2-4 魔纏
「ところで春護。元々何かしらの用があって来たのではないのか? 遊びに来たのならば水花も一緒じゃろう」
「あっ、えーと……」
俺は少しだけ迷っていた。躊躇していたんだ。
突然襲ってきた少女、なの。彼女について聞きたくてここまで来た。だけど彼女はロロコの事を知っていた。つまりなのは彼女の関係者だって事になる。その上で所属はロロコの部下ではなく、どちらかといえば対等の立場である印象すらあった。
となれば彼女の所属は謎の組織。それもロロコが従えている少女隊などの勢力ではなく、上位組織と呼ぶべき場所なんじゃないか?
ロロコよりも上の立場っていうよりも、対等とか同格とか同期とか、そんな印象があったけれど、だとしても聞いて良いのか?
中々口を開かない俺に痺れを切らしたのか、ロロコはお猪口を置くと目を細め口元に手を当てた。
「ふむ、ワシ案件であろう内容だというのに躊躇するか。……ほう、ならば上の連中からの干渉かの?」
「——っ」
「カカッ素直な体じゃの! ククッ、やはりか。深刻そうには見えんが……変人が多いからの。それに気性が荒い奴も多い。何、遠慮する事はない。何でも聞くと良い」
ロロコには色々とバレバレみたいだな。やっぱりとんでもない人だ。見た目は子供だけど中身は経験豊富な大人なんだなって実感した。
「ヒントは多くあった。それに部下を遣すという話もあったからの。大方ソヤツからちょっかいを掛けられたか。オヌシはまあまあ有名人じゃからな」
「えっ、有名人ってどういう事!?」
「ワシにとって唯一の例外。上が気に掛けるのも当然の事じゃ。それに過激派どもにはワシに恋人が出来たのではないかと勘繰る阿呆も少なくない数心当たりがあるからの」
大の女好きであるロロコ。少女隊という美少女たちを従えている事からも見て取れる事実だ。そんな彼女が男を部下に迎えた。いや、俺って部下なのか? ロロコは恩人ではあるけど従っているつもりはないし。……師弟関係っていうのがしっくりくるかな。
まあ、どちらにしてもロロコの事を昔から知っている人たちにとっては衝撃的な事だったのかもしれないな。
「それで? 結局何があったのじゃ?」
何やらソワソワと楽しそうにしているロロコ。
そんな彼女に俺はわざとらしく笑顔を浮かべた。
「それが……まあ、襲撃されただけだけど?」
「そうかそうか襲撃されたか! ……襲撃じゃとっ!?」
楽しそうに手を叩いたかと思えば、身を乗り出して目を丸くするロロコ。
「うん。死ぬかと思った」
「……」
実際には手加減してくれているように感じたけどね。怒気は強く感じたけど、殺気は薄かったというか、脅しに近い感覚だった。
まあそうだとしても、俺を怒らせるために水花を狙った事は許せないけどな。
「それは……その、すまぬ」
「なんでロロコが謝るの? 別にロロコの部下がやった事じゃないでしょ?」
「そうだとしてもじゃ。ワシって結構上位者なのじゃぞ? 直属ではないにしても部下みたいなものじゃ。……ちなみにその者の名はわかるか?」
「なのって名乗ってたよ」
「……」
あれ。黙っちゃった。
どうやら聞き覚えのあるみたいだ。だけど……あれ? 動揺しているように見えた。
「春護。確認する」
「う、うん」
動揺を孕んだ声で問い掛けるロロコ。その目は真剣そのものだ。
「ソヤツはどんな格好をしていたのじゃ?」
「えーと、確か黒髪のボブカットで……そうそう、ミニスカのくノ一衣装だったよ」
彼女が来ていた服装を伝えた瞬間、ロロコの瞳が大きく揺れていた。
「……えーと、大丈夫?」
「大丈夫じゃ。しかし、ちと予想外の人物での」
「……問題なの?」
「わからん。本来であればあり得ない人選じゃ。なんせアヤツは女王直属部隊の新人エースじゃぞ? 何故……援軍だとしてもやり過ぎじゃ」
顔を手で覆いながら半分独り言のように話すロロコ。その動揺の深さは明らかだった。
だって、凄く気になる単語を漏らしていたから。
ねえロロコ。女王って何?
凄く気になるけど絶対に聞けない。聞いてはいけない。そんな気がした。
「——っ春護! 怪我はどうじゃ!」
ハッとしたように立ち上がると、目にも止まらぬ速度で接近し、俺の体をペタペタと触って確認するロロコ。
「ちょっ、大丈夫だって!」
「ほ、本当か? アヤツは男に対して遠慮がないところがあるからの。じゃが、そうか……流石に外で
「魔纏?」
「——っ聞き間違いじゃ」
目を丸くしているロロコ。誤魔化すにしても無理があるよ。
それに、多分俺はそれを知っている。
「魔力を束ねて纏う技術の事?」
「——っ! そうか……全く、アヤツは何を考えておるのじゃ」
やっぱりそうだ。それにこの反応。
実際にこの目で見た事ではあるけど、何かカラクリがあるのかもしれない。そう薄らと考えてもいた。だけどこれで確定だ。
魔力を束ね纏う事で魔力そのものを鎧のように扱う技術。それが[
ロロコの反応からして本来それは知られてはいけない技術。外の技なんだ。
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