10 初日の終わり

 襲いくる敵どもを残らず倒して周り、既にかなりの時間が経った。ポケットに入れていたスマホをタップして、調整された時計を確認する。


「もう四時間も経ってたようだね。そろそろ戻ろっか」


 今頃城では料理人たちが準備を始めている頃だろう。他生徒も充電を済ませたスマホを持っているため、それに合わせて帰るだろうし、このハードワークは初めてにしては少しきつすぎるはずだ。


 城の者たちが言っていた通り、この迷宮内は管理が行き届いており、帰り道を覚えておく必要はない。便利なもんだなと思いつつも、疲れた足を帰路に運んだ。


 いつも全生徒が食事をする食堂には、とうに戻っている者が多かった。だが、彼らの顔色はと言われると、決して明るいものではなく、やつれていたりぐったりしている生徒ばかりだ。


 見慣れた豪華な席に着き、さあ空かせた腹を満たそうとフォークを取った時、クラスのリーダーである光正義たちが姿を見せた。


 彼のチームは『称号持ち』とかなんとか召喚直後に言われて好待遇を受けた五人に、後に三人が加わり、八人のチームにできあがったはずだ。


 食堂のどんよりとした空気とは真逆に、彼らはなんともなかったように席に座り、会話を交えて食事を始めた。


 その様子から彼らは早い段階で、この迷宮でのレベル上げを行っていたのが読み取れた。


 暗い空気が支配する食堂に気づいているであろう光は、何度か目線をぐったりしている生徒たちに向けている。


 そして一番近いテーブルにいたオレたちのところまで歩いてきた。


「堂島くんたち、大丈夫?」


「いやまあ、俺はもう大丈夫だが…」


「そうか、暗馬は大丈夫だよね。沖野くんも問題なさそうな感じだね」


「うん、オレも大丈夫」


 暗馬との面識はオレの知る限りなかったはずだが、なぜか光は当然のように彼にそう言った。その様子に目を細めて光を見る。


 残る三木に視線を投げる彼は少し複雑そうな色を顔に出した。


「三木さん、初めてで相当怖かったよね。僕も最初足が震えて何もできなかったんだ。だから、そうなって当然だし無理して戦う必要はないよ」


「ひ、光くん…」


「たぶんこの国が必要としてるのは僕らのチームの力だ。だからもう一度言うけど、戦う必要もないし、安心して城の中にいるだけでもいい。勝手に呼び出されてこんなことさせるなんて酷いからさ」


 オレが説得を試みた時とは比べ物にならないほどに優しく、思い遣った言葉で彼女に語りかけている。これがモテてなんでもできる男の姿なのだとわかり、羨望の眼差しを思わず向けてしまう。


「あの、ありがとう光くん…」


「僕らが日本に戻る方法を探すよ。こっちに来れたってことは帰る方法も必ずあるはずだ。無理せず自分のペースで進んでいけばいい。三木さんには仲間もいる、彼らがきみを守ってくれるし、どんと構えておくべきだよ」


 仲間、その言葉を聞いてオレは少し心を痛める。三木はオレをチラリと見て、堂島に視線を移した。


「今日戦って勝ったのはきみの仲間なのを忘れないで。三木さんが思うより、ずっと頼りになるし、強いよ、彼らは」

 

「うん…光くん優しいね。ほんとに、ほんとに感謝だよ」


 そう言い残し、次のうなだれる生徒へと歩んで行った。

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