第十二話 シーチキンマヨお握り

 イツモの昼時、マコトは相変わらずオニギリを持って来ては、一緒に公衆便所の中で食べ合うレイとマコト。最近では買う飲料水を、アクエリアスからポカリスエットに変えたレイ。直感で、マコトはポカリスエットの方が好みじゃないか?と思ったレイ。思惑は見事に大当たり。先ず飲みっぷりがアクエリアスの時とは違う。自分が買った飲料水を美味しそうに飲むマコトが可愛く思う。抱き締めたい感情に駆られるレイ。

 マコトに会いたいが余り、無給でも良いから、週七日勤務にして欲しいと、会社にお願いして居るレイ。その願いが叶い、ほぼ毎日、マコトはオニギリを持って、レイの公衆便所にやって来ても、其処には必ずレイは居た。


 最近になって、マコトのお握りのレパートリーが増えた事に対して、チト疑問符のレイ。自分を喜ばせる為に作って居るので在れば良いのだが、若しかしたら、誰かの入れ知恵が在ったのデハ?特に登場が多くなったのが、シーチキンマヨお握り。確かに旨い。旨いのだが、何故ここに来て、高菜お握りでは無くて、手の凝ったシーチキンマヨお握りなのか?レイが偶にコンビニエンスストアーで購入する、シーチキンマヨお握りよりも味がチト上品な、マコトの握るシーチキンマヨお握り。まさかマコトは誰かの影響下に在るのか..?両親の自殺と、親戚から虐げられた過去を持つレイ。基本的に悲観的な性質を持って居るレイ。たかがシーチキンマヨお握り位で不安に感じるのか?自分で分かって居る。分かって居るのだが、疑いの念が消えないレイ。コレが若しも、簡単に作れる梅オニギリだったら、マダ合点がいく。絶対に出来合いのシーチキンマヨネーズを使って作って居ない、マコトの美味しいシーチキンマヨお握り。好意を抱いて居る相手が、ドンドンと自分の範疇をはみ出して、スクスク成長する姿を見ると、烈しい不安に襲われるレイ。

 (レイは、マコトちゃんから置いてけぼりになるのデハ..)

 イツモの無骨な形の高菜お握りで良かったレイ。満足出来たレイ。

 (自分はマコトちゃんの生きるスピードに遅れて居る..)

 ハッキリとマコトに、シーチキンマヨお握りの真相の程を聞いてみれば良いものの、傷付くのが怖くて聞けないレイ。たかがシーチキンマヨお握りなのに、何でコンナに不安を覚えるのだろう..?居酒屋で勤務するマコトが、同僚達からアダナで呼ばれて居る事に憤慨する気持ちと同じ位の嫉妬心。今までの人生には無かった、新しい感情。偉大なる嫉妬。

 今も公衆便所の中、和式便器の脇に立つレイの隣で、和式便器に跨っては、シーチキンマヨお握りを笑顔で頬張るマコト。愛おしい。声変わりのして居ないマコトの肉声。下手な音楽を聴くよりも、心地良さを感じるレイ。顎の部分に、米粒が付いて居る事を気付いて居ないマコト。可愛いらしい..。

 性別不明のマコト。然も名前だって、男性でも女性でも両方の解釈が出来るハイブリッドな名前。ア、それは自分も一緒か。名前はレイ。ほんのりと化粧をして居るレイ。声変わりのして居ない肉声。公衆便所の臭いに負けない位の、綺麗に整ったオカッパ頭から香って来る、シャンプーの仄かな良い香り。偶にチト大きめな楕円形の丸メガネが鼻からズレ落ちては、右手の甲で元の位置に戻すキュートな仕草。自分の性別は教えたくナイ。神秘性を大事にしたいレイ。と云うか、自分でも性別が分からないレイ。

 

「じゃあ、そろそろ時間だから行くね。」

 四個のシーチキンマヨお握りを半分に、二個ずつ分け合って食べたシーチキンマヨお握り。

 嘘だ。マコトは嘘をレイに吐いて居る。平日の今日、水曜日。本当は仕事が休みだったマコト。店長に頼み込んで仕事にして貰って居る。レイには何時でも休みを変えられると宣言したマコト。週末も含めた一週間、店にイツやって来るか分からないレイに会いたいが余り、身体にビシバシ鞭を打っては、週七日勤務を続けるマコト。レイの来店を心待ちにして居るマコト。お互いの気持ちが擦れ違う現実。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る