場に空いた穴を埋めてくれるやつがいるとは思ってなかったからな」
「………」
「……そうだ、あんたには見えてねぇんだったな」
「………」
「……今夜は月が綺麗だぜ」
「………」
「……ハッ 幸せそうな顔しやがって」
「あーあ 羨ましいぜ 全く」
呪われたもうじゃ達 氷百芽ウテハ @hitodome_uteha
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