第47話

「奥様」



泣きそうな真鬼。



「ごめんね。心配かけちゃったわね」


「お元気になられたのなら良いんです」


「ありがとう」


「お風呂ですよね。すぐにお着替えを用意します」



優秀。


わたくしの侍女、優秀すぎないかしら。


一度頭を下げてから、衣装室へと向かう真鬼。



「奥様」


「多鬼」


「ご回復なにより。奥様の変な叫び声が聞こえないのは面白くないんッスよね」



ニヤニヤと笑って多鬼がそんなことを言う。


へぇ……。



「後でリハビリがてら釘バット振るから、よろしくね」


「何をッスか!?何を頼まれたんッスか俺はっ」


「ふふっ」



笑うと大袈裟なほど退かれた。


大袈裟ねぇ。



「多鬼。遊んでないで」


「遊んでないでないッスよ!!命がかかって」


「多鬼?刹鬼様がまだ話してらっしゃるでしょう?」



刹鬼様のお話しを遮るとは何事ですか。


そう言うと


涙目でお口にチャックをする多鬼。


脅しすぎたかしら。


そう思い、刹鬼様を見ると笑っておられました。



「笑ってないで助けてくださいよ、旦那様」


「俺は常に丁の味方だ」


「きゃっ」



刹鬼様ったら。


格好良すぎなのですがっ。



「わかってますよ、旦那様も風呂に入られるんですよね。着替え用意しときます。お風呂も沸いてます」



やっぱり多鬼も



「出来る鬼ね、多鬼」


「フッ。奥様、俺以上に出来る鬼なんてってぇ最後まで話しを聞いて下さいよ!!」



多鬼の話しもそこそこに刹鬼様がわたくしを抱き上げたまま歩きだす。



「刹鬼様も入られるのですか?」


「まだ、完全回復とまではいかないだろう?俺が洗ってやる」



妖艶に微笑む刹鬼様。


お風呂に一緒に入れるのは嬉しいのですがっ。


まだちょっと髪や体を洗われるのは恥ずかしいのですっ。



「自分で」


「ダメだ」


「その反応は旦那様を喜ばせるだけですよ、奥様」



笑って呟かれた多鬼の囁きは、言い合うわたくし達の耳に入ることはありませんでした。

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