第22話 右大臣の策略

 司に体よくあしらわれた右大臣は機嫌が悪かった。

 腹心のリネットは策士と呼べる人物だった。

 以前にも右大臣の為に良からぬ企てを持ち出した事が有った。

 今回も、右大臣の為に何やら思い付いたようである。


「ガボットさま、どうでしょうこの様な事を計って見ては?」

「ほう、何やら思い付いたのか?」

「先ずはガボットさまの胸の内を確かめとうございます」


「言わずと知れて居(お)る事だろう。あの司の宮をギャフンと言わせること。それに、八葉蓮華の小太刀を手に入れる事だ」

「やはり、そうでしたか。なら、一石二鳥の手立てが御座いますが・・・如何なされますか?」

「ほう、是非とも聞かせてくれ」


「少し手荒い事に成ろうかも知れませんが~」

「勿体ぶらないで話さんか、お前の悪い癖だな」

「申し訳ありません。

 では、・・・」


 リネットの策はこうであった。

 カヤ族に謀反の嫌疑を掛ける。

 無論、でっち上げである。

 軍事、警察権を手中に治めている右大臣にとっては容易い事で有る。

 

 その上で、嫌疑を晴らしたければ、右大臣ガボットを司の後見人にせよと言い

寄るのである。


 既に、皇子ユングベルトには左大臣ベンテージが後見人となって居た。

 後見人とは宮廷内に於ける後ろ盾の存在である。

 左大臣の娘マチルドは皇子の許嫁である。


 この事からも分かるように、後見人とその対象者の間には何らかの姻戚が保たれなければ成らなかった。


 司の後見人と成れば、彼女と養子、又は、婚姻関係と結ばねばならない事に成る。

 右大臣が選ぶとしたら、恐らく、司と婚姻関係を結ぶことに成るだろう。

となれば、この先の展望が開け、対峙して居る左大臣との均衡がとれ、おまけに、八葉蓮華の小太刀も手に入れることが出来る。


 リネットの案に右大臣は跳び付いた。

 年令には些か無理は有るが、そこはごり押しをすれば済む事で有る。

 司の容姿に異存が有る筈が無い。


 司にすれば、カヤ族のみならず我が身にも危険が及ぶ事と成る。

 現在の司の後ろ盾と言えば族長会議に席を置くカヤ族だけである。

 カヤ族が中央から追い出されれば、司の宮廷内で孤立して仕舞い兼ねない。

 


 右大臣ガボットは表立った妻子を持たなかった。

 それ自体が出世の足かせに成ると考えて居たからだ。

 極端な考え方だが、妻子の不祥事が身を滅ぼした例が無いとは言えない。


 右大臣は満悦の笑みを浮かべながら、

「小細工が必要だな」

「はい。それは私に任せて頂ければ、前回の様に上手く行くと心得ます」

「そうで在ったな。この前は皇帝をも巻き込んだが、今度はワシ一人での事と成る。くれぐれも、注意を怠る事が無いようにな。下手をすれば、この首も危うくなる」

「畏まって御座います」


 そうと決まれば、リネットの動きは早かった。

 密かに、カヤ族の中には手の者を潜らせてあった。

 先ずは、謀反に関する偽の計画書をカヤ族の屋敷内に忍ばせ、手の者からの告発をさせて捜査を開始するのである。


 事が露見した所で、司に詰め寄る事とる。

 見ようを変えれば、右大臣は手のひらで司を転ばす事となる。

 彼にとって、これほど心地良いことは無いだろう。



 足もとが危ぶまれる策略が動き出した事など夢にも思えずに居た司は、新を伴いマチルドの病室へと向かっていた。



 


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