第四十四話 永遠に

 第一階層から、月白つきしろ凛月りるを――いや月姫を見ていた。

 優しい眼差しで。

 月姫は桂城帝との婚姻の儀を終え、妃となっていた。

 優しい人たちに囲まれ、幸せそうだった。


 月白は複雑な思いを抱いていた。

 第一階層にいるのは誇りであり特権だと思っていた。

 しかし、自ら下の階層に降りたがる人がいる。

 その理由がこれまで全く理解出来なかった。しかし、月姫と桂城帝を見ていると、理由が分かるような気がした。


 月白は二人を目を細めながら見た。

 月姫たちを見ていると、月白の胸までなぜか温かくなるのだった。

 月白は二人に祝福を贈ることにした。


 ――幸せに。


 私にも、いつか第一階層を離れて、下の階層に行きたいと思う日が来るのだろうか。

 月白は自問し、それから苦笑した。

 こんなことを考えること自体、ばかげている。

 しかし、それくらい、第七階層にいる月姫と桂城帝は魅力的に映ったのだ。


 ずっと幸せに。

 どうか。


 月白もう一度、そう祈りを込めた。



 *



「ご懐妊です!」

 喜びが宮中を駆け巡った。

 

 姿を消したと思った月姫が再び現れ、桂城帝と正式に婚姻の儀を執り行った。

 そうしてほどなく、月姫はお腹に新しい命を宿したのだ。

 

「月姫!」

 桂城帝は月姫を強く抱き締めた。

「桂城帝、あたし、とても嬉しいです」

「ああ、私もだよ。ここに、私たちの赤子がいるんだね」

 桂城帝は月姫のお腹に手をそっと乗せた。

「ええ」

 月姫は桂城帝の手をそっと握った。


 月姫から、第一階層の記憶はほとんど消えていっていた。

 しかし、微かに残る意識から、妊娠したことを不可思議なものと感じていた。しかし、なぜ不可思議なものだと感じるかは分かっていなかった。


 あたしに赤ちゃんが出来るなんて。

 しかも、こんなに早く。


 月姫は朝扉と伊吹の赤子、凛子を思い浮かべた。

 早くこの腕に抱きたいと思った。

 そうして、愛で満たして育てるのだ。

 桂城帝と。


「身体を大事にするんだぞ」

 孝真が言う。

「そうよ、冷やしては駄目よ」

 淑子もそう言って、月姫を優しく見つめる。

 充真も蒼真も慶真も、優しい視線を送り「生まれるのが楽しみだ」と言う。


「お父さま、お母さま。それから、お兄さまたち」

 命の芽吹きの限りない愛情というものを月姫は嚙み締めた。


「わたくしたちがいるから、安心して生んで、そして育てるのよ」

 淑子がゆったりと言う。

「お母さま」

 今さらながら、淑子が三人の息子の母親であることを、月姫は思う。

「私も、もちろんおりますよ」

 朝扉がにっこりする。

「朝扉」

「失礼ながら、凛子ときょうだいのようにお育て出来れば、と思っています」

「嬉しいわ。よろしくね!」


 桂城帝とだけでなく、家族みんなで育てるのだ。

 月姫はお腹を撫でた。

 まだ、膨らんでもいない、平らなお腹。

 でも、いずれお腹は膨らみ、玉のように美しい赤子が生まれるのだろう。


「月姫。無理のないように」

「はい、桂城帝」

「早くこの子に会いたいものだ」


 愛は離れ離れになった二人を引き合わせ、そして、新しい命をもたらす。


「あたしも会いたい」

「ああ」

「ねえ。なんだか、ずっと幸せだなっていう気がするの」


「もちろんだ。ずっと一緒に幸せでいよう」





      了



 

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愛を知らないお姫さまが愛を知るまで~月光る姫の物語 西しまこ @nishi-shima

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