第49話 サドに掛けられた賄賂の嫌疑
キラリが司の宮の執務室に駆け込んで来た。
「どうしたのですか?キラリらしくもなく、そんなに息せき切って~」
「司の宮様、大変です。サドが司法部の役人に連れて行かれました」
「何ですって。一体、何が有ったと言うのです」
「さぁ、詳しい事は分かりません。サドも寝耳に水の様で訳が分からない様子でした」
「直ぐに、宰相の下に行きます」
「そうですよね。フォックスロット(宰相)様は宮様の後見人に成って以来、司法部の長(おさ)に成って居ましたものね」
「キラリも着いて来て下さい」
「はい、お供します」
宰相の部屋では、司がいつもにもなく声高に事の真意を確かめるべくフォックスロットに詰め寄って居た。
「えっ、宰相、あなたでさえ真相が分からいのですか?」
「はい。ただ、サドには賄賂の嫌疑が掛けれて居るとだけしか~。まるで、降って湧いた様な話です。詳細を調べた後に宮様の下に覗いますから、それまで、待って居て下さい」
ここに来て、漸く、司は冷静さを取り戻した。
「ごめんなさい。宰相を責める様な態度を見せて仕舞いました」
「いいえ、長きに渡り宮様のお傍で使えて居たサドの事ですから、その心痛は察して居ります」
「そう言って頂けると、幾らか心が落ち着きました。くれぐれも頼みましたよ」
「はい」
「それにしても、何かしら胡散臭く感じずには居られません」
司は誰かしらの仕業では無いかと疑いを持った様である。
宰相は透かさず、
「もしかすると、左大臣が関わって居るのでは~」
「私もその様に思えて成りません。先ずは、私の足下を崩す気で居るのでは無いでしょうか。キラリ!」
「はい。調べてみます。それにしても、こんな時に新が居ないとは~」
司は遠くを見やって、
「今頃、どうして居るのでしょうか。あれから随分経った気がして居ます」
キラリとフォクスロットは司の寂しそうな顔を見逃さなかった。
ここはとキラリが司への慰めを口にした。
「宮様、ヒラリも一緒に居る事だし、何事も無く過ごして居る筈です」
続いて、フォクスロットが胸の内を明かした。
「そうですとも、恐らく、新は父上の後を引きづぐ気で居るに違い有りません。あぁ見えても、責任感は有る筈です。間もなくこちらに戻って来る事でしょう」
「『あぁ見えても』は余計では有りませんか」
司はフォクスロットを窘めている訳では無かった。
自分の含めて、浮足立って居るこの場の雰囲気を和らげかったのだ。
フォクスロットは表情を緩めて、
「つい、口が滑って仕舞いました。『あれでも』の方が良かったでしょうか?」
「まぁ、宰相たら、減らず口を言えるのですね」
司も打って変わって頬を緩めて居た。
司法部の長と雖も、最近、その職に就いたばかりのフォックスロット(宰相)である。
役所と云う所には、既存の勢力が幅を効かせて居る。
中には、数年で代わって仕舞う長など眼中に無いと云う輩もいる。
ここからは宰相、フォックスロットの腕の見せ所と成るだろう。
「では、こう云う事なんだな。司の宮様が新たに造る縫製工場の受注元からサドが賄賂を受け取って居ると、匿名の密告があった」
「左様でございます。それで、然(しか)るべく取り調べを始めたのです」
「それで、証拠が上がって来たのか?」
「はい。ここにサドと業者とが密かに交わした覚書が有ります」
「どれっ」
フォクスロットはその書類を手にした。
そこには事細かに、その経緯や取り決め、加えて、手渡した金額までが書かれて有った。
フォクスロットは首を捻った。
『これでは、これを基にサドを落とし込めようとして居るのが見え見えでは無いか。恐らくは、司の宮様を失脚させる手始めと言った所で有ろう』
問題はそこに書かれて居たサドの署名であつた。
別塔から持って来させた書類のサドの署名と照らし合わせてみると、寸分の違いも無かった。
これでは如何ともし難いと思わずには居られないフォックスロットであった。
夢物語~司の宮偏 クニ ヒロシ @kuni7534
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